暗黒魔道士に常識を説く奴がいるとはな!
俺はスケルトンロードナイトを引き連れながら、町へと引き返した。
不死身の兵士とはいえ、武器がなければ戦えない。そのためにも、町の武器屋を訪れる必要があったのだ。
他の三人は遠巻きにこちらを追ってくる。特に赤江は、露骨にスケルトンロードナイトから距離を取っていた。
「ねえ、ヨーイチ。このままだと、あいつ本当に行っちゃうけど?」
「仕方ないだろ。言っても聞かないんだから」
「もう、誰も佐藤君を止められないのかな……」
「すまない二人とも……。だけど、俺にとってハルタは今でも友達なんだ。放ってはおけない」
「あんたも苦労人よね……。なんか、あたしまで泣きそうになってくるわ」
「まあでも、私達には無理でも、さすがに町には入れないと思うよ」
「だわね、それに期待するしかないか」
三人が好き放題に言っていたが、顧みる俺ではなかった。
*
町が間近に迫ってくる。いよいよ、俺のスケルトンロードナイトが武器を手にする時が近づいてきたのだ。
さすがに武器もないようでは、ナイトは名乗れないからな。
ところが、そんな俺達に予想だにしない事態が降りかかった。
「ちょっと待て」
なんと、町の入口で門番に呼び止められたのだ。既に何度もこの町を出入りしているが、始めてのことだった。
「何用だ?」
「何用だって、言わなくても分かるでしょ。君、なに連れちゃってんのさ」
「スケルトンロードナイトだ」
「いや、そういうことじゃなくてね」
「俺は暗黒魔道士だ。死体を操るなど造作もない」
「あのさあ、世の中色んな職業があるのは知ってるよ。けどだからって、そんなの連れて入ったら大騒ぎになるよ。常識で考えなよ」
「常識だと……。くくく、はははははっ! まさか、暗黒魔道士に常識を説く奴がいるとはな!」
「いや、高笑いして誤魔化してもダメだからね。それ外に捨ててきなさい。なるべく、人目につかないところでね」
「くっ……門番風情がこのヴァルター・シャドウに意見するか!」
「そういう言い方、職業差別だよ。感心しないね」
問答は続いたが、門番が折れることはついぞなかった。
*
「クソ……。まさか、こんなところで足止めを食うとはな。なんて頑迷な門番だ」
「まさかもなにも、俺達は散々止めたんだが……」
「まったく、ここまでアホだとは思わなかったわ」
「佐藤君。ごめん……さすがに恥ずかしい」
遠巻きに様子を眺めていた三人が、それぞれ反応する。
やむなく、俺はスケルトンロードナイトを町の外の人気のない場所へと誘導せざるを得なかった。
「だが、俺はこれしきで挫けん。まだ手は残っている」
「まだやるのかよ……。ハルタ、お前どうしてそんなになっちゃったんだ……。昔のお前は地味で目立たないけど、いい奴だっただろ……」
「そうよ、もういいでしょ! あたし、もう見てらんない! 隣の席にいた時、根暗ってからかったのは謝るから!」
「佐藤君、もうやめようよ。門番さんにも迷惑だよ。昔の佐藤君は影が薄くても、人に迷惑をかけるような子じゃなかったよ……」
三人が泣きそうな顔でそんなことをわめく。
ちょっとだけ罪悪感がうずいた。
だが――あえて俺はそれを断ち切る!
「ふっ、貴様らはまだそんな過去にとらわれているのか。お前達の知る佐藤春太は死んだ! 俺はスケルトンロードナイトを町の中に入れるためならば、手段は選ばん!」
そうして、俺は計画を実行に移すのだった。
*
「完璧だ……」
俺はスケルトンロードナイトの全身を、恍惚と眺めていた。
下半身は靴、靴下、長ズボン。胴体は長袖と手袋。頭には帽子と包帯に仮面。その他、首などの隙間も包帯で覆ってある。
どこからどう見ても不審な点はない。
「どこからどう見ても不審じゃん! さすがにさっきよりはマシになったけどさ」
赤江が冷ややかに言い捨てた。
「ハルタ。俺達、次の町に行くための費用を貯めてるんだぞ。それを忘れないでくれよ」
「心配するな、光井陽一。これはスケルトンロードナイトを強化するための投資だ。旅立ちは多少遅れるが、それを考えれば高い買い物ではなかろう」
釘を刺してくる光井に、俺は堂々と言い返した。
「ねえ、佐藤君」
と、口を開いたのは水戸だ。
「――今更だけどさ、その骨の人は外に置いといて、武器だけを私達が届ければよかったんじゃないの?」
「あっ……!?」
……その手があったか!?
だが、今更方針を覆すのは、暗黒道ではない。何とかして言い訳せねば。
「――ほう、そこに気づくとは……さすがは水戸静香と言わねばならん。だが、町中で敵と遭遇する事態も可能性としては排除できん。そう、お前達を俺が助けた時のようにな。それに鑑みれば、スケルトンロードナイトを町中へ入れることにも意味があろう」
「……さっき『あっ』って言ったのはなに?」
赤江の指摘を、俺は鼻で笑い飛ばした。
「ふっ……。いずれにせよ、もはや計画は止められん。再び町の門に挑むまでだ」
三人はこれ見よがしに溜息をつくのだった。
*
そうして、俺は再び町の門を訪れた。
隣にはもちろん、全身を隠したスケルトンロードナイトを伴っている。
ところが――
「ちょっと、君!」
門番は再び俺を呼び止めた。
なぜだ!? 俺の隙のない作戦がまさか看破されたのか?
いや、まだそうと決まったわけではない。
「なんだ?」
俺は努めて平常心で応じた。
「その中身、さっきの骨でしょ! 困るなあ」
くっ……。やはり、看過されていたか。だが、まだ交渉は終わりではない。
「ほう、そこに気づくとは……。貴様、ただの門番ではないな」
「ただの門番だけど普通に気づくよ! 服装一式を外に運び込むところから、全部見てたからね!」
「だが、これなら市民が怖がることもあるまい」
俺はスケルトンロードナイトの服装を指さした。
「――貴様は見た目が少々不審だからというだけで、入場を拒否するのか? それこそ差別ではないのか?」
門番は腕を組み、しばし悩んでいたが……。
「う~ん、まあ仮面と包帯ぐらいなら文句はつけれないか……。多めに見てあげてもいいけどさあ、くれぐれも騒ぎは起こさないでよ。場合によっては、僕の責任になるからね」
「ほう……。貴様、門番にしては話が分かるじゃないか。門番風情と言ったことは謝罪しよう」
「ああ、そりゃどうも。もう一度言うけど、くれぐれも騒ぎは起こさないでね」
門番は念押しすると、俺達を町へと通したのだった。
*
「本当にうまくいくとはな……」
光井が驚愕に目を見開き、スケルトンロードナイトを凝視していた。
「ふっ、俺の作戦を見て、門番も折れざるを得なくなったようだな」
「私には、面倒で諦めたようにしか見えなかったよ……」
「やるほうもやるほうだけど、通すほうも通すほうよね」
勝ち誇る俺を、水戸と赤江が白けた目で見ていた。