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シリスと予選2

珍しく二日連続投稿です。

 武術会では、参加者がそれぞれ用意した武器の使用が認められる。

 それはつまり真剣での試合を意味しており、場合によっては大ケガだけでは済まない事態だって考えられる。

 だからこそ生半可な覚悟では参加できないし、なにより手加減できるほどの腕前がなければ、参加しようとは思わない。


 今回の予選試合の出場者は、手加減できるか怪しいと判断されたらしく、練習用の木剣や木槍などが貸し出されていた。

 これなら万が一にも死者は出ないだろう、ということだね。

 逆にそれでも死んでしまったとしても、それは自分の力量もわからずに参加した本人が悪いとされて、冒険者ギルドは責任を持たない。

 お祭りだからケガ人は出さないよう可能な限り配慮されるけど、そこは意外と厳しいのである。

 もっとも、試合相手がわざと殺したと判断されたら、普通に捕まるけどね。


 そんな予選の第一試合が行われているのを私は、ディーネとヴェガと並んで一緒に観戦していた。

 控え室側から覗き見る形になっているけど、どうやら一般の観客席はすでに埋まっているみたいだ。予選とはいえ本選と変わりない熱気に包まれている。

 少しだけ不満そうにしていた一部の予選参加者たちも、大勢から声援を送られたおかげで、やる気を取り戻したみたいだ。

 ただ、あの観客たちの大半は誰が勝つかを賭けているから、純粋な応援というわけじゃなかったりする。

 傍目には盛り上がっているし、実際それが悪い気もしないんだけどね。


「それにしても……思ったより地味、かな?」


 最初の十人による予選試合が終わった感想だ。

 説明されていた通り、審判は二名の予選通過を宣言している。

 その試合内容だけど……こう言っては悪いけど特に見所もなく、本当にただ最後まで残れたから予選を突破した、という印象だった。


「いったいシリスは、なにを期待していましたの?」

「もっと、こう……他の参加者をひとりで薙ぎ倒すような豪傑とか」

「仮にできる者がいたとしても、これは予選試合。そこまでする必要はないどころか、手の内を明かさないよう実力を抑えてしかるべきではなくて?」


 ディーネの言葉にも一理ある……どころか真っ当な判断だった。

 私だったら片っ端から倒していたけど、とは言わないでおこう。なにも考えてないと思われそうだからね。事実だけに辛いんだよ。


「ふむ、私ならばシリスの言った通りにしていたのだが」

「そうですわねヴェガ。ただ貴女はもう少しだけ先を見据えられたら、剣士として最良だと思いますわ」

「……難しいな」

「今のままだと狂戦士と変わりありませんわ。自覚は難しくとも、そういう面があることは理解しておいて欲しいですわね」

「わかった」


 ……どうやら私も狂戦士だったらしい。

 自覚は、ちょっとある。と思う。


「つ、次の試合が始まるみたいだよ!」


 気分を切り替えるためにも、私は舞台へ意識を向けることにした。

 次の十人もまた、見慣れない人たちが多くて実力は未知数だ。

 ただ、ひとりだけ目を引く人物がいた。

 というよりも、他の参加者が大人の男たちで九人を占める中、ひとりだけ小柄な少女だったから浮いていると言うべきか。


「ずいぶんと小さな子ですわね」


 当然ながらディーネも気付いたようだ。

 外見から判断すれば。私と同じか年下の少女としか映らないかな。

 綺麗なプラチナブロンドの髪を黒いリボンで左右に括って、仕立ての良さそうな真っ白な服は縁だけが黒く染められ、幼いながらも全体的にシックな印象で整えられている。同じデザインのマントを羽織り、フリルが付いたの黒スカート姿も相まって、とても愛らしい容姿だ。

