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偽りの英雄  作者: 考える人
第一章 学園の問題児
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二度目の初対面




 祭りの日から三日たった朝、俺は体に残る疲れを感じながら目を覚ます。


 説教をくらったあの日から、しごかれにしごかれた。

 兄が家にいないうちは家庭教師から礼儀作法、食事マナー、社交知識、これから学園で学ぶ四年分の知識を詰め込まれ、兄がいるうちは鍛錬という名の家庭内暴力を受ける日々。


 そもそも肉体的鍛錬ならまだしも、礼儀作法などに関しては初めて習ったわけではない。

 これでも一応貴族は貴族だ。

 物心ついたころから、いや、物心つく前から徹底的に叩き込まれている。

 社交界への顔出しはまだほんの一部にしかしていないが、貴族として完璧な立ち振る舞いをする自信はある。


 まあなにが言いたいかというと――


 たるい。


 復習だとかなんとか言っていたがまじでたるい。

 逃げようと思っても、マヤの監視に恐ろしいほどすきがない。

 絶対まだ祭りの日のこと根に持ってる。

 

 だが、今日こそはなんとしてでも逃げだ――


「おはようございます。トーヤ様」


 上半身を起こし、横に振り向くと当然のようにマヤが立っていた。

 あれ? ここ俺の部屋だよね?


「えーっと……マヤさん」


「なんですか? そんなあらたまって『さん』付けで呼ぶなんて。いつも通りマヤお姉ちゃんと呼んで下さい」


 一度たりともそんな呼び方した覚えねえよ。


「いや、なんで当たり前みたいな顔して、人の寝室にいるんですかね?」


「なにをいまさら、私とトーヤ様の仲じゃないですか」


 胸に手を当て、わざとらしく顔を赤らめるマヤの仕草が非常に腹立つ。

 無駄な小芝居しやがって。


「まぎらわしい言い方すんじゃねえボケ。ただの主従関係だろが」


「ああそうですか、トーヤ様にとって私は都合のいい女でしかないんですね」


 やべえよ、会話が成立しねえ。

 日頃からめんどくさい部分はあるが、今日はいつにもましてめんどくさい。


 もういいや、適当に話を逸らしてやろう。


「そういえば俺、学園に通うとき新しい護衛がつくらしいな」


「新しい護衛がつくなら私はお払い箱ですね。都合が悪くなったらポイッてことですか。どうせ遊びの女ですから……」


 どうやってもめんどくさい方向に持って行こうとするんだけど、どうしろってんだよ。


「学園に通ってる間だけらしいから、帰宅後とか休日は普通に今まで通りだよ。自由時間が増えたと思って喜べばいいじゃねえか」


「……どうせ自由時間があっても、遊ぶ友達なんていませんので」


 急に拗ねたように顔を背ける。

 やっぱ祭りの日のこと根に持ってやがった。


「悪かったってあん時は、それに俺だって一緒にまわる友達とかいなかったし」


「銀髪のかわいい女の子とデートしてましたもんね。友情より恋ですか。ああそうですかそうですか」


 ……なんで知ってんのこいつ?


「噂になってましたよ。美少女とそこそこ美少年のカップルがデートしていた、と」


 誰だ、そんなふざけたことをほざいたやつは。

 そこそこってなんだそこそこって。

 文句なしの美少年だろが。


「どうせ私みたいな年上より、同世代のかわいらしい子のほうがいいに決まってますもんね」


 なんで今日こんな機嫌悪いんだ? なんかあったのか?

 昔から機嫌悪いとめんどくささに拍車がかかるし、少しくらいフォローしとくか。


「いや、女性の好みでいえばどっちかというと、俺は年上のお姉さんタイプのほうが好みだな」


「…………そうですか」


 マヤは少し照れたように顔を逸らす。

 なに乙女ぶってんだこいつ。


「といっても、マヤを女としてみるなんて無理な話だけどな」


 ハハハ、と笑いを誘うように話しかける。




 俺の意識はそこで途絶えた。





ーーーーーー



「リリアーナ様が今日のお昼頃、屋敷にいらっしゃいます」


 起きて開口一番に聞かされたのがこのセリフだった。


「……は? リリアーナって、というかなんで俺また寝てたんだ?」


「二度寝したんですよ」


「え? いやでも――」


「二度寝です」


 ……なんかこれ以上聞いたらダメみたいだな。


「じゃあそのことはまあいい。それよりなんだよ、リリアーナがくるって?」


「ですから、トーヤ様の兄君であるセーヤ様の婚約者、この国の第三王女リリアーナ姫がこの屋敷にご来訪されるんです」


 いや、詳しく言えってわけじゃない!


