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偽りの英雄  作者: 考える人
第四章 革命始動
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即落ち


 【イン視点】



「はぁ~しんど」


 両手に掲げていた大量のつまみが入った袋を机の上に置く。


 ここはトーヤ様の所有する家。

 王族の隠し子であるラシェルをかくまっており、私がメッセンジャーとして、最近何度も通っていた家でもある。


 時刻はまだ昼過ぎ、そんな時間から酒盛りを始めようとしている雇い主、その酒盛りに参加する自分。

 それらの事実に、半ば呆れながら私はソファに腰を下ろした。


「ご苦労さん」


 そんな雇い主が珍しく、ねぎらいの言葉を投げかける。


「いえいえ」


「余った金でナイフを買ったのはいただけないがな」


「アハハ、何言ってるんですかもう」


 落ち着け、落ち着け私。

 これは鎌をかけているだけ、ばれるはずがない。

 周りに知り合いがいないことは、感知魔法すら使って確認した。


「買ってきたつまみの市場価格を考えると、ちょうど残った金額で欲しかった品が買えるんじゃないか? お前の部屋にあったナイフカタログ、そのカタログに二十丸がつけられていた品を」


「まっさか~」


 しまった! トーヤ様があの時、私の部屋でカタログを呼んでいたのをすっかり忘れていた!

 というか、貴族のくせになんでつまみの市場価格なんて把握してんのよ!


 ……まだよ、まだ証拠はない。

 買ったナイフもすでに部屋に隠してある。

 このままシラを切りとおせば――


「大量生産の品じゃない分、購入した店も容易に特定できる。ツエルに部屋のがさ入れを頼めば、証拠品も簡単に出てくるだろうな」


 ……………ぐう!


「三か月間、髪染めの魔法をタダで行う。これで手を打ちません?」


「一年間」


「……せめて半年で」


「まあいいだろう」


 小遣い稼ぎはできなくなったけど、背に腹は代えられない。

 

 髪染めの作業って、丁寧にやると結構めんどくさいのよね。

 時間もかかるし……


「酒はダヴィに頼んである、料理はフーバーが作ってる。飲みが始まるまでお前も少しゆっくりしてろ」


「わかりました」


 


 そう言われてリラックスしていたが、先ほどから視界の隅に入ってくる光景(・・)が気になって仕方ない。


 その光景とは、二人の少女の姿。

 一人は第三王女のリリアーナ様、もう一人はその腹違いの妹であるラシェル。

 王女は言わずもがな、本来ならラシェルだって最上位の階級に存在する。

 上品な振る舞いが期待され、国民の手本となるべき二人。



 そんな二人が、周りの目を気にすることなくキャットファイトを繰り広げている。


「だから! 私はあなたを姉だなんて認めてない!」


「あなたが何と言おうと、半分は私と同じ血が流れているんです! そう! 血のつながった姉妹! 姉妹であればあれやこれやムフフなことも――イタイイタイ! 髪を引っ張らないでください!」


 ……醜い。


「トーヤ様、何ですかアレ?」


「姉妹喧嘩だ」


「お互い姉妹を見る目じゃありませんよ。一人は殺人鬼を見る目ですし、もう一人は姉妹の一線を越えようとしている目です」


「まあ、その、なんだ。あれが今回飲み会をやる理由だ」


 アレが? 私が飲み会に呼ばれたのアレのせいなの?


「ラシェルのリリーに対する誤解はとけたんだが、あの通りまだピリピリしてんだよ。これからお互い協力していかなきゃならねえってときに、あの状態はよろしくない。だから酒飲んで全部ぶちまけちまえば、わだかまりもとけるんじゃないかと思ってな」


「もうすでに地獄絵図になる未来が見えるんですけど」


 トーヤ様と同じようなペースで飲み始めたら、腹の中のものまでぶちまけかねない。


 リリアーナ様は間違いなく悪乗りする側。

 ダヴィもリリアーナ様には基本強く出られない。

 女とまともに話すこともできないフーバーは論外。

 ラシェルは未知数。


 となれば、私が全員のストッパーになるしかない……

 いい雰囲気の飲み会にするために、私が気合を入れなければ!




ーーーーー




「あはははは! フーバー! お酒足りな~い!!」


「へいへい」


「インさん、あまり飲み過ぎない方が……」


「あ、ダヴィ! あんたもあるでしょ? めんどくさい雇い主に対して言いたいことの一つや二つ!」


「いえ、そんな……」


「いい子ぶってんじゃないわよ! ほらほら、言っちゃいなさい。バカ姫だとか、色欲女だとか」


 完全に酔っ払い、肩をからませながらダヴィにつっかかるイン。

 ストッパーになる、などという決意はとっくに忘れ去られていた。


「あれは酒で身を亡ぼすタイプですね」


「だな」


 そんなインを、トーヤとリリーの二人は冷ややかな目で見る。


「いや飲ませたのあんたらだろ」


 自分は関係ないとでも言うような態度の二人を、フーバーは冷ややかな目で見る。


 飲み会が始まり3時間。

 インの予想した通り、見る者によっては地獄絵図だった。


 インは完全に酔っぱらっており、周りに絡みまくっている。

 トーヤもリリーも、とんでもない本数の酒を飲みほしている。

 フーバーは二度ほどトイレに閉じこもった。


 もともと、リリーとラシェルの関係を修復するための飲み会だったにもかかわらず、ラシェルは開始1時間ほどで寝てしまったため、もはやこの飲み会は目的を失っていた。


「しかしまあ、姉妹でここまで性格が変わるもんなんだなあ」


「それ完全にブーメラン飛んでますからね」


「お前ほどじゃない」


「いやいや、あなたには負けますよ」


「性欲に支配されたやつがなにを……」


「セーヤさんの劣化版がなにを……」


「お前それを言ったら戦争だろ! クソレズ!」


「女が好きで何が悪いんですか! 魔力無し!」


 一国の王女と貴族が取っ組み合うその光景に、フーバーはあきれ顔になる。


「いいですか!? 性別の壁なんてもの、好きになればトーヤの防御魔法同然なんですよ!」


「さっすが! 精霊でさえ浮気しまくったせいで、契約してくれる精霊がいなくなったお方は言うことが違いますね~!」


「恋多き女はいい女! あと私はレズじゃなくてバイです! つまり人より二倍恋多き女! 初恋は男の子だったんですから」


「え、なに? 王女様の初恋? 気になる気になる!」


 初恋という言葉を聞きつけ、インが二人の傍による。


「ふっふっふ、聞きたいですか?」


「聞きたい!」


「いや俺は別にいい――」


「いいでしょう! この私、シール王国第三王女リリアーナの甘く切ない初恋エピソード! じっくりと話してあげますとも!」


 王女の初恋にすっかり興味津々のイン。 

 それとは対照的に興味なさげなトーヤの言葉を無視し、リリアーナは話を始める。


「実は私……昔は無口でおとなしい子だったんです」


「「ダウト」」


 バリィィン!


 トーヤとインの持っていた酒瓶が、リリアーナの放った魔力弾によって木っ端みじんになる。


「人の話は黙って聞きましょう、ね」


「「イエス マム!」」


「よろしい」


 二人が口を閉ざしたのを確認し、再び話し始める。


「あれは10年近く前のことです――」


というわけで次回はリリーの過去編です。

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