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第二十七話 『動揺するG』

「感動の再会はここまでだ。決めろ。私の側につくか、それとも一生異世界でモルモットになるか」


 白木が冷たい目のまま僕に問う。


 僕はまだ小さく嗚咽に震えるハルカを見つめながら考える。白木の言っていたことはだいたいは本当だろう。まんまと僕を打ちのめしたゼクスはしかし僕たちを殺そうとはしなかった。

 だけど、たぶん彼の目的はあくまで能力者の観察と管理。能力が暴走しないように監視すること。強制的に保護して異世界に連れて行こうなどと言う強硬な姿勢は見られなかった。


 対して白木はどうか。僕の不在を狙ってハルカを拉致し、こうして銃を突きつけて服従を要求している。何より白木の目には冷たく暗い殺意が光っている。今は騎士団への対抗策として僕を利用しようとしているが、片がつけば確実に僕を殺しに来るだろう。

 危険度は白木の方が圧倒的に高い。


 正直なところ僕自身のためにも、ハルカの安全のためにも白木につくのは遠慮したい。

 まあ、かといってこの状況で断ることなんて出来ないんだけれど。

 とりあえず、今は服従の姿勢を見せる必要がある。期を見て逃げ出すというのが行き当たりばったりではあるけど一番無難だろう。


 僕は顔を上げて白木を見返す。能面のように固く冷たいその表情に怖気が走るけれど、目はそらさない。

 そして僕は口を開く。


「わかっ――


「それ、少し待ってもらえませんかね?」


 僕の言葉を遮るようにその声は聞こえた。上から。

 次の瞬間、僕たちのいる空間をものすごい爆発音と振動が支配し、天井が崩落した。


 僕はとっさにハルカを庇うように抱きしめてうずくまった。部屋中に砂埃がもうもうと立ちこめる。


「私のいないところで面白そうな話をしないで下さいよ」


 天井の瓦礫の上に立っていた声の正体、それはゼクスだった。


「馬鹿な……核シェルターの天井をこんな綺麗に切り崩すなど……」


 そう、ものすごい爆発であったにも関わらず崩落した瓦礫の断面はまるで鋭利な刃物で切り取られたようになめらかだったのだ。


「別に私も魔法が使えないわけではないんですよ?」


 そう言ってゼクスは不敵に微笑み、部屋の隅で呆然としていた僕の方へ振り向いた。


「昨日会ったばかりですが、思ったより早く再会することになりましたね。本当はしばらく接触するつもりはなかったのですが……」


 そして、今度はこわばった表情の白木に振り返る。


「こうなってしまっては仕方がありません。そちらが忌み子達を取り込もうというのならば騎士団としては見逃すわけにはいきませんからね」


「……私はただ、父親として息子とその友人を保護しようとしているだけだ。と言ったら?」


「彼らを騎士団以外の公権力の下に置こうとしている時点で明確な盟約違反であることに変わりはありません。あなたは騎士団と対立するおつもりなのですか?」


「……」


「この二人は我々騎士団が保護します。今すぐ二人を差し出せば、今回はあなたのその盟約違反行為を不問としましょう。さあ、その少女をこちらに」


「……残念だが、その要求は飲めない。昆虫を無限に生み出すと言う能力、そこの私の息子が持っているその能力をこの世界から完全に抹消すること、それが私が騎士団に入った理由であり今日まで生きてきた根拠だ。息子はもちろん、そこの娘も私の悲願を達成するための重要な鍵なのでね、渡すわけにはいかない」


「なるほど、それがあなたの答えですか。ならばこちらも多少手荒に行かなくてはいけませんね」


 ゼクスが身構える。


「いいのか? 今ここで暴れれば忌み子達を殺しかねないぞ。そうでなくとも、私はお前が攻撃するより早くこの娘を殺すことが出来る」


 白木の手にはいつの間にか拳銃が握られ、その銃口はハルカの頭に突きつけられていた。


「ひっ!」


 ガチャリと引き起こされた撃鉄の音にハルカが小さく悲鳴を上げる。


「ハルカから離れろ!」


 僕は反射的に叫んでハルカに手を伸ばす。


「動くな!」


 しかしその白木の一言によって僕は踏みとどまらされた。


「離れるのはお前の方だ。これ以上近づくならこの娘を殺す。それが嫌なら私に従え」


 この男は本当にやりかねない。僕はその場で立ち止まるしかなかった。


――しかし


「隙だらけですよ」


 ゼクスは違った。白木の意識が僕に向いたその一瞬を突いて、ゼクスが動く。いくつものナイフが部屋の中を閃き、白木の部下達が崩れ落ちる。さらに、ゼクス自身がまっすぐ白木に突進。その手にはいつの間にか取り出されたナイフが握られている。


「なっ!?」


 予想していなかったのだろう。白木が初めて取り乱した声を上げる。


 回避できないと悟った身体はしかし、本能のままに回避行動をとる。瞬間的に全身に力が込められ、自然と手にも力が入る。

 そして当然、拳銃の引き金にかけられた指にも。


 パァン!!と、乾いた音が部屋に響いた。


 一瞬の静寂が流れ、そして、


「ぁ……」


 照準があやふやだった銃で肩を貫かれ、正確無比なナイフに腹を切り裂かれて、


 ハルカが血しぶきを上げて床に崩れ落ちた。

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