「まったく聞いてないんだけどその話!!!」


 一国の王女の来訪、それは例え英雄家であってもビックイベントだ。

 なのに……!


「言ってませんから」


「言ってませんから、じゃねーよ! 普通何日も前から知らされるもんだろそんな大事ことは! 当日の朝に知らせるって頭わいてんのか!?」


「トーヤ様以外の屋敷の者は全員知ってましたよ」


 あれーー? 俺だけ仲間はずれですか。しまいには泣くぞ。


「セーヤ様からの言伝があります」


「言伝?」


 なんでまたそんなもん……


「『事前に知らせれば、お前はめんどうごとを嫌って確実に逃げ出すだろう。だからぎりぎりまでふせておいた。これから逃げようなどと思わないことだ。マヤにはしっかりと監視するように頼んである』とのことです」


 あのクソ兄貴!






 ……よくわかってんじゃねーか俺のこと。


 実際これまでも、何度か兄の婚約者に会う機会はあった。

 だが俺はめんどうごとを嫌い、いつも前日から家を抜け出したり、あらかじめ予定を入れておいたり、何かしら爆発させて来訪自体をパアにしたり。やはり爆発は全てを解決する。

 といったように、あの手この手で会合を避けてきた。



 ――が、今回はどうやら避けるのは不可能みたいだ。

 こんなことなら、死ぬほど退屈な講義を受けてたほうがましだったな。


 


ーーーーーー





 王女が来訪予定の時間なり、俺は堅っ苦しい正装に着替えて所定の部屋で兄と待機している。

 他のやつらはあらかじめ来訪を知っていたため、準備がスムーズだったのに対し、俺はぎりぎりまでかかってしまった。


「もっと余裕を持って行動しろ。普段からの心構えがなっていない」


 そう俺に苦言を垂らすのは、実の兄であるセーヤ・ヘルトだ。

 ヘルト家の長男であり、すでに親父から次期当主として指名を受けている。

 これから会う王国第三王女と許嫁関係であり、俺がこれから通う学園に主席入学して主席で卒業。  

 今は王国の軍で特別顧問みたいなことをやっているらしい。

 あと金髪碧眼のイケメン。


 人として非の打ち所がなさ過ぎて、むしろ人間味がないハイスペックおばけだ。


 しかし準備が遅れたのは、ぎりぎりまで隠していたおめぇの責任だろ――と内心では不満たらたらだが、決して口にはしない。

 ちょっとでも反論しようものなら、怒涛の如くあの手この手で言い返される。

 ぎゃふんと言わされるのはいつも俺のほうだ。


「リリアーナ様がお着きになられました」


 その時、一人の使用人が姫さんの到着を告げる。


「ではお前は後から入ってこい」


 そう言ってセーヤは姫さんの待つ部屋に向かう。


 最初にセーヤが姫さんと会い、しばらく二人で話してから俺の紹介というのが最初の流れだ。

 わざわざ俺が会う必要なんてあるのかねえ。


 


  シール王国第三王女リリアーナ姫

 使用人の話によると、黄金のように美しく光る金色の髪が特徴的だという。

 凛とした普段の立ち振る舞いと一転して、笑うととてもかわいらしい少女。

 この春から王都の学園の4年であり、生徒会長という生徒のリーダー的なものを務めている。

 年は18、俺の3つ上。


 俺が知っているのはこれくらいだ。

 まあこれだけでも十分ハイスペック感がただよってきてる。

 そんな人物と許嫁関係とはうらやましいかぎりだよ。


 俺にも美人な許嫁頼むぜ親父。

 ゴリラみたいなのが相手なら、本気で国外逃亡考えるからな。


「トーヤ様、セーヤ様がお呼びです」


 いろいろ考えているうちに話は終わったらしい。

 こうなったらパッと会ってパッと終わらせるか。


 覚悟を決めてドアをたたく。


「入れ」


 兄の返事を聞き部屋の中に入る。

 部屋に入ると、兄、(おそらく)姫さん、姫さんの従者らしき女、の合計三人が部屋の中にいた。


「弟のトーヤです」


 兄から紹介を受け、姫様のほうに向き頭を下げる。


「お初にお目にかかります。トーヤ・ヘルトと申します」


 頭を下げる前に少し姫さんの顔を見た。

 噂通りきれいな人だった――けど、なんというか、その、つい最近どっかで見たことあるような……


 いやいやいや、まさか……な。

 ほら! 一瞬しかみてねーし、他人の空似なんてよくあることだし!


 挨拶を終え頭を上げ、もう一度姫様の顔を見る。


 一目みただけで目を引かれるきれいな金色の髪だった。

 その髪を銀色にして後ろでくくれば、この前会ったリリーそっくり……








 リリーですね、はい。

  

一人目の兄妹登場。

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