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偽りの英雄  作者: 考える人
第ニ・五章 王都への旅路
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ある出会い②



 金を手にした俺は服を新調した。

 臭いうえにボロボロになった学園指定の制服は捨てた。

 水場を見つけて洗ったりもしていたが、さすがに限界を感じた。

 

 今ごろ雑巾となって新たな活躍の場を見つけているだろう。


 さて、身だしなみは整え金も手に入れた。

 さあいざ我が家へ!!


 ――の前に、


 俺はしばらくの間、これでもかというほど禁欲生活を強いられた。


 食べ物はそこらへんの野草と焼いただけの肉、酒などあるはずもない。

 いつ魔獣に襲われて殺されるかわからない中での睡眠。

 女どころか人間すらいない。


 そう、ここで少しぐらいパーッと騒いだところで罰はあたらないのではないだろうか?

 いやあたるまい!!


 今日はこの街で欲望の限り騒いでやるぜ!!!




ーーーーーー


 翌日


「わりいんだけどもう少し金かしてくんない?」


「それはかまいませんが……必要な額がお足りにならなかったんですか?」


「まあそんなとこだ」


 うそだ。


 昨日で全額使ってしまった。

 酒場で酒飲んでるとつい気分良くなって、『今日は全部俺のおごりだ!!』などと言ってしまった。

 その後仲良くなった酒仲間と何件も周り、いつのまにやら借りた金をほぼ全額使うという事態に。


 完全に自業自得ですね、はい。


 やっぱ人間は禁欲生活よくないよ。

 適度に欲望を発散させないと。


 結局、幸先不安だったため今度は二百万ほど借りることにした。



ーーーーーー

 


 さて、ここからだと領地のほうよりも王都の別宅のほうが近い。

 そのため王都を目指すことにする。

 ゆっくりだらだら向かったとして一か月ってところか。


 ただこのまま、また一人で帰るというのはあまりにも味気ない。

 というわけで護衛を雇うことにした。

 危険なめから守ってもらえるうえに、暇な時の話し相手にもなってもらえて一石二鳥だ。


 この街の魔法使いたちを管理している役所に行けば、簡単に護衛を雇うことができる。


 さっそく役所に向かう。

 役所につくと、依頼を出す側と依頼を受ける側の入り口が分かれていた。

 

