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偽りの英雄  作者: 考える人
第二章 修業らしきもの
32/158

オーヤとトーヤ

トーヤのほうに戻ります。




「ほら、もうすぐ着くぞ」


 その言葉に目を覚ます。

 どうやら俺は寝てしまっていたらしい。

 相変わらずごつごつした感覚を背中に感じる。


「うちの村のもんでも、初めて灰竜の背に乗った時はビビりまくるんだがな。乗って数分で今まで爆睡するとは、なかなか図太い神経してるじゃないか」


 なんか褒められてる気がしない。


「実は何回か手を放しちまってな、お前三回ほど空中に放り出されちまったんだぜ。いやあ、なんとか回収できたからよかったが危なかった危なかった、ハハハ」


 ハハハ、じゃねえよ!

 え、なに?俺寝ている間に三回も生か死か(デッドオアアライブ)さ迷ってたわけ?


 前のほうを見ると大きな集落が目に映った。


「あれが鬼族の村か?」


「ああそうだ、めったに客など来ない場所だからな。着いたらとりあえず盛大に歓迎するぞ」


 まじか、そりゃ楽しみだ。


 竜はその村へとめがけて一気に高度を下げる。

 村に着き、竜の背から地面へと降りる。


 あてて、そういや骨折れてるんだった。


 俺とメリダが地面に降りると、近くにいた村の者が一斉に駆け寄ってくる。

 その村人は全員、額から一本の角が生えている。


「おかえりなさいメリダさん!」


「村長、問題はありませんでしたか!?」


「一緒にいる人はだれですか!?」


「すごい!人間なんて初めて見た!」


 次々と鬼たちの声が湧き上がってくる。

 どうやらメリダは、この村でなかなか人望があるらしい。

 というか村長だったのか。


 見渡す限り、集落の建物はすべて木造のもの。

 辺りは木や森に囲まれており、自然と共に生きているという雰囲気が村全体から感じられる。


「ねえあなた名前は!?」


「本当に角生えてねえんだな!」


「どんな魔法使えるんだ!?」


 俺は鬼たちに一気に質問攻めにされる。

 なかには興味津々に体を触ってくるやつも。


 あ、ちょっと待ってそこ折れてるから。


「ハハハ、すまんな。さっきも言ったが来客などめったに来ない。だから村の者にとって、鬼人以外の存在が相当珍しいんだ」


 もみくちゃにされている俺にメリダがそう説明する。

 まあちやほやされるのは嫌いじゃないけど。


「とりあえずけがを治してもらえ。夜になったら宴だ、豪華な食事でもてなしてやる。もちろん酒も、な」


 …………ほお。



ーーーーーー




「だめだ……もう、げんか、い……」


 大男がげろを吐いて倒れる。

 その男だけではなく、他にも数人の鬼が苦しそうな顔で倒れている。


 まったく、この程度の実力で俺に勝とうとは……片腹痛い。


「まさか人間がここまで強いとは……」


 周りの鬼人が生唾を飲みながら俺を見つめる。


 なに、恥じることはないさ。

 俺は人間の中でも別格だからな。


「次は俺が相手だ!」


 そういって一人の鬼人が出てくる。

 その鬼人も例にもれず筋骨隆々で、やはりでかい。


 鬼人は男女問わず、年をとればとるほど体つきがたくましくなる。

 そしてでかい。


 俺の身長も同世代に比べればかなり高い方だが、見たところ、この村じゃ下から数えた方がはやい。

 ちなみに鬼人の寿命は結構まちまちだったりするらしいが、千近くまで生きている鬼人もいるらしい。


 話は戻るが、そろそろむさい男だけじゃなく別嬪さんにも相手してもらいたいもんだ。


「腹ん中のもんぶちまける前に、逃げ出したほうが身のためだぞ」


 俺は煽るように話しかける。


「こっちにも鬼族としてのプライドがあるんでな。わりいが引く気はない」


「そうか、ならこっちも遠慮なくいかせてもらうぜ」


 俺と鬼人はにらみ合う。


 そして……互いにかなり大きめのコップに入った酒を一気に飲み干す。


「ぷはあぁ!!」


「うぷ……こんなつええ酒飲み続けてんのかよ」


「おいおいどうした、まさか一杯目でギブアップか?」


「なんの、まだあだ……」


 口では強がっているがどう見ても辛そうだし、すでに多少飲んでいたせいか呂律も回っていