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偽りの英雄  作者: 考える人
第ニ・五章 王都への旅路
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五王の森①

二章と三章の間の話です。



 鬼族の村を出て丸三日、ただひたすらに森の中を歩き続けた。

 そろそろ『五王の森』に踏み込むことになる。

 鬼族の村からシール王国に向かうには、どうあがいても地形的にこの森を抜けなければならない。

 鬼族の村に人間が来ないのはこの森のせいだ。


 『五王の森』とは何か?

 魔獣にはS~E級という形で危険度のランク付けがされている。

 S級は国を滅ぼしかねない神話級の魔獣という桁違いの存在なので、ひとまず置いておく。


 その次のA級はその中でも、A-、A、A+というふうに三つに細分化されている。

 魔獣の強さが細かく測定されるようになった結果だという。


 要するに、魔獣の危険度はSの次がA+、その次にA、A-と続いていく。

 今現在、シール王国が把握している危険度A+の魔獣は五体。

 その五体の魔獣は『五王』と呼ばれている。


 もうおそらく気づいただろう。

 そう、この『五王の森』には危険度A+の魔獣がすべて存在している。


 以下に、とある冒険者の残した書記から一部を抜粋させてもらう。


ーーーーーー



 五王の森、悪魔の住む天国などとも呼ばれるこの森は、人々が思うほど暮らしにくい環境ではない。

 一年を通して温暖な気候に恵まれ、種類豊かな食物が多く実る。

 人間にとって理想的とも言える環境だ。


 あいつらさえいなければ――


 人類にとってすべてのメリットを無に帰す五王。

 あいつらの存在だけが、この森を地獄に変える。


 もう一度言う、五王の森は暮らしにくい環境ではない。

 絶対に暮らすことのできない環境だ。



          五王の森冒険記  ビエナ・バリュッセン



ーーーーーー


 

 おわかりいただけただろうか?