 俺は依頼を出す側の入り口から中に入る。

 中に入って受付に行くと、今回依頼するのが初めてだということで、係の人間から懇切丁寧な説明を受けた。


 依頼の仕方だの、前金だの、仲介料だの。

 だいたいわかってはいたが、役所は完全に仲介業者の役割を担っているみたいだ。


 ちなみに、気に入った魔法使いを引き抜くような事もありらしい。


「――というわけで説明は以上になります。では依頼担当のかたに変わりますね」


 そう言って今まで説明してくれていた人はさがり、代わりに気さくそうな男が出てくる。


「じゃあ今から依頼について詳しく聞いていくね。具体的な依頼内容は何かな?」


 受付の男はくだけたような話し方で質問してくる。

 俺がガキだからか?まあいいんだけど。


「王都サラスティナまで行くからその護衛だ」


「護衛任務だね。依頼人数はどうする?何人以上とか何人までとか希望があれば」


 人数か……多すぎてもあれだし少なめでいいか。


「三人まで」


「最高三人っと」


 男は話しながら紙に内容を書き込んでいく。


「依頼を受ける側に対する希望はあるかな?」


 ある程度の強さは当然護衛なら欲しいからな。


「危険度Bの魔獣ぐらいは一人で簡単に倒すぐらいの実力」


「危険度B……他には?」


「そうだな、馬車をあつかえて……」


「馬車……」


「欲を言えば……俺より年上で俺を甘やかしてくれるような女性がいい」


「そういう店行きなよ」


 後で行くよ。


「まあ最後のはできたらでいい。しばらくこの街にとどまるから、三日たっても依頼を受ける人間がいなかったらその条件は外しといてくれ」


「了解、じゃあ後は報酬に関してだね。今までの条件をもとにだいたいの金額を見積もることもできるけど」


「日給10万、馬車代食費代宿代別のボーナス付き。これくらいだとどうだ?」


 この言葉に男は驚いたように言葉を返す。


「……そりゃもう破格の条件だけど、王都までは相当日数かかるよ。大丈夫なの?」


 俺のポケットマネーで余裕で払える額だ。


「大丈夫だ、何の問題もない」


 そういうと男は緊張したような顔で耳打ちしてくる。


「あの……もしかしてお忍びの貴族のかただったりします?」


 貴族かもしれないと分かった瞬間に話し方や態度を変える姿勢、嫌いじゃない。


 そうだよ、これだよ。

 昨日も思ったが、貴族としてちやほやされるこの感覚が久しぶりでとても気持ちいい。

 余は満足だ。


ーーーーーー



「マスター、次もうちょい強めの奴ちょうだい」


「かしこまりました」


 依頼を出したその日の夜、俺は昨日よりも比較的落ち着いて酒を飲める場所で、一人寂しく酒を飲んでいる。

 バカ騒ぎして飲む日も楽しいが、雰囲気の良い店で静かに飲むのもいいもんだ。

 ぶっちゃけ気分よく酒が飲めたら基本どこでも好きだ。


 でもどちらかといえば、やっぱり俺は話し相手がいる方が好きだな。

 美人なお姉さんがしゃべり相手だとなおよし。


 そんな願いが通じたのか、カウンターに座っていた俺の隣に女性が座る。

 シルバー系のブロンドの髪で、少し年上くらいの女性。

 整った顔立ちをしており、その表情からは大人の余裕とでもいえるオーラがにじみ出ていた。


 要するにめちゃくちゃタイプ。


「へえ、強いお酒飲むんだ」


 俺の持っているグラスを見て、女性が話しかけてくる。


 おいおいまじか、こっちから話しかけようと思ってたがまさかあっちからきてくれるとは。

 というかそもそも席は他にもたくさんある。

 その中でわざわざ俺の隣に座ったということは……もしかしてワンチャンあるか?


「うん、お酒は大分強いよ。そう言うお姉さんもけっこう強そうだけど」


 俺は年下の少年モードスイッチをオンにしながら、女性の頼んだお酒を見て返事をする。


「まあそれなりには飲めるよ。君もかなり自信ありそうだね」


 もうどこかで飲んできた後なのか、ほんのり赤い顔で笑いかけてくる。

 うわあ、その表情ずるい、ずるいわあ。


「なんなら飲み比べしてみない?勝っても負けてもお姉さんが代金払ってあげるから」


 飲み比べか……悪いが今までの人生で誰かと飲み比べをして負けたことがない。

 うちの家族となら負ける可能性もあるが、そもそも飲み比べとかしないし。

 勝つと分かっている勝負を受けるのも少し気が引ける。

 だからこの勝負は受けないで――


「負けた方は、勝った方の言うことを何でも一つ聞くってのはどう?もちろん、私が勝ったからって代金払えとか言わないからさ」


 受けてたとう。

 ヘルト家たるもの勝負事から逃げるなど、あってはならないからな。


「な、なんでもって……」


 正直もう勝負を受ける気満々なんだが、今は少し純な少年モードだ。

 顔を赤らめ、戸惑うようなていを演出する。


「ふふ、何を想像したのか知らないけど、なんでもって言ってしまったからね。もちろんそういうことだってありだよ。もっとも、私に勝てたらだけどね」


「ぼ、僕はそんな変な想像なんて何も!……わかった、その勝負受けるよ」


「決まりだね!マスター、この店で一番きついやつちょうだい」


 女性がお酒を注文し、飲み比べが始まった。

 お互い、きつい酒をハイペースで飲み続ける。



 1時間後


「ああもうだめ!」


 そういって女性がカウンターにうつ伏せになり倒れる。


「僕の勝ちってことでいいかな?」


「う~ん……くやしいけどいいよ、私の負け」


 勝つには勝った、が。

 かなり飲んだなこの人。

 正直俺はまだまだいけるが、ここまで善戦してきた相手は初めてだ。


「う~少しぼんやりしてきたかも。そういや負けた方は何でもいうこと聞くって約束だったね。どうする?」


 うつ伏せになりながらも、顔をこちらに向け、見上げるように覗き込むその表情がかなり魅力的だ。

 しかも挑発してくるような笑みを浮かべているから、なおさら破壊力がやばい。

 

 理性がふきとびそうになるが、勝った時のお願いはもともと決めてある。


「じゃあ――



 このまま朝まで()の話し相手になってよ。この店、朝まで営業してるらしいからさ」


 俺のこの言葉に、女性は不思議そうな顔になる。

 

「……いいの?そんな内容で。正直もっと踏み込んでくると思ってたけど」


「そりゃ魅力的な内容だけど、あなたみたいなきれいな女性(ひと)と、一晩の関係で終わらすのはもったいないから。お互いのこともっと知りたいし」


「フフフ、君みたいな年下に口説かれたのは初めてだよ。そういやお互い名前もまだだったね。ヴィエナ・ヴァントだ。これからよろしく、少年」


 女性はヴィエナと名乗ると、先ほどまでの態度から少し変わり、発言からもさばさばした雰囲気が感じられる。

 どうやらこっちのほうが素の態度らしい。

 どちらかというとこっちの態度のほうが、俺としては好ましいので大歓迎だ。


「トーヤだ。ちなみに家名はあるけど今は秘密で」

 

「なんだ、教えてくれないのか。まあ貴族のお忍びなら隠して当然だろうし、深くは聞かないでおくよ。それより、それが君の()かい?それとも酔っているせい?」


 おそらく純な少年モードをオフにしたため、変化した俺の態度に対する質問だろう。

 

「さあ、どっちだろう。また明日にでも、酔いがさめたときに会えばわかるかもな」


「もしかしてそれも口説いてる?」


「もちろん」


 俺とヴィエナは、顔を見合わせて笑いあう。


 こうして俺とヴィエナは、朝方店が閉まるまで話をして過ごした。

 自分よりも優秀な兄弟姉妹がいることや、趣味の話、魔法の話、この街の話。

 いろんな話をした。


 そうして朝、お互いの住んでいる場所や泊まっている場所を、一切伝えずに別れた。

 しかし、俺はまた近いうちに会うことを確信していた。


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