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21.正体

 ゆっくりと地上に降りたルナと更田は、まず封印に使用された建物を確認する。現状、浄化作用も正常に稼働しているようで、それこそ15年でも時間をかければ消失するだろう。

 封じに尽力したプロメテウスとシャランが二人に迫って近づく。ソルとアルタイルとは警戒が強いのか遠巻きに様子を探っていた。


 豪雨は去り、大気も安定を取り戻したものの、政治の中枢たる王宮は荒れ果て、見る影もない。新たな魔王も旧来からの重臣も、速やかに復興に当たる必要があり、本来であれば、過去に、もう帰らない月日に拘っている暇はなかった。

 けれど亡霊が唐突に姿を現したのだ。

 胸の痛みと共に、振り払えない追憶と共に、やるせない葛藤と共に、重なる面影が悪夢を突き付けてくる。


 疑念に堪え切れず、プロメテウスはルナと正面から真っ直ぐ対峙した。

 触れさせまいと更田が疲れた身体に鞭を打って間に入る。ルナ自身は庇われるのを良しとせず、更田の腕を掴んで払い、前面に出た。

 深い漆黒の左眼が冷たく遠く相手を映す。煌めく金色の右眼は奥底に神秘を湛え相手を魅了する。

「貴女は、何者……ですか」

 プロメテウスは上ずった声で詰問した。


 魔王の髪を力として吸収し、魔王の右眼を得た少女の正体は、いったい何なのだろう。千年を治めた彼の王の、もう何処にもないはずの長い記憶すら、幼い肉体に混じったとでも言うのか。そんな奇跡の所業をただの娘が為し得るはずがない。


「なぜ私を呼んだのですか!」


 永遠に失われたはずの己の略称を、夢幻のように甦った金色から呼ばれなくてはならないのか。プロメテウスは常になく大声を上げる。

 年長者ゆえに落ち着き払った普段の振る舞いからかけ離れている。プロメテウスの動揺は周囲をも狼狽させた。

「ちょっと、宰相閣下」

 シャランがプロメテウスの気迫に驚いて、躊躇いがちに制止する。

「彼女はその……もうこの際だから話すけど」

 やや迷いながらもシャランは黙秘していたルナの背景を伝えた。


「この子は実は……異世界、別の世界から来た『人間』なわけ」

「な!?」

「異世界だと?」

 アルタイルがやや離れた距離からも言葉を拾い驚愕する。

「ええ元帥閣下。実は私はずっと、オートロード、次代様を連れて異世界に逃げてたんですよ。彼女は巻き込まれて一緒に戻ってきた異世界人……です」

 全員に伝わるようシャランは説明する。

「異世界と行き来など可能とは思えぬ」


「いえ」

 疑問に答えたのは更田だった。

「事実、俺はずっと異世界でシャランに育てられましたし、ルナ先輩……そのひとを連れてきたのも間違いないですよ」

「信じられぬ。確かに太古には異世界と交流があったと聞くが」

「ええ、魔王だの魔力だのは元は向こうの『人間』から見た呼称を逆輸入したらしいですしね。ただ、世界を越えて転移するほどの術式はほぼ失われて久しかった。15年前の事件がなければ秘術を復活させる必要はなかったでしょうけど」

 更田は肩を竦め、自分自身の生い立ちを含めて暴露する。

 別の世界からの来訪者と明らかにされ、あまりにも怪しい素性に唖然とされても、ルナは涼しい表情をしていた。

 存在自体が常軌を逸している。奇異の目に晒されなお平然と佇む少女が不気味に映る。


 だがプロメテウスは誤魔化されなかった。 

 今まで起こった信じ難い事象すべて、少女が異世界人であることが理由になるのか。否、それだけでは説明がつかない。

「異世界というのは信じましょう。ですが」

 プロメテウスは僅かにも視線を逸らさず、再び問い掛ける。

「貴女は何者ですか?」 

「……ロメゥ」


 答える代わりにルナは名を呼んだ。

 当ててみろとばかりに悪戯を仕掛ける子どもじみた笑みを浮かべる。

 逆撫でされ、プロメテウスは激昂した。

「なぜ!!」

「宰相閣下!?」

「プロメテウス?」 

 他の者はそこまでの不審の理由がわからない。

 先刻からルナが口にするプロメテウスの略称など、誰も知らないからだ。


 本人と――千年を治めた魔王以外には。



「ええっとですね、宰相殿」

 場を収めるため更田が割って入り、プロメテウスを抑えた。

 困ったようにルナを一瞥する。挑発紛いで逆上させてどうするのか。  

 自分が原因であるというのに、当人は至って気に留めていない。ルナはよく傍若無人に自分を巻き込むなと非難するけれども、本当に翻弄されているのはどちらだろう。

 はぁと息を落とすと、更田はくたびれた声音で告げた。


「このひとの正体、というか、何と言いますか……うーん、側近でもわからないものなのかな。守護者クロイツはわりとすぐ、このひとに気づきましたけどね」

「緑林山の守護者が……なんですか? 屠ったのはあなたでしょう」

「いいえ、彼はルナ先輩が何者か悟ったから、意を汲んで滅びを受け入れただけですよ」

 更田はゆっくりと頭を振る。

 そして爆弾を落とすのに似た心境で、紡ぐ言葉を選んだ。


「簡単に言ってしまうとですね、このひとは、先代殿の……」



「つまり、魔王の生まれ変わりなんですよ」

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