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第三十二話『告白するG』

本日2話目です

『いち、にの、さん!』


 隊長さんのかけ声とともに、背中から持ち上げられる。その力を借りて、私は立ち上がった。 


 立った瞬間、立ちくらみでまた倒れそうになる身体をなんとか安定させる。


 立ち上がった衝撃で、おなかの傷が開いたみたい。


 痛い。でも、その痛みが逆に、今にも飛んでいきそうな意識をなんとかつなぎ止めている。


――私が、なんとかするんだ!


 ゴキブリさんたちに背を押されて、私は一歩を踏み出した。だけど、

「きゃっ!」


 おにーちゃんの方へ歩き出したその途端に、周りにいた赤い眼のゴキブリさんたちが私に向かって飛びかかってきた。


 ぶつかる! 身の危険を感じてとっさに身体を背ける。でも、想像した衝撃は何秒待ってもやってこなかった。


 恐る恐る顔を上げて前を向くと、隊長さんたちが自分たちの身体で壁を作って、飛んできたゴキブリさんたちを止めてくれていた。


バシバシと羽がぶつかり合う固い音が響く。


『ハルカ殿! このまま前進するからついてきてくれっ! ハルカ殿の安全は、我々が守る! グッ!』


 苦しげな声を上げながらも、宣言通りみんなが少しずつ前へ進んでいく。


「隊長さん…」


『我々のことを心配する必要はない! 自分とっ、アイツの事だけっ、心配してくれ!』

 

凶暴になったゴキブリさんたちの猛攻に歯を食いしばりながらも、ゴキブリさんたちは前に進んでいく。

だけど、押し寄せてくるゴキブリさんたちはとっても多くて、隊長さんたちはとっても苦しそうで、でも、それでも少しずつ、確実に前に進んでいる。私がおにーちゃんをなんとかすると信じて。

 今にも崩れてしまいそうなこの薄い壁のために、私ができることはないのかな。

 

「どうしてみんなはおにーちゃんのことが好きなの?」


 気づけばひとりでに言葉が出ていた。


「私はおにーちゃんと出会ってまだ、一日しかたっていないけれど、おにーちゃんのことが大好きなの。おにーちゃんの、優しくて、まっすぐで、一生懸命なところが、大好きなの。みんなはどう? みんなは、おにーちゃんのどんなところが好きなの?」


 炎と怒りに包まれた、地獄の真ん中二は、あまりに相応しくないその質問は、優しく、ふんわりと戦場に広がっていく。


「教えて欲しいな」


 ちょうどそのとき、一匹のゴキブリさんが、隊長さんたちの壁をくぐり抜けて、私に向かって飛びかかってきた。


『ハルカ殿! 気をつけて!!』


 でも、今度はもう怖がらない。前を向いて、手を伸ばして、ゴキブリさんを受け止める。


「あなたは、どうして戦うの?」


自分をこの世界に生み出してくれたから? 特別な力を持っているから?

きっと違う。

 ゴキブリさんたちが、おにーちゃんのために戦うのは、おにーちゃんのために怒るのは、きっとそんな理由からだけじゃない。


『俺は…』


 私の手の中のゴキブリさんの、怒りで血みたいに赤く染まった瞳が少しずつ色を深めていく。


「教えて、私に」


 それが私にできる唯一のことで、私にしかできない、唯一のことだから。


『俺は、アイツの誰かのために命を賭けて怒ることができる、そんなところに惚れちまったんだ』


 いつの間にか、ゴキブリさんの眼は、いつもの透き通った黒に戻っている。


「教えてくれて、ありがとう」


 手を広げると、ゴキブリさんはゆっくりと飛び立って、隊長さん達の方に加わった。


「みんなにも、教えて欲しいな」


 一歩、前に踏み出して、私はみんなに話しかける。


 その声はこの戦場の真ん中では、取るに足らない小さな声。でも、その願いは、思いは、強く、広く、染み渡っていく。


『私は…』『僕は…』


 どこからか発せられたその声は、波のように伝わって瞬く間に広がっていく。


 思い思いに話してくれるゴキブリさんたちの思い出話の中には、辛い話、悲しい話もいっぱいあった。でも、そこにはさっきまで捕らわれていた憎しみの感情なんて欠片もなくて、ただただ、仲間を愛して、支え合う暖かさがあった。


その全てを聞き取ることはできないけれど、みんなのおにーちゃんを、仲間を思う気持ちはとても強く伝わってくる。


「みんなありがとう」


 いつの間にか、隊長さんたち以外のゴキブリさんたちもみんな、普段通りの黒い目に戻っている。


「みんなの思い、私がおにーちゃんに伝えてみせるよ」


そうすれば、きっと…。、

みんなが私のために道を空けてくれる。まっすぐに開かれた道を通って、ついに私はおにーちゃんの所にたどり着いた。

 

「おにーちゃん」


「ア?」


 私の声に反応して、おにーちゃんがこっちの方を向いた。

 おにーちゃんは怒りで眼を爛々と輝かせている。出会ったときのおにーちゃんから、すっかり変わってしまっていて、とっても怖い。

 でも、私はその目を見つめ返す。私にはどうしたって伝えなくちゃいけないことがあるから。


「ゼンブ、コワス!」


どうやらおにーちゃんは私の事を私だと分かっていないらしい。

 私の事を、ゴキブリさんたちをかいくぐってやってきた敵だと思って攻撃しようとしているみたい。


 私とおにーちゃんのちょうど間に黒い渦が生まれて、そこから赤い眼をしたゴキブリさんたちが飛び出してくる。


「お願いみんな。そこを通して欲しいの」


 だけど、私がゴキブリさんたちに話しかけると、怒りで暴走したゴキブリさんたちはすぐに正気を取り戻して、道を空けてくれる。


 私はもう一歩、おにーちゃんに近づく。もう、手を伸ばせば届く距離だ。


「おにーちゃん。私はここにいるよ」


 すぐ目の前。こんな距離にいるのに私の声はまだ、おにーちゃんには届かない。だから、

ゴキブリさんで攻撃できないと悟ったおにーちゃんが腕を振り上げる。


「おにーちゃん!」


その腕が私に向かって振り下ろされるより早く、私はおにーちゃんの胸に飛び込んだ。


お久しぶりです! なかなか書く時間はとれませんが、生存していますので今後ともよろしくお願いします!

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