貴様に闇の向こうを見通せるか?
有頂天になる俺だったが、当然、事態は終わっていない。
ブレスを無効化された冥界竜は、呆然とした様子で俺のほうを凝視した。
漆黒の体の中にきらめく赤目。威圧感が凄い。
『貴様、わが闇のブレスに耐え切るとは何者だ……!』
野太い声が聞こえた。それも冥界竜の口から。
こいつ……喋るのか!?
しかし、相手が何であれ、聞かれれば答えねばなるまい。
「我こそは史上最強の暗黒魔道士――ヴァルター・シャドウ」
『ヴァルター・シャドウだと……!? 人の身でありながら、我に匹敵する膨大な闇のオーラの保有量……。ただものではないな』
あっ、よく分からないけど褒められた。今日はよく褒められる日でなんか嬉しい。赤江を筆頭に、いつもは俺をけなす奴ばっかりだからな。
「ほう……俺の力を一瞬にして見抜くか。さすがは冥界竜と言わねばならん。だが、今回ばかりは相手が悪かったな」
礼儀としてこちらも褒め返しておこう。最強の暗黒魔道士たるもの余裕が大事だからな。
「ハルタ、やばい下がれ!」
その時、光井の声が聞こえた。
俺が反応する間もなく、冥界竜の尾が眼前に迫る。ブレスが効かないと悟り、最小限の動きで尻尾を振るってきたのだ。
いきなりか!? まだ会話中じゃなかったのかよ!
やばい、死ぬ! 今度こそ死ぬ!
そう思った瞬間だった。
「マスター!」
その時、スケさんが俺を突き飛ばした。
気づいた時には、スケさんに尾が直撃していた。
信じられない距離をスケさんが吹き飛んでいく。外壁に直撃した衝撃で、その体を構成する骨が、バラバラになった。
「スケさん!?」
四人の声が重なる。
俺はスケさんの元へと駆け寄った。
正確にはバラバラになった骨の中で、奇跡的に無事だった頭蓋骨の元へだ。今の衝撃で仮面は吹き飛び、頭蓋骨があらわになっていた。
「――おい、なんで俺をかばったんだ! 愛想を尽かしたんじゃなかったのかよ!?」
「マスターは吾輩のマスターだぎゃよ……。かばうのは当然だぎゃ……。束の間とはいえ、復活できて嬉しかっただぎゃ……」
「馬鹿野郎! そんなのは俺の都合で勝手にやったことだ! あいつらみたいに戦う力が欲しくてやっただけだ!」
「それでもマスターのお陰だぎゃ……よ」
「お前には妹がいるだろうが! 骨になっても、見守るんじゃなかったのかよ!?」
「申し訳ないだぎゃ……。それはマスター達に任せるだぎゃ……」
その言葉を最期に、スケさんは動かなくなった。
「畜生、勝手なこと言いやがって!」
「ハルタ、ここは危ない! 離れてくれ!」
光井が光の矢を放ちながら、俺に呼びかける。赤江、水戸を合わせた三人で、時間を稼いでくれていたらしい。
しかし、俺は首を横に振った。
「ヨーイチ、お前ならあの竜を倒せるか?」
光井は先程の戦いで何かをやろうとしていた。決め手となる技があっても、迂闊には近づけない。そんな風に俺には見えた。
「!? 頭に接近して一発入れられたら倒せるかもな。……だが、問題はあいつのブレスだ。正直、近づけそうにない」
「一つ俺に考えがある」
「ああ、何でも言ってくれ」
「赤江も水戸も聞いてくれるか?」
「いいけど……。ふ~ん、あんたもそんな顔できるんだ」
赤江は不思議そうに俺を見て、それからにやりと笑った。
「私もやれることはやるよ! スケさんの仇討ちするんだから!」
水戸も魔法で冥界竜を牽制しながら、力強く応じてくれた。
*
軍と男達が一斉攻撃をしかけて、わずかな時間を稼いでくれた。
