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偽りの英雄  作者: 考える人
第二章 修業らしきもの
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鬼と外道



 20人斬りを一週間で達成するためには、一日に3人ほどのペースで倒していかなければならない。

 パパッと済ませられるところはパパッと終わらせてしまいたい。


 幸い、一人目であるガルドラはかなりちょろそうで助かる。


 筋肉(メリダ)の出した条件は角を自分のところに持ってくるということ。

 そう、角の折り方までは指定していない。

 要するに、折る方法に関しては何をしてもかまわないということ(拡大解釈)。


 この村に来てからは振り回されてばかりだった。

 素直に言うことを聞いて、素直に修行を受け入れて。

 そこで俺は考えた、いかんこんなのは俺ではない、このままでは俺のアイデンティティが崩壊する、と。

 ここからはメリダの監視もない。


 さあ、トーヤ流というものを見せてやろうではないか。


 


 俺は改めてガルドラと向き合い、口を開く。


「なあガルドラ、人っていうのは本人からの直接の言葉よりも、第三者の言葉のほうが信頼性が増すんだ」


「……どういうことだ?」


 ふむ、いまいちピンときていないらしい。

 まあいきなり何言ってんだっていうのもあるのだろう。


「例えばだ、料理屋の店主が『うちの店の料理はうまいよ』っていうのと、客が『あの店の料理おいしかった』っていうのではどっちを信用する?」


「そんなの客のほう……あ!そういうことか」


 表情や言葉から考えて、どうやら理解したらしい。


 精神年齢は幼いがバカというわけではないみたいだ。

 なおさら都合がいい。


「同様に、『お前はすごいぞ』って本人に直接言われるより、『○○さんがお前のことすごいってほめてたぞ』って言われたほうがなんとなく信用できる気がしないか」


「……確かに」


「そこでだ――」


 俺はガルドラとの距離を一気に詰め、肩を組む。


「ソフィーに対して俺からガルドラのことをべた褒めしてやってもいい。あいつはすっげえいいやつだっていうふうに」


「え!?」


 よし、食いついてきた。

 ガルドラは確かこういった、『ソフィーはこの村で唯一の幼なじみである俺のことを好きになるべきなんだ!』と。

 好きになるべきなんだ、つまりこいつは今現在、自分がソフィーからいい感情を持たれていないということを、心の奥底では理解している。

 ならば当然食いつくと思った。


「ソフィーとは恋愛関係ではないが、友人としての信頼関係はこの一か月でしっかりと築いてきた。おそらく俺の言葉を疑うことなく信用するはずだ」


「本当か!?」


「ああ」


 嘘だ。


 俺はうさん臭く見られないように、害のなさそうな優しい笑顔をつくる。

 それでいて、ガルドラには今までいなかったであろう悪友のようなノリで話していく。


 嬉しさを隠しきれていないガルドラ。

 ソフィーに話しかけるな、というさっきの言葉はもう忘れてしまったらしい。


「ただガルドラ、お前が角を渡してくれるというのが条件だ」


「え!?……でも、メリダさんには角を渡すなって言われたし……」


 ガルドラは戸惑うような表情を見せる。


 そもそも、ガルドラに俺と戦うための理由はソフィー以外になかったはずだ。

 年をとればとるほどガチムチになっていく鬼族の中で、若いガルドラが20人の選抜メンバーに選ばれるというのは考えにくい。

 メリダのように幼いころから、神童と呼ばれるような別格でもないかぎり。

 おそらく、ソフィーのことがあってメリダに頼み込んだのではないか?


 ならばソフィーに関する疑念が解けたであろう今のガルドラにとって、戦う理由はメリダの言葉だけ。


「安心しろ、要するにお前自身が角を渡しさえしなければいい。不慮の事故(・・・・・)で角がとれてしまうのはしょうがないんだ」


「でも、それって……」

 

 俺の言っている意味をどうやら理解できたらしく、ガルドラは戸惑うそぶりを見せる。

 やらせのような行為には抵抗があるらしい。


「でもなガルドラ、もし俺がお前のことを伝えれば『私ガルドラのこと大好き~』なんて言ってくれるかもしれないんだぞ?」


 俺は声マネで、ソフィーの声を完璧に再現する。

 これが予想以上に効果があったらしく、ガルドラの顔が赤くなる。

 まったく、この発情期め。


「お前のことをいいように伝えるだけじゃない。ソフィーとの仲が深まるように、できる限りのフォローをしてやる。いいか、あの岩におもいっきり頭をぶつけるだけで全て自分の都合がいい方に転がっていくんだ」


