スケルトンロードナイトって長いからスケさんでいい?
「ゆけ、スケルトンロードナイトよ!」
剣を持たせたスケルトンロードナイトは強かった。
討伐に出れば、魔物達をバッサバッサと斬り捨てていった。
その剣技の冴えは光井にも匹敵するレベルかもしれない。
生前からそれなりの剣士だったのか。はたまた俺の魔力がスケルトンロードナイトを超強化したのか。
いずれにせよ、俺達パーティの貴重な戦力となったのは間違いなかった。
「ふっ、さすがはわがネクロマンシーだ。お前達もいい加減に暗黒魔道士が最強であることを、認めてはどうだ?」
討伐が終わった帰り道、俺は今日の成果に満足して言った。
「凄いのはあの骨であって、あんたじゃないけどね」
案の定、赤江が何か言ってくるが無視だ。こいつが俺の成すことにケチをつけるのは、もはや風物詩となっていた。
戦力の増強に伴い、冒険での稼ぎも増加した。
スケルトンロードナイトの装備を整える際に消費したお金も、すぐに埋められそうだった。
*
そんなある日の夜……。
「マスター、マスター・ヴァルター・シャドウ……」
宿のベッドで眠る俺を、呼ぶ声が聞こえた。
「……何か呼んだか、光井?」
俺は隣のベッドにいた光井を呼んだが、返事はなかった。聞こえてくるのは、光井の寝息だけだ。
そもそも、今の声は俺をヴァルター・シャドウと呼んだ。遺憾ながら、光井は俺のことをハルタとしか呼ばない。というか、誰一人としてヴァルターと呼ばない。
……とすれば、空耳だろうか。
「マスター」
すると、声が聞こえた。空耳ではない。光井の声でもない。
声がしたほうに視線を向ければ、月明かりに照らされたその姿があらわになる。
「ぎにゃあああぁぁぁ! 骨が喋ったああぁ!」
俺は自分のキャラも忘れて、ベッドから転げ落ちた。
「どうした、ハルタ! 何かあったか!?」
目覚めた光井が問うてくる。
「それ、それ……!」
俺はうわ言のようにつぶやきながら、スケルトンロードナイトのほうを指差す。外に置いて問題になっては嫌なので、嫌がる光井を説得して部屋に置いておいたのだ。
すぐに廊下を駆けてくる足音。
「なんか凄い悲鳴が聞こえたんだけど……。もしかして佐藤?」
扉を開いて現れたのは、赤江だった。
「どうしたの、佐藤君?」
少し遅れて水戸も部屋に入ってくる。
「ス、スケルトンロードナイトが喋った……!」
「佐藤、本格的に頭おかしくなったの?」
「ち、違う!? 本当だ! 本当に喋ったんだ!」
「ちょっとやめてよ! あたしそういうの苦手なんだから!」
赤江はそう言いながら、スケルトンロードナイトへと近づいていく。
そうして、恐る恐るコンコンとその肩を叩いてみせた。
「――ほら、喋んないわよ。喋れるなら、なんか言ってみなさいよ」
「了解だぎゃ、アカネ殿」
声がした。
「きゃあああああぁぁぁ!」「ぎゃあああああぁぁぁ!」
赤江と俺の悲鳴が夜の宿に響き渡った。
*
「マスター、アカネ殿も落ち着くだぎゃ。マスターのレベルが上ったため、吾輩も意思疎通できるようになったのだぎゃ」
スケルトンロードナイトはわりと雄弁にそんなことを説明した。
ちょっと口調は間抜けだが、愛想もよい。
しばしの時間を経て、俺と赤江は状況を飲み込んだのだった。
「ふっ、そうか……。わが力の上昇に伴い、お前も力を増していたのだな。マスターとして喜ばしいぞ、スケルトンロードナイトよ」
「……今更、取り繕っても、『ぎにゃあ』とか悲鳴あげてた過去は消えないから」
「うるさい、貴様も大差なかろう」
「あ、あたしは女の子だからいいの」
「貴様が女の子だと……!? くくく……はっはっはっ! 面白い冗談だ!」
「……ぶち殺すぞ」
身の危険を感じた俺は口をつぐんだ。
「ねえ」
と、そこで口を開いたのは水戸だ。
「――スケルトンロードナイトって長いからスケさんでいい?」
マスターの俺ではなく、スケルトンロードナイトに向かって尋ねた。
「ふん、何を馬鹿なことを。その名にかけて黄門様でも気取るつもりか? つまらん冗談だな」
俺は鼻で笑い飛ばした。水戸と黄門とスケさん……内心ではちょっと面白いと思ったのは秘密だ。
だが――
「いいだぎゃよ」
スケルトンロードナイトはあっさりと認めた。
「いいのかよ!」
「愛称はウェルカムだぎゃ。今後はみんなと仲良くしたいだぎゃからね」
「わあ~、ありがとう! よろしくね、スケさん!」
水戸は嬉しそうにスケルトンロードナイトへと手を伸ばした。
対するスケルトンロードナイトも、それに対して握手を返す。
手袋越しとはいえ、水戸の奴よくやれるな……。
「シズカ殿、よろしくだぎゃ!」
「そう言えば、私達の名前知ってるんだ」
「意思疎通はできずとも、復活してからの記憶はあるだぎゃよ。ヨーイチ殿とアカネ殿も、よろしくだぎゃ」
「お、おう……」
「なんか、調子狂うわね」
光井と赤江も困惑気味に軽く握手を交わした。
「うーん、でも、こうして見ると一気に怖さがなくなったな」
「ほんとよね。なんか、愛嬌があるっていうか……」
「なんかかわいいかも」
「シズカ殿、かわいいだなんて……。吾輩照れるだぎゃよ、でへへ……」
スケルトンロードナイトは実際に照れたような仕草で頭をかく。
「な、馴れ合いやがって……!」
こいつ、ひょっとして俺よりパーティに馴染んでるんじゃ……。そんな俺の胸中を見透かしたように、スケルトンロードナイトは口を開く。
「マスター。マスターも、もっと仲間達と打ち解けるべきだぎゃよ」
「貴様、しもべの分際で俺に説教するか!?」
「何を言ってるだぎゃか? 吾輩はマスターのためを思って言ってるだぎゃよ」
スケルトンロードナイトは達観した調子で言い放った。
「だ、黙れ! スケルトンロードナイト! 俺はマスターだぞ!」
「吾輩はスケさんだぎゃ。その名前は長いから好みじゃないだぎゃよ」
「こ……好みじゃない……だと!? どう考えてもこっちのほうがカッコいいだろうが!?」
「そう思ってるのはマスターだけだぎゃよ。お二人はどう思うだぎゃか?」
と、スケルトンロードナイトは光井と赤江に視線を向ける。
「そうだな。カッコいいかは置いておくとして、短いほうが助かるな」
「あたしもスケさんでいいよ。大体、本人が気に入ってるんだし」
「四対一で決まりだぎゃ。マスターの意見は否決されただぎゃ」
「な、なぜこうなる!? 俺はマスターなんだぞ……!?」
「あはは! 下剋上ってヤツね。諦めなさいよ、佐藤」
そうして、スケルトンロードナイトはスケさんへと名を改めた。
しばらくの間、俺は抵抗を続けて元の名で呼び続けたが、当人(当骨?)に無視されるなどの塩対応を受けた。
結局は俺も、スケさんの呼称を受け入れざるを得なかった。