そのわずかな時間で、俺達は作戦を練り上げたのだった。
そして、作戦はただちに実行される。
練習もなにもない。一発勝負だ。
まず最初に、赤江が弾丸のような勢いで飛び出した。
狙うは冥界竜の尻尾だ。
奴が赤江のスピードに付いてこれないのは、既に判明している。赤江は難なく冥界竜の尻尾に取りついた。
冥界竜は体と尻尾を揺さぶって、赤江を振り払うとする。
「やああああぁぁぁ!」
だが、赤江の力は水戸の魔法によって強化されている。赤江はその怪力で、冥界竜の尻尾を強引に押さえ込んだ。彼女の足元が衝撃で陥没し、土塊が飛び散る。
いや、怪力過ぎだろ……。俺は尻尾を抑え込めと指示はしたが、普通に力づくで押さえ込むとは思わなかった。
ともあれ、第一段階はクリアだ。
俺は光井と共に走り出した。向かう先はもちろん冥界竜の頭の方角だ。
尻尾を押さえ込まれた冥界竜は、赤江を諦めこちらをにらんだ。
そうして、大口を開き出す。
「ふん、無駄だというのが分からぬか」
予想に違わず、吐き出されたのは闇のブレスだった。闇の激流が俺達に向かって襲いかかる。
尻尾をふさがれている以上、無駄と分かっていてもやらざるを得なかったのだろう。
だが、それは先頭に立った俺が、全身とダークオーラで受け止める。
俺の背中には、光井がぴったりと張りついていた。
ブレスはやまずに吹きつける。
このままでは攻撃は防げても、反撃に移れない。
それでも、俺達は粘り強く待ち続けた。
まもなく、その時が来た。
冥界竜だなんだといっても、奴だって生物だ。息を吐き続ければ、息切れするのが摂理というもの。
「ヨーイチ、やれえ!」
「任せろ、ハルタ!」
俺の号令に応じて、光井が飛び出した。
口と尾を封じられた冥界竜が、右腕を振るって襲いかかってくる。
瞬間、その右腕に特大の稲妻が突き刺さった。
言うまでもない。賢者たる水戸が竜の動きを見逃さなかったのだ。
その間にも、光井の剣がまばゆく輝き、光と融合した刀身が何倍もの長さまで伸びていく。
なんだその勇者っぽい技は! ちょっとカッコよくて羨ましいぞ!
「光井君!」「ヨーイチ!」
水戸と赤江の声援を受けた光井が跳躍する。
しかし、冥界竜も往生際が悪い。
なおも光井を叩き落とそうと、今度は左腕を大きく持ち上げた。
もっとも、そうはさせないがな。
「ダークブリンガァー!」
俺は左手を伸ばし、漆黒の奔流を放った。
冥界竜の頭部を闇が覆う。
恐らく冥界竜に闇属性攻撃は効かない。……が、そもそも俺のダークブリンガーは攻撃ではないのだ。
蛇は赤外線で獲物を感知するという。だが、光を遮る俺の闇ならば赤外線も通さないはずだ。
さて、冥界竜よ。貴様に闇の向こうを見通せるか?
案の定、冥界竜は視界を失う。振り上げた左腕は宙を叩いた。
そして、舞い上がった光井は、冥界竜の頭上に到達した。
「喰らえっ、冥界竜クーガスト!」
光井が急降下しながら、剣を振り下ろした。
俺の闇が斬り裂かれると同時に、冥界竜の頭部に光の亀裂が刻み込まれる。
亀裂は激しい光を放ちながら、拡大していく。
冥界竜は頭部を激しく振りながら、断末魔の声を上げる。
やがては、その頭部も真っ二つに分断されてしまった。
崩れ落ちた二つの頭部が、地面に墜落して轟音を鳴らした。
後には首を失った冥界竜の巨体だけが残っていた。
ついに決着! 次回が最終回です!
多くは語りませんが、どうか最後までお見届けください。




