不遇ジョブってレベルじゃねえぞ!
俺は復讐のため、光井達三人を付け回して森に来ていた。
奴らは俺と同じく、冒険者として生計を立てているようだ。そして三人とも、俺と同じくこの世界では職業に就いているらしい。
もっとも、連中もギルドにいたのだから、さして驚くことではない。
俺の復讐計画は単純。
三人の冒険中に隙を見つけ、ダークブリンガーを叩き込むのだ。
さすれば奴らは暗闇の中で恐怖し、混乱するだろう。
わが計略に陥った奴らを眺めながら、俺は高みの見物を決め込む。
そうなれば、精神的優位は得られたも同然。俺は奴らの上位に立てるのだ。
シンプルにして完成された作戦であろう。
そのためにも、俺は木陰に隠れながら、奴らが冒険する姿を根気強く監視し続けた。
その過程で分かったことがある。
奴らは半端なく手強い。
予想の範疇ではあったが、赤江は武闘家だ。
あの時に見せた身体能力で魔物達を殴り飛ばし、蹴り飛ばしていく。一撃を喰らった魔物はまず確実に起き上がってこない。
攻撃力が高いだけでなく、異様に素早いのも驚異だ。
恐らく、オリンピックに出れば金メダルは余裕だろう。俺がダークオーラで強化したぐらいでは、太刀打ちできるはずもない。
次に白いローブを着込んだ水戸。
予想では回復系の魔法職かと推測していた。……が、実際は攻撃と回復、両方の魔法を使いこなす賢者のようだ。
杖先から放たれた炎は、屈強な魔物達をもまとめて焼き払う。
かと思えば、防御障壁を展開して魔物の攻撃を防いでしまう。
回復魔法も使えると思うが、一度も見ていない。というのも、こいつら強すぎて魔物の攻撃を一切喰らわないからだ。
そして、最後は光井。
こいつはなんと生意気にも勇者らしい。
勇者と言えば光の者。暗黒魔道士にとっては対極に位置する者だ。つくづく俺とは相容れない運命のようだ。
っていうか今時、勇者(笑)ってファミコンのRPGじゃあるまいし。この世界、どっかに魔王でもいるのか?
べ、別にうらやましくなんかないぞ。
どう考えても、暗黒魔道士のほうがカッコいいからな。勇者は平成の古臭いヒーロー。暗黒魔道士は令和のダークヒーローって感じがするね。
……と、難癖をつけてみたが、奴の実力は侮れない。
剣技を振るえば、魔物を一刀両断。
光魔法っぽいものを放てば、魔物は跡形も残さず消滅する。俺のダークブリンガーと違って、正真正銘の攻撃魔法のようだ。
ひょっとしたら、回復系の魔法も使えるかもしれない。
こいつら、もはやチートとしかいいようがないな。
それに比較して俺の暗黒魔道士よ。
畜生め、暗黒魔道士は異世界にて最強のはずではなかったのか。
おい神様、バランス考えろよ。不遇ジョブってレベルじゃねえぞ!
好機を窺い復讐するつもりだったが、無理ゲーにしか見えん。
迂闊にしかけて反撃を受ければ、一瞬で消し炭にされてしまいそうだ。
……と、俺の背中を誰かが叩いた。
「ん、なんだ? 俺は今、忙しいのだが」
振り向けば、豚の姿をした大型の男が立っていた。男の手には石の斧が握られていた。
……というか、魔物だ。というか、オークだ。
精神力の消耗を抑えるため、ダークオーラを展開していなかったのだ。そのために、うっかり魔物の接近を許してしまったのだろう。
「うぎゃあああぁぁぁっ、殺されるー!」
俺は叫び、逃げ出した。
もはや自分のキャラを保つ余裕はなくなっていたが、そんな俺を責めることは誰にもできまい。
「うがー!」
と、オークも俺を追ってくる。
「だ、だ、だ! ダークブリンガー!」
ダークオーラかダークブリンガー。悩んだ末に俺は後者を発動した。
オークに向かって闇の奔流が襲いかかる。
闇に包まれたオークは方向を見失い、木に激突した。
巨体が全速で木に激突する衝撃は、なかなか凄まじいものがある。森一帯に轟音が鳴り響いた。
オークは失神したらしく、起き上がってくる様子がない。
「ふっ、相手が悪かったな……」
余裕ができた俺は、ここぞとばかりに勝ち誇った。
だが――
「うがー!」「うげー!」「うごー!」
さっきの轟音を聞きつけたのか、前方に別のオークが現れた。
いや、前方だけではない。
左、右、後ろ――全部で四体に囲まれている。
どうも、俺をさっきの奴の仇だと思っているらしく、殺気立っている。
やばい死ぬ。
だ、大丈夫だ。俺にはまだダークオーラがある。
「だ、ダークオーラ!」
俺の体を闇のオーラが包み込んだ。
オーク達がひるむ気配が伝わってくる。
……が、それでもオーク達が逃げ去る気配はない。
……ひょっとして、既に怒っている相手には効果がないんだろうか? こいつら案外仲間想いなのか?
「おい貴様ら! 無益な戦いはやめろ! 今ならまだ見逃してやってもいいぞ。……いや、見逃してください」
呼びかけてみるが、馬の耳ならぬ豚の耳に念仏状態。効果はなさそうだ。
俺は意を決して前方に走った。
そうして、ダークブリンガーを前方のオークへと放つ。
視界を奪われた一匹がひるんだ。その隙をついて、俺は横を駆け抜ける。
それでも、残り三匹が執拗に追いかけてくる。
見た目が鈍そうなわりに意外と足が速い。
俺の体が宙に浮いた。
木の根に足を引っかけたのだ。
次の瞬間には地面と口づけ。後ろから足音が迫ってくる。
「し、死んでたまるかぁ!」
俺は倒れたまま、どうにか後ろを振り向く。最接近した一匹に、腕を伸ばしダークブリンガーを放った。
……が、遅すぎた。
視界を失ったオークは体勢を崩し倒れ込んだ。
あろうことか、俺の体の上に。
「ぐあっふぇ!?」
凄まじい重量に圧迫された俺は、得も言われぬ声を上げる。
気が遠くなりそうだ。
俺はもうダメかもしれない。
「佐藤!」
女の声が聞こえたのと同時に、激しい衝撃を背中に感じた。
何かが俺の背中に乗ったオークを、吹き飛ばしたのだ。