 俺がこれから徒歩でこの森を抜けようとする無謀さが。

 歩いて帰らそうとするメリダたちの鬼畜さが。


 しかも五王にとって、いや、肉食の魔獣全てにとって人間というのはごちそうだ。

 基本的に魔獣は食べると美味で、理由は詳しくわからないが、やはり魔力が原因だと言われている。


 当然、魔力を持つ生物である人間も例外ではないらしい……

 というわけで、やつらは人間を見つけると目の色変えて襲ってくる。


 俺なんか魔力量的に考えて絶対に美味しくないというのに。

 そんなくだらないことを考えていたその時だった。


 すぐ近くで地響きが聞こえる。

 ズシリとした音の感じから、相当大型な生物の足音だということがわかる。

 もしかしたら五王かもしれないと後ろを振り向く。


 そいつはすぐ目の前にいた。


 五メートルほど先に、大岩かと見間違う大きな大きな足。

 見上げれば、その姿形はカメだった。


 だが大きさが、全長約15メートルほどある灰竜のでかさをゆうに超えていた。

 視界を埋め尽くすその姿に、思わず息をのむ。


 こいつこそが五王のうちの一体、『サイレントタートル』だ。

 俺は必死に息を殺す。

 幸いまだこいつは俺のことに気づいていない。


 サイレントタートルがこの場を過ぎていくのを待つ。

 10メートルほど離れたところで、あれだけうるさかった足音も、あれだけ響いた地響きもきれいさっぱりと消える。

 それでも視界には、まだくっきりとサイレントタートルの姿が映っている。


 これがサイレントタートルの狩りの仕方だ。

 静寂な場を一転、騒がしいものに変え、驚いて飛び跳ねる生物を捕食する。

 大きさからして視界的にどうしても映るが、知性のない生物にはこれでも十分なのだろう。

 今の俺みたいに、百パーセント気づけるわけじゃない。


 人間が扱うとしたらかなり高度な魔法を、サイレントタートルに限らず五王は例外なく本能で行使するからたちが悪い。


 まあさすがに今のは、俺がまぬけだったことを認めざるを得ないが。

 だめだ、もうここは完全に五王の森の中だ、気を引き締めねえと。


 とはいえ、いきなり五王と遭遇して運が悪かったかと言われればそうではない。

 むしろサイレントタートルで助かった。

 五王の中には嗅覚などの五感にたけたやつもいる。

 もしさっきのやつがそいつらなら、俺はもうとっくに胃袋の中に入っていたはずだ。


 ――と強がってみたものの、初っ端からこれじゃ気がめいりそうになるな。






 とりあえず五王についての知っていることを、すべて思い出す。


 五王はこの森を四分割するように縄張りをつくっている。

 自分たちの縄張り外は不干渉、まるで魔獣同士が不可侵条約でも結んでいるようにきっちりしている。


 なぜ五王なのに四分割なのか?

 例外的に、すべてのエリアをえさ場にしている魔獣がいるからだ。


 『スクープホーク』

 体調は灰竜ほど。

 鷹のような見た目の魔獣で、油断しているとどこからでも急降下し、地面ごとえぐり取り捕食する。

 常に空を飛んでおり、地面に足をつけることは生涯ないという。


 そのためどこの縄張りにいようとも、常に空のほうを警戒しておかなければならない。


 ……なんかもうこの時点で詰んでるような気がするんだよな。

 魔法陣もほとんど鬼族の村で使いきった。


 さーて、どうするかな……




ーーーーーー



 数日後


 今日は俺のめでたいはずの誕生日。

 

 それなのに真夜中に火もつけず、木の上に登って体操座りしているのはなぜだろうか。

 歴史ある由緒正しきヘルト家に生まれながら、なぜ自然と共に生きる野生児のような生き方をしなければならないのだ。

 おかしい、俺には輝かしい未来が待っていたはずなのに……


 数日前、五王のうちの一体である『マーダーウルフ』と遭遇してしまった。

 マーダーウルフは他の五王とは違い、群れで狩りをする。

 一頭一頭もそれほど大きくなく、俺と同じくらいの大きさだ。

 一対一ならばぎり……勝てる。

 けどそれが何十頭ともなれば、もう対処できない。

 あいつら動体視力もいいし、鼻も耳も利く、そしてなにより頭がいい。

 

 遭遇したときに臭いを覚えられてしまい、それから今の今までずっと追いかけられ続けている。

 ただ闇雲に追いかけるのではなく、上手いこと縄張りから出さないように追いかけてくるこざかしさったらもう……

 ここ数日は全くと言っていいほど森を進めていない。


 しかもあいつら獣のくせにまったく火を恐れない。

 夜にたき火をしようもんなら、『こんな夜中に火をおこすなんて自分の位置を知らせてるようなもんじゃねーかバーーカ』とでも言うかのように襲ってくる。

 いくらなんでも火に対して躊躇がなさすぎる。

 

 とにかく、五王に対する情報が少ない。

 よく考えればわかることだった。

 足を踏み入れた人間のほとんどが死んでいるのに、情報なんてそう残るわけがない。

 ほんの少し、仕入れた情報でわかった気になっていた。

 なんだかんだ言いながら心の奥底で、相手が人ではなく魔獣だからといってなめていたのかもしれない。


 だめだなこりゃ。

 五王だけじゃない、この森の細かい地形から、生息している動植物まで徹底的に調べるか。

 どんだけ時間をかけてもいい、生き残るためだ。


「グルルルル!」


 意気込みを新たにしていると、マーダーウルフの鳴き声が聞こえてくる。

 下を見ると、すぐそばまでマーダーウルフが木を登ってきていた。


 嘘だろ!!

 なんでオオカミが木登りすんだよ!

 

 俺はあわてて隣の木に移り、同じ要領で木々を移動していく。



 ……こりゃ前途多難だわ。

 

普通の動物と魔獣の違いは、単純に魔力があるかないかの違いです。

魔力があってもまともに扱えない魔獣は多くいます。

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