第二十三話 『物語るG』
「う、うう……」
目を覚ました私の視界に見覚えのない真っ白な天井が映る。
頭が痛い。どこかにぶつけた訳じゃなさそうだけど、なんだか頭の中からズキズキと響いてくるような痛みがある。
起き上がろうとすると目の前がぐるぐる回るような感覚があって気持ち悪くなる。それでも、無理矢理身体を起こし、自分のいる部屋を見渡した。
そこはただ真っ白な部屋だった。学校の教室くらいのそれなりの広さがあるのに、中には家具どころか窓一つない。真っ白な天井と壁と床を、真っ白な電灯が照らしている。
部屋の隅に見つけた扉に這うように近づき、ドアノブを回したけど、もちろん開いているはずもない。
頭痛と吐き気で動くのもつらくなってきたので、しかたなく私は部屋の真ん中に横たわる。
横になると幾分楽になり、やっと何が起きたのかを考える余裕が出てきた。
そうだ。昨日廃工場の部屋の中で、いなくなったおにーちゃんを待っていたら知らない女の人が入ってきて、何か布のような物で口を塞がれたと思ったら気を失って……
きっとその布に眠り薬がしみこませてあったんだと思う。頭が痛くて気持ち悪いのも多分そのせいだ。
動くのもつらい状態なので、どうすることもできずに寝転がる。
「やあ、お目覚めかな」
と、唐突に声が聞こえた。
なんとか声のした方に頭だけ傾けると、いつの間に入ってきたのか、扉のすぐそばに人が立っていた。
多分声からして男の人だろう。
どうして、はっきりと言い切れないのかというと、それは。
「ああ、これが気になるのかな? しかし、これが無いとどうも落ち着かないものでね。このままで失礼させてもらうよ」
その男が真っ白な仮面をつけていたから。何の模様もない、この部屋の壁のようなのっぺりとした白が不気味に輝く。
「あなたは誰!? 何のために私を捕まえたの!? おにーちゃんはっ……ううっ!」
私は立ち上がって仮面の男に詰め寄ろうとするけど、立ち上がったところでまた耐えがたい頭痛がぶり返して床にへたり込んだ。
「まあまあ、そんなに急がなくともちゃんと答えるからまずは落ち着きたまえ。そんなに力んでいては力が持たんよ」
そう言って仮面の男はいつの間に取り出したのか、ペットボトルの水を私に差しだした。
反射的に手を伸ばしそうになるが、なんとか自制して私は警戒の視線を向ける。
「喉も渇いているだろう。毒など入っていないから安心して飲みたまえ」
そう言われて、私はしかしまだ警戒を解かないままペットボトルを受け取る。
その男の言葉に確たる証拠などどこにも無いのだが、なんとなく、仮面の男はうそをついていないように見えた。
水を見たら喉の渇きを自覚してしまってこれ以上こらえられなくなったとか、そんなことはない。
……ないったらない。
「さて、それでは一つずつ話していこうか。まず、私が誰かと言う質問だが……。私は……そうだな。普段はベネットと名乗っている。君も聞き覚えがあるだろう?」
私は思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「それって私を殺そうとした……」
とっさに身構えて、鋭い視線を仮面の男に向ける。
「いかにも、私は君を殺そうとした。だが、少しばかり状況が変わってね。すくなくとも今は君を殺すつもりはない」
少なくとも今は。
「……どうして私を殺そうとしたの?」
「ふむ。君は自分の力がどのようなものであるか知っているかね?」
話の流れを真横からへし折るように男は私に聞いてきた。
「虫さんとお話しする力、だけど……」
私がそう答えると男は一つ、ため息をついて首を横に振った。
「違うな。私が聞いているのはそこじゃない。その様子だと何も知らないようだ。ならば教えてやろう。その力の根源を」
私の力の……? 思ってみれば生まれたときからそばにあった能力だ。そこにあるのが当たり前のものの由来など考えたことも無かった。
「君は異世界、と言う概念を理解できるか?」
「うーん。がいねん?」
「そこからか……。まあいい。異世界というのはこの世界とは異なる世界のことだ。この地球のように生き物が生き、人間が住んでいるような星が他にもあると思ってくれれば良い。そしてその世界は我々の言葉で言えば、『魔法』や『モンスター』と言ったものが存在する、おとぎ話の中のような世界だ。
君は自分の力が魔法みたいだと思ったことはないかね? 虫と会話する。普通の人間には成しえない、それこそ本の中でしかあり得ない力だ。だが、それがあり得ないのはこの世界での話。異世界でなら、魔法の存在する世界でならあり得ないとまでは言い切れない」
「それって、つまり……」
「そう、君や、あの少年の持つ、虫と関わる不思議な力。それは異世界から来たものなのだよ」
仮面の男は語り出す。この世界に34人の少年少女のみが持つ力の真実を。
読んでくださりありがとうございます。
次回はこの話の続きで、次々回からおにーちゃんの視点に戻る予定です。




