第二十一話 『暴露するG』
「そこの少年! 君には昨晩からの凶暴ゴキブリ大量発生事件の首謀者の疑いがかけられている。今すぐ両手を挙げてひざまずけ!」
この台詞だけ聞くと、事件の名前も相まってなんだかギャグ漫画の中にいるのかと勘違いしてしまいそうだけど、現実はそんなに緩くない。
僕を取り囲む特殊部隊らしき人たちは皆一様に自動小銃を僕に向けて構えていた。
いや……何かおかしくない? 自動小銃だよ? 普通はいきなりそんなもの持ち出してこないよね? 僕は脱獄した凶悪犯罪者か何かなのかな? というかここは本当に日本なの? やっぱりギャグ漫画の中なんじゃ……
「もう一度警告する。今すぐ両手を挙げてひざまずけ! 従わないようなら撃つ!」
この部隊の指揮官らしき人物がもう一度僕に繰り返した。
しぶしぶ僕は両手を上げる。しかし、ひざまずくことはしない。
「一つ、良いですか? 僕がそのふざけた名前の事件の首謀者であるという証拠はあるんですか?」
ほぼ間違いなく僕がやったことだろうと確信してはいるけれど、今はそれどころじゃない。ハルカが誰かに連れ去られた今、これ以上無駄な時間を使いたくはなかった。僕は幾分冷静になった頭でこの場を切り抜ける方法を考える。
「証拠はない。普通なら一般人の可能性がある君に銃を向けることなどあってはならないのだが、今はそんなことを言っている状況ではないのでね。この廃工場から出てきた君にはそれ相応の対応をとらせてもらう」
「何があったのかはよく知りませんが、僕はただのこの廃工場を根城にしているホームレスですよ。大体ゴキブリが大量発生したところで僕に何の関係があるんですか? こんな物々しい装備でやってくるようなことでもないでしょうし」
僕はあくまで知らないふりをして乗り切ろうとシラを切った。あわよくば一体何があったのか詳しく知りたいと言う打算も混じってはいたけど。
「今言ったばかりだが、今はそんなことを言っていられる状況ではないんだよ。昨日の深夜から今朝にかけて大量発生したゴキブリの数はおよそ一万匹。すでに百人を超える犠牲者が出ている。自衛隊を動員した薬剤散布によって事態は収束したが強力な殺虫剤を使ったため、当分この町には立ち入りさえ制限されるだろう」
「なるほど。それで、その大量のゴキブリの発生の中心地と推測されたこの廃工場から生存者が出てきた。普通に考えれば骨すら食い尽くされていてもおかしくないのに、ということですか」
どうやら僕は相当間の悪い時に外に出てしまったらしい。これでは見逃してもらうのはまず不可能だろう
「そういうことだ。なかなか察しが良いな」
「ですけど、僕がどうやってそんな事件を起こすって言うんですか? まさか、一日の食にも頭を悩ませるような人間が一万匹を超えるゴキブリを飼い、調教する余裕があるとでも?」
「普通に考えればそうだな」
「なら!」
「だが」
食い下がろうとする僕の言葉を指揮官は遮った。
そして、彼はにやりと口の端をゆがめて僕に言った。
「残念ながら、これは警視総監直々の命令でね」
「まさかッ……!」
その言葉に、僕は自分で自分の顔が青ざめるのが分かった。
「諦めたまえ。あの人のことは私よりも君の方がよく知っているはずだ。なにせ――」
僕の脳裏を男の顔がよぎる。忘れたくても忘れられない、増悪と恐怖とそして嘲笑が込められたあの表情が。
「――君の父親なのだから」
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