第二十九話 『増殖するG』
「まさか、これはッ!」
「まずいな。暴走したのか」
白木が声を上げ、さしものゼクスも動揺を隠せない。
少年の身体を包み込むような漆黒のオーラは、やがて渦巻くように動きながら形を取り始める。
それはまるで、中の少年を進化へと導く繭。
ドクン、と繭が脈を打つ。心臓の鼓動のように繭が規則的な脈動を始める。ドクンドクン、と脈打つたびに繭の内部で膨大なエネルギーが生み出されているのが感じられる。
鼓動は少しずつその感覚を狭めている。
「逃げますよ。これ以上この場にとどまるのは危険です」
ゼクスが白木の服の襟首を掴む。
「なっ、何をする!」
驚く白木を無視してゼクスが跳躍する。同時にゼクスの足下に魔方陣のような物が出現する。
魔方陣が白く輝き、魔法が発動する。ブーストされた跳躍力で、ゼクスは白木を掴んだまま軽々とシェルターの外に飛び出した。
その次の瞬間だった。
繭の鼓動が最速に達する。繭の内にため込まれたエネルギーが限界点を超え、外の世界へとあふれ出し、そして
爆発。
解き放たれた漆黒の奔流が部屋中を埋め尽くし、押し壊し、シェルターがはじけ飛んだ。
「そ、そんなことが……」
「あの少女ごと……。完全に理性を失っているようですね」
間一髪で爆発から逃げ出したゼクスと白木は目を見開く
シェルターのあった場所を中心に半径20メートルほどの範囲が地下も含めて、跡形もなく吹き飛ばされてクレーターを形成していた。
その爆心地に立つのは少年だったモノ。どす黒いオーラを全身から噴き出しながら、殺意に染まったその目は確実にゼクスと白木へと向いている。
ゆったりとした動作でソレは腕を突き出す。同時、ソレを取り囲むように周囲の空間にいくつもの穴が開いた。
――クライツクセ
危機を察知したゼクスが再び跳躍したのと、ゲートから黒光りする無数の点が飛び出すのはほとんど同時だった。
もちろんと言うべきか、飛び出してきたシルエットはまごう事なきゴキブリのそれ
しかし、その眼は召喚者の殺意を代弁するかの如く赤々と光り輝いている。
際限なく湧き出す黒の蟲達は瞬く間に辺りの空を埋め尽くし、濃い影を落とす。統率者を失いって殺意と食欲にまみれた捕食者達が、解き放たれた。
その日、世界は人智を越えた怒りの力を目の当たりにする
――――――――――――――――――――――――――――――――
――暴走後約三十分
町中にサイレンの音が響き渡る。
『緊急避難警報が発令されました。住民の皆様は直ちに可能な交通手段を用いてその場から離れてください。緊急避難警報が発令されました。住民の皆様は――』
繰り返し流れる音声は真っ黒に埋め尽くされた町に虚しく響く。
都心のビル街のスクリーンにニュースキャスターの焦った顔が映る。
『緊急事態です。I県第七市でゴキブリが大量発生しました。発生の原因は不明ですが、現在もなおその数を増やしているとのことです。発生したゴキブリは非常に凶暴かつ食欲旺盛で辺りの農作物だけでなく家畜や人間も襲い、すでに死傷者が百人を超える大惨事になっています。
それでは現場のヘリからの中継につなぎます」
ざわめきながら足を止めスクリーンを見上げる者。無視して通り過ぎる者。小さな虫のことなどたいしたことはないと、遠く離れた都会の住民はそう考えていた。
その事態を目の当たりにするまでは。
映し出されるのは炎に包まれる町とその空と地面を埋め尽くす黒い点。重なり合う羽音が轟音となってスピーカーから響き渡る。
『こちらは第六市と第七市の境付近上空です! ゴキブリの大量発生が確認されてから約四十分が経過していますが、ご覧の通り第七市はゴキブリで埋め尽くされてほぼ壊滅状態です! ゴキブリたちは周りのモノを食い尽くしながら各方面に進行中。飛行しているゴキブリたちはすでに隣接する第六市、第八市に到達しています! ここもそろそろ――アッ! やめろ! 入ってくるな! 噛みつくな! ウワッ! まとわりつくんじゃねぇ! 誰か、助け――あ、アアアアアアアアアア!』
ブツリと中継が途切れる。
時が止まったように、大通りが静まりかえる。何も知らない車だけが場違いなエンジン音を立てた。
『えー、失礼しました。ニュースを続けます。ゴキブリの移動速度は約時速八十キロメートル。このまま進行が続く場合はおよそ六時間でT都に到達します。政府からの発表は未だありませんが、万が一の場合に備え、鉄筋コンクリート製の家屋内でしっかりと戸締まりをして待機することを強くお勧めします』
そして、スクリーンが切り替わり、普段通りのコマーシャルへと戻った。
ざわめきと動揺が往来に広がる。しかしそれでも、自分には関係ない。ここの届くまでには何らかの対策がなされるだろう。そう考える人々が多数を占めた。
故に、きっかり6時間後に到達したゴキブリたちに、彼らはなすすべなく蹂躙されることとなる。
正直、今回のタイトルをつけるのがこの小説を書く目的の一つみたいなところはありました笑
とりあえず、ここまで書けてホントに良かったです。でもまだ終わりじゃないですよ!