 そういって、俺はすぐそばにある大岩を指さす。


「それだけでソフィーには好かれるし、メリダに怒られることもない」


「そ、そうなのか……?」


「ああ、そうさ!」


 戸惑うガルドラに、力強く肯定してやる。


「さあ走るんだ!あの大岩に向かって!!」


「ああ……わかった、俺やるよ、トーヤ!!」


 ちょっろ。


「うおおおおおお!!」


 ガルドラの叫び声がこだまする。








 数秒後、大岩の前で角が折れ、意識を失った哀れな鬼が倒れていた。


 まあ普通に無抵抗のなか角をとるだけでもよかったんだが、ぼろ雑巾にするとかいう悪口を俺に対してのたまった礼だと思ってくれ。

 俺は角を回収し、ポケットにしまう。


「さあ、次行こ次」


 そうしてさっそうとその場を去った。








 その様子を偶然見ていた村の住人は、のちにこう語る。


『数百年生きてきたが、あれほどの外道は今だ見たことないよ』




ーーーーーー



 トーヤが20人斬りを初めて三日目の夕方



 メリダは自室で、もうすぐ自分のもとに現れるであろう男を待つ。

 メリダの目の前には18本の角が並べられている。


 バン!という木製の扉を開く音が鳴る。


「三日で19人倒したか……予想以上だ」


 そうつぶやくメリダの目の前には、角を持ったトーヤ・ヘルトの姿があった。


「当然だろ、こっちは故郷が恋しくてホームシック気味だ。さっさと終わらせて帰らせてもらうぜ」


 トーヤは持っていた角をメリダに放る。


「さあ、次が最後だ。すぐに紹介してくれ」


「そう慌てるな、それに……最後の相手がだれか、もうわかってるんじゃないか?」


「わかってるもなにも、俺が考えてるやつ以外じゃ拍子抜けだ」


 メリダの挑戦的な笑みに、トーヤも同じような笑みで返す。


 そんなトーヤの返しに満足したのか、大声で笑いだし、どっしりと立ち上がりトーヤを見下ろす。


「ハハハハハ!!いいな、そういう挑戦的な顔はオーヤそっくりだ。20人目(ラスト)はこの私だ。お前が言っていた一週間まであと四日ほどか。それだけの時間で私の角を折れるかな?」


 相も変わらず、メリダは挑発的な態度をとり続ける。

  

「やってやるよ。言っとくけど、こっちは初めて会った日に吹っ飛ばされたこと忘れてねえからな。角だけじゃすまねえかもしれねえぞ、覚悟しとけよ」



ーーーーーー




 というふうに、かっこつけてメリダに挑んだものの手も足も出ず、ぼっこぼこにされた。

 治療魔法を使える鬼に治してもらったが、比喩ではなくまじで顔面の骨格が変わるぐらいぼっこぼこにされた。


 手加減という言葉を知らねえのかあの脳筋は。


 結局三日目は、一度戦っただけで後の時間はすべて治療の時間にあてられた。

 骨折レベルのケガになると、治療魔法でもかなり時間がかかってしまう。


 治療が終わり夜が更けた今現在、メリダへの対策を部屋でねっている。

 だがまともな案が浮かばない。


 くっそ、わかってはいたがあいつだけ次元が違う。

 

『角を折ればいい』

 そんなもの、対メリダへの救済措置でしかない。

 ツエルや魔法陣の攻撃をまともにくらってピンピンしていたやつに、俺がいくら攻撃を加えようと倒せるはずがない。


 とはいえ、力も速さも経験も、どれをとっても敵う気がしない。

 角を折ることすら超ハードモードだ。

 だとすれば、なにか奇策をとる必要がある。

 それも一つや二つじゃだめだ。

 戦いの終始驚かせ続けるぐらいじゃなければ、この戦力差はくつがえらない。



 ……できないことはない。


 正直汚い手なんていくらでも思いつく。

 手回しをしてソフィーやガルドラに協力させるとか、戦う場所に魔法陣をふんだんに盛り込んだ罠をはりまくるとか。


 けどまあ、メリダのやり方は非人道的とはいえ、俺に強くなってほしいという純粋な気持ちからだ。

 ここまでかなり踏みにじってきた気もするが、最後ぐらいはこっちも本気でぶつかるべきか。


「トーヤく~ん、まだ起きてる~?」


 扉の外からソフィーの声が聞こえてくる。

 

「ああ、起きてるぞ」


 俺がそういうと、扉を開けて入ってくる。


「どうしたんだ?こんな時間に」


 まだ寝るような時間ではないが、普段こんな時間にソフィーが部屋を訪ねてくることはない。


「トーヤくん、おばあちゃんの角を折ったらかえっちゃうんでしょ?だったら今のうちに話とかしときたいな~って」


 あろうことかソフィーは、俺がメリダの角を奪えること前提で話を進めようとする。


「おいおい、俺が角奪えるって本気で思ってるのか?」


「うん、思ってるよ~」


 ソフィーは満面の笑みで自信をもって答える。


「いやいや、あいつの強さは知ってるだろ。何を根拠に……」


「だって一か月間ずっと見てきたもん、トーヤくんの頑張ってるとこ。たしかにおばあちゃんは強いし、厳しいかもしれないけど~……


 理屈とか現実とか抜きにして、きっと勝ってくれる~って根拠もなく思うには十分な時間だよ~」


 いつもと変わらない優しい笑顔でソフィーは言う。


 おいおい、ちょっとキュンとしちゃったじゃねえか。

 俺の死地を笑顔で見続けてたときはやばいやつかと思ったが、ガルドラが惚れるのもわかった気がする。

 そうだ、ガルドラとの約束の件も一応守っといてやるか。


「そういやガルドラのことなんだが――」


「そんな人知らない」


 ……え?


「いやでも幼なじみ――」


「知らない」


「けど――」


「知らない」


「……」


 いつもと変わらない優しい笑顔でソフィーは食い気味に言う。


 ……がんばれよ、ガルドラ。


 鬼の寿命は長い。

 いつか過去の過ちに気づいて、ちょっとずつ挽回していくんだぞ。




2~19人目まで一人一人書くのめんど――そんな興味ないだろうと思ってすっ飛ばしました。


二章はまだ続きますが、鬼族の村での話はあと1、2話で終わります。

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