 その手にした木剣だけが、彼女は武術会の参加者であることを物語るけど、まるで戦えるような子には見えなかった。

 ……あまり人のことを言えない見た目なのは理解しているけど、私は前世の記憶が影響しているから別だよ。

 それに、なによりも私が気になっていたのは――。


「あのような少女、先程の説明時にいたか?」

「私はあまり気にしていませんでしたが、実際にああして舞台に立っているのですから、見逃しただけではなくて?」

「そうだろうか……」


 見逃したと言われてヴェガはしょんぼりする。

 でも私はヴェガと同じく、あの少女を一度も目にした記憶がない。

 たしかに、ざっと見渡しただけだし、五十人近くもいる中から、あんな小さな子を見つけるのは難しいかもだけど……。

 どうにも、それだけではない予感がしていた。

 そして、その予感を裏付ける出来事が起きてしまう。


「……やっぱり、あの子も勝ったか」

「だが、あの少女は普通ではないぞ」

「そうですわね。なにがと言われると困りますけど、あれが実力を隠している強者だと言われたら納得できますわね」


 予選の第二試合が終わって、私たちの意見が一致した。

 あの少女は、特別な戦い方はしていない。というより戦っていない。

 観客からすれば他の人に隠れたり、盾にしたりと逃げるのが上手なようにしか見えなかったはずだ。

 というか、私から見てもそうとしか映らない。

 だけど、それだけで華奢な少女が勝ち残れるほど、他の参加者たちも決して弱くはなかった。

 ディーネの言う通り、実力を隠していると考えるのが自然だろう。

 隠せるほどの実力者というべきか。


「――選手と、ルクス選手は予選突破です! 控え室でお待ちください!」


 審判が勝者を告げると、観客席から一試合目にはなかった盛大な声援がルクスという名前らしい少女へと送られる。

 見た目は可憐な少女なのに予選を突破すれば、応援したくもなるよね。

 ただ、もうひとり予選突破した人がいるんだけど、不幸なことにルクスが注目を集めてしまって目立たなかった。

 かくいう私も、審判が大声で告げていたのに記憶に残ってなくて申し訳ない。

 それだけ彼女が衝撃的だったんだよ。

 私も、ルクスという名前は心に留めておこうと思う。


「どうやら期待していた者が現れたようですわね、シリス?」


 からかうような口振りに、ふと私は笑みを浮かべていたのに気付く。

 うん、まだ未知数であるのに変わりはないけど、試合を楽しみに感じているのは間違いない。

 ルクスは見た目通りじゃないと、なんとなく直感が働いていた。

 こっちだって負ける気はないけどね!




 続けて三戦目の予選試合は……特筆すべき点もなく終わった。

 観客席では賭けで盛り上がっているけど、さっきの番狂わせだったルクスほどの熱量はなさそうだ。

 どことなく一戦目を彷彿とさせる。


 そして次はいよいよ四戦目。最後の予選試合となる。

 舞台にはすでに十人が出揃って、もうすぐ始まるという時に、ヴェガが鋭い視線で参加者のひとりを見定めていた。


「次は、あの仮面の者か……」

「あれが気になりますの?」

「先程とは別の意味で、妙な気配がするからな」


 そう二人が話しているのは、仮面を付けた怪しげな風貌の参加者だ。

 全身を黒尽くめローブと服で覆い隠してはいるけど、小柄な体格からルクスと同じく、私と同じくらいの子供だろうと思われる。

 私が興味を引かれたのは、その仮面の子が木剣を二振り、両手にそれぞれ携えていたことだった。

 双剣使いは珍しく、私以外だとヴェガが独特の剣術を扱えるぐらいだ。

 私は我流だから、そういうちゃんとした双剣術を修めた人の戦いが見られる機会はありがたい。

 期待しつつ眺めていると――。


「……うん?」


 ふと仮面の子が、こちらを見た気がする。

 顔が隠されているから、なんとなく視線を感じただけなんだけどね。

 自意識過剰ってやつかも知れないので、ディーネとヴェガには言わないでおくけど、なぜか胸がどきりとした。


「始め!」


 審判が四回目となる試合開始の合図を出す。

 次の瞬間、舞台上にふわりと風が吹いたようだ。

 どこからか乾いた音が連続して鳴る。その数は九つ。

 僅かに遅れて、宙に浮いていた武器が舞台上に落下する。

 カランコロンと乾木の心地よい音だけが、静まり返った会場に響いた。


 たった数秒で、最後の予選試合は終わってしまった。

 その事実を認識できたのは……私を含めても少ないようだ。

 審判どころか参加者自身ですら、なにが起きたのかをまったく把握できていないようで、ただ自分たちが手にしていた武器が忽然と失われているのに気付く。

 しかし、その理由までは理解できない。

 あまりに迅速だったから。


「ふむ……迅いな」

「あれを目だけで追うのは難しいですわね」

「私もギリギリ。剣の動きを予想していなかったら無理かも」


 三人とも、視線が釘付けになってしまった。

 それも当然だろう。

 あの仮面の子は、さっき私が言ったように……たったひとりで他の参加者の武器を弾き飛ばして勝利を収めてしまったのだから。


 実力を隠すなんて面倒だと言わんばかりの剣閃だった。

 それとも、これは一種の宣伝だったのかな?

 正体を隠している割に屹然とした態度からは、明らかに目立とうという意思というべきか、強い思想のような感情が伝わった。

 優勝したら顔を明かして、どこの剣術で流派がどうと宣言するつもりだろう。

 武術会には、そういった人が参加することも多いからね。

 逆に負けたらこっそり帰るのだ。もちろん顔は隠したままで。


「あれだけの剣術なら、隠す必要もなさそうだけど」

「なにか事情があるのではなくて? もしくは優勝のみを狙っているのでは?」

「志が高いタイプか。なんにせよ油断できそうにないね」


 ひょっとしたら私よりも……。


「あ……勝者は、アルマティア選手!」

「ひとりだけ……?」

「おいおい、この場合どうなるんだ?」


 ようやく審判が勝者を告げるも、他の参加者と観客たちがどよめく。

 予選を突破できるのは二名だから当然だ。

 一人勝ちしてしまった仮面の剣士ことアルマティアはともかく、もうひとりはどうするのかで、審判は他のギルド職員と相談する事態になってしまう。

 その結果、アルマティアだけ予選突破として、残り九人で改めて試合をする運びとなり、なんとも盛り上がらない最後の予選試合となったのだった。

予選なのでさらっと流します。

細かいルールやらなにやらは本選で説明するかも知れません。

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