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偽りの英雄  作者: 考える人
第四章 革命始動
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建国祭 sideリリー


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」


 路上にうずくまり、奇声を発する少女。

 通行人の誰もが怪訝な目でその少女を見るが、その少女が第三王女リリアーナであることに気づくものは決していない。

 例え気づいたとしても、別人だと思い直すだろう。


「あのクソ×××! ○○○!! ××××!!」


 とても子供には聞かせられないようなセリフを、今もっとも憎い人間に向けて大声で叫ぶリリー。


「王女から財布を盗むとか!! 不敬にもほどがあるでしょう! 全身切り刻まれた後、燃やし尽くされても償いきれない罪ですよ!!!」


 姿を偽り、立場を忘れ、祭りを楽しもうと気合を入れたリリー。

 去年とは違い、財布もばっちりポケットの中に――


 手を入れ、確認した瞬間に気づく。

 


 ない。



 ほんの、ついほんの先ほどまで、確かにそこに財布はあった。 

 ならばなぜないのか?


 あの男のせいに決まっている。

 リリーの頭の中に、ゲスな笑みを浮かべるトーヤの姿が思い描かれる。


「トーヤを頼るなど論外。そんなことをするくらいなら、この場で舌を噛み切った方がましです。とはいえ、このままおめおめ帰ったところでトーヤの目論見通り、、、くっ! 私はどうすれば!?」


 鬼気迫る表情でブツブツと思案するリリー。

 通行人たちは『警備兵呼んだ方がいいんじゃねえの?』などと相談し始める。


 誰もが近づくことすらためらうなか、リリーに声をかける一人の少年がいた。


「あの……大丈夫ですか?」


 リリーよりも少し背が高く、標準的な体系をした黒髪の少年。

 キリっとした顔立ちで、先ほどリリーがあった剣聖とは、また別ベクトルで容姿が整っていた。


「ああ、どなたか存じ上げませんが心の優しきお方よ。ぜんぜん大丈夫じゃないです。お金と同時にプライドまで奪われそうになっています……」


「よくわかりませんが……スリにでもあったんですか」


「そうなんですよ! それもとびっきり質の悪いのに!!」


 急に叫びだす情緒不安定なリリーに、少年は困惑顔を浮かべることしかできない。


「盗んだ相手に心当たりとかありますか?」


「金髪でメガネをかけ、青い瞳をしたあなたと同じくらいの年齢の少年です」


「めちゃくちゃ具体的ですね」


 少年の予想に反して、犯人に目星はついているらしく、それならばと少年は続ける。


「もしよければ自分も犯人捜し、手伝いますよ」


「いえいえ、そこまでしてもらうのは申し訳ありません。そういえば、こうして親切にしていただいているのに、まだ名乗ってもいませんでしたね。リリー・アンヌと申します」


 当然、自分が王女であることをばらさず、リリーという愛称を本名として伝える。


「自分はイース・トリュウといいます」


「イース――」


「……どうかしました?」


 少年の名乗ったイースという名に、リリーは思案顔を浮かべる――が、すぐにニッコリとした笑顔に戻る。


「いえ、考えたんですが……やはり一緒に捜してもらっていいですか? 例え犯人を見つけても、私一人で捕らえられるかという不安が湧き上がってしまって」


「ええ、かまいませんよ」


「ありがとうございます!」


 リリーはその嬉しさを表現するように、イースの手を両手で包み込むように握る。

 その行動にイースは年相応というべきか、表情に照れが生まれる。


「ではこちらから探しましょうか」


 そう言うとリリーは、トーヤという名の犯人がいるであろう方向とは真逆に(・・・)歩き出した。














「へえ! イース君は今年からサラスティナ魔法学園に通うんですね」


「はい、なにぶん田舎出身なもので。こうして入学前に王都に慣れておこうかと」


 イースとリリーの二人は、窃盗犯(トーヤ)を探すという名目で行動しながら楽し気に会話を交わす。

 今現在の話題は、イースが今年入学する学園についてだった。


「もしわからないことがあれば何でも聞いてくださいね。私は生まれも育ちも王都。それにもう卒業してしまいましたが、ついこの前まで学園の生徒でしたし。付き合ってもらっているお礼です!」


「それは助かります」


「なにについて聞きたいですか? 可愛い女の子の情報なら完璧に網羅してますよ」


 百歩譲って男ならまだしも、なぜ女性であるリリーが女性の情報を網羅しているのか?

