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第二十八話 『暴走するG』

「おにい、ちゃん……」


 今にも消えそうな震えた声。


「あんまり喋らないで。今止血を……」


「わたしは……ゲホッ、だい、じょうぶ……だよ」


 弱々しい動きで伸ばされたハルカの手が僕の手を握る。

 その握る力は余りにも弱くて、あまりにも冷たかった。


 そして、小さな手が僕の手のひらを滑り落ちる。


「……ハルカ?」


 返答はない。


「ハルカ? え? ねえ、どうしたの? 返事してよ、ねえってばぁ」


 しかし、力を失った身体はピクリとも動かない。


 僕は自分の心が身体ごと冷え切っていくのを確かに感じた。

「ハルカ、ハルカ、ハルカ、ハルカハルカハルカハルカハルカハルカアアアアア!!!」


 何故? どうして? ハルカが何をした?


 あの子はただ、必死で生きていただけというのに。


 叫ぶ。理性を吹き飛ばすように。冷え切った心の奥底に残った全てを吐き出し尽くしてしまうように。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


 叫ぶ。


 いつだってそうだ。僕らは望んでこの力を手に入れたわけじゃない。だと言うのに誰も彼も僕らを恐れ、蔑み、石を投げつける。


 僕らはただ、普通に生きていたいだけなのに。


 どうして、どうして


 逃げても逃げても誰かが追ってきて、走っても走っても誰かが立ち塞がる。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 どす黒い何かが胸の奥からこみ上げてくる。一度吐き出されたそれは噴き出して止まらない。


――ボクは一体何を恨めば良い? ナニが僕らを苦しめる?


 ゼクスか。白木真一か。ボクの小屋を燃やした誰かか。ハルカを殺そうとした男達か。


――ボクらを生み出したこのセカイそのものか。


 それら全てを排除した先に平穏があるというのなら


「モウ、ナンダッテイイヤ」


 ぽつりと、自分の呟きが聞こえる


――ナニモカモ、キエテシマエ


 それが僕の最後の記憶だった。



「アアア、アアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


 自由に動かせる身体を得た『能力』が産声を上げる。

 少し前まで普通の少年であったその身体はもはや別の物だ。

 全身に黒い血管が脈打ち、吹き出したどす黒い瘴気をまとっている。

 その目は深紅の輝きを帯び、到底普通の人間には見えなくなっていた。



 臨界に達した負の感情。絶叫とともにあふれ出るそれは、少年の積み重ねてきた十数年の人生そのもの。厭われ、蔑まれ、貶められ、恐れられ、殺意を向けられ続けた無垢な少年の魂の叫び。


 許容量を超えた黒い塊は少年の持つ固有の能力に作用してその有り様を大きく変質させる。


 少年の願いを忠実に再現するべく、少年の持つ全てを犠牲にして成長を遂げる。


 かつて、とある少女を最悪の魔王へと変貌させたそれと同じ。

 憎しみや悲しみは高純度の魔力へと変換され、無差別に無秩序にまき散らされる。


 人はそれを『暴走』と呼ぶ。

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