第七話 『対話するG』
「いただきます!」
そう言うや否や女の子は出した料理をがつがつと食べ始めた。ものすごい勢いだ。お昼時だし、いろいろなことがあったから疲れてお腹すいたのかな?
出したのは朝の山菜炒めに干し魚をもう少し足して、ご飯を混ぜて炒めなおした即席チャーハンだ。
「んっ! んんっ! ん―ッ‼」
「ちょ、ほら水! そんなに急がなくてもたくさんあるから、ゆっくり食べて」
そう言うと、女の子は少し食べるペースを落とした。それでも十分早いけどね。
その後、お代わりを要求されたり、またのどに詰まらせたりで、僕はあきれ気味になりながら女の子に対応するのだった。
「今度こそ落ち着いた?」
「、はい。美味しかった、です。ごちそうさまでした」
「それじゃあ今度こそ、まずは情報整理から。君、ええっと――」
「私の名前、ハルカって言うん、言います。春に夏って書いてハルカって読む、です。」
飛び跳ねていたときとは打って変わってオドオドと声を出す女の子――ハルカ。もしかして人見知りなのかな?
「僕には無理して敬語使わなくてもいいよ。ハルカちゃん、いい名前だね」
「あ、ありがとう……ございます」
「だから無理しなくてもいいよ、別に怒ったりしないから」
「す、すいません……です。でも、家ではいつもこうじゃないと殴られたから……」
案の定と言っては何だが、この子も僕のように深い闇を抱えて生きてきたようだ。怯えた小学生に敬語で話されるとすごい落ち着かないんだけどなあ。
「まあ、難しいなら今はそれでもいいよ。それで、話を戻そう。ハルカちゃんがあの二人の男たちに誘拐されてこの山に連れてこられた。それをたまたま見かけた僕がハルカちゃんたちの後をつけて行って、男たちを倒して――
「――ゴキブリ」
突然、僕の言葉をハルカが遮り、先ほどまでの様子からは想像もつかない剣幕で僕に迫ってきた。
「どうやったの⁉ もしかしておにーちゃんも虫さんとお話しできるの⁉」
「いや、僕はそんなことはできないけど……」
ていうか、今この子『おにーちゃんもって言ったのか? もしかしてこの子……
「へ、変なこと聞いてごめんなさい……です」
僕が否定するとすぐにハルカの口調は元に戻った。一瞬だけ垣間見えたあの姿がハルカの素なのかもしれない。それはそうと、
「もしかしてハルカちゃんは虫と話すことができるの?」
「そ、そんなこと、できない……です」
「ほんとに?」
僕はハルカの目をのぞき込むように見つめる。
「……」
あ、目をそらした。これは図星だね。まあでも、たぶんこの子もその力のせいで辛い人生を送ってきたんだろう。自分から言い出しにくいのも頷ける。ここは僕からカミングアウトしなくちゃいけないかな。
「僕は虫と話すことはできないんだけどさ、こんなことはできるんだ」
そう言いながら僕は手のひらに一つのゲートを創り出し、隊長を呼び出した。隊長は一度長いヒゲをピクリと動かすといそいそと僕の頭の上へと昇り始める。
その様子を見たハルカの目がまん丸に見開かれる。
「僕はこうやって虫を呼び出して使役することができるんだ」
「……使役?」
「あ、えーっと、使役っていうのは要するにお願いを聞いてもらうってこと。だからさっきは呼び出したゴキブリたちにお願いしてあの人たちを倒してもらったんだ」
「すごい!」
ハルカがキラキラした目で僕の方を見つめてくる。ハルカを助けたのは僕ではなく、ゴキブリたちなので、なんだか少し後ろめたいような気がする。
「ま、まあとにかく僕はこんなことしかできないわけだけど、本当にハルカちゃんは虫とお話しできないのかな?」
「できる! ハルカ、虫さんたちとお話しできる! あ、……できます」
「本当に無理しなくていいんだけどなあ。それじゃあ、隊長……あ、このヒゲの長いゴキブリを僕は隊長って呼んでるんだけど、この隊長とお話しできる?」
僕は頭に乗った隊長を手のひらに戻すとハルカの方へ差し出した。
するとハルカは隊長と目線を合わせて隊長の目をじっと見つめると、何事かをぶつぶつと話し始めた。