 そんな疑問がイースに浮かんだが、思考から投げ捨てる。

 イースは少し考えこんでから口を開いた。


「では、トーヤ・ヘルト様について――」


「ちっ」


「え?」


「いえ、なんでもありません」


 リリーの顔がほんの一瞬、淑女がしてはいけない顔になる。

 幸いなことに、イースがその顔を目撃することはなかった。


「トーヤ……様ですか、あのお方は謎が多いんですよね」


「というと?」


「学園にいれば当然ですが、魔法を使う機会があります。授業に、行事に、課外活動に。他人の魔法を目にする機会だっていくらでもあるんです。にもかかわらず! 学園にいる誰一人として、去年トーヤ様が魔法を使ったところを見たことがないんです」


 気になりますよねーとぼやき、抑揚をつけながら、さぞ興味深そうに話すリリー。

 イースも黙ってそれを聞き続ける。


「それに、長期間学園に来なくなることも頻繁にありましたね。デクルト山事件の前とか、コクマ支部連続窃盗事件あたりもちょくちょくと」


「謎が多い英雄ということで有名ですが、学園内でもそうなんですね」


「ええ、しかも所属クラスがSクラスとかいう謎のかたまりですから」


「Sクラスというのは?」


「ああ、それはですね――」


 その後も、学園関係についての会話が続く。

 学園に入るうえで知っておくべき情報や、学園に通っていたものだからこそわかる情報など、イースにとってとても有益な情報をリリーはもたらした。

 リリーの話し方がうまいのもあってか、半ば犯人捜しを忘れ、リリーの話に耳を傾けるイース。




 そんな調子で数時間が経った。

 日は暮れかけており、祭りは夜の部へと移行しようとしている。


「すいません。馬車の関係でそろそろ王都を出ないといけなくて。これといって力になれず、申し訳ない」


 そう言って謝罪するのはイース。

 結局、この時間になっても犯人は見つからず、情報を一方的に貰った形になってしまったためか、申し訳なさそうに謝罪する。


「いえいえ、こんな時間まで付き合ってもらって。謝るのは私のほうです。途中で飲み物までおごってくださったんですから。ありがとうございます」


「せめてものお礼です。学園について、詳しく教えてくださってありがとうございました。では自分はこれで」


「私はこれからも王都にいますから。また会うこともあるでしょう、イース君」


 お互いが謝礼の言葉を述べ、二人は別れる。






 イースと別れた後、リリーは路地裏へと入って歩いていく。

 薄暗く、祭りの喧騒がどこか遠くに感じられる。


 そんな場所で、気配もなく立っている一人の少女がいた。

 リリーはそれに対して、驚くそぶりを見せることなく、その少女の名を呼ぶ。


「イン、あの少年を追ってください」


「情熱的ですね。惚れましたか?」


「悪くない見た目ではありますけど、少しタイプじゃありません。ああいう素直そうな子よりも、ちょっとひねくれててめんどくさそうな子の方が好みなんですよねー。まあ一番は――」


「すいません。リリアーナ様の好きなタイプの話はまた今度お願いします」


「おっと、ではあなたにはまた20時間ほどかけて私の恋愛トーク大長編を聞かせてあげましょう」


「息をするように地獄を生み出すのやめてくださいよ。変なチャチャ入れなきゃよかった…………」


「日程についてはまた後日連絡します。ああそれと、あの少年を追った後、トーヤに伝えておいてください。



 ――えさにかかった、と」


「はーい」


 めんどくさい予定を入れられたことにげんなりしながらも、命令を与えられたインは理由も聞かず、イースと名乗っていた少年を素直に追っていく。 


 先ほど同様に一人になったリリーは、後ろでまとめていた髪をほどく。

 銀色の髪は、輝く黄金の色に変化していく。

 誰もいない路地裏で、誰もが振り返るほどの美貌を振りかざしながら、その歩みを進める。


「トーヤ、ラシェル、ダヴィ、イン、フーバー、ヴィエナ。私たち、はみ出し者達の出番です。

 

 さあ――誰よりも泥臭く、誰よりも不器用に、誰よりも美しく踊ってやりましょう」


 決意の込められた獰猛な笑みが、夜の訪れとともに浮かぶ。

 

 リリー本人を含め、名の上がった7人の男女。

 彼らが共通して持つもの、それは――


 


 本気で世界を敵に回す覚悟。

 

 偽りを正すべく、彼らは動き出す。


これにて第四章「革命始動」は終了です。

放りっぱなしで終わった話も多かったですが、おいおいということで……


ブックマーク数100件突破!!

本当にありがとうございます!

ちょっとずつ、ちょっとずつ増えていってついに三桁まで行きました。


もしよければ、感想や評価もよろしくお願いします。

作者がとても喜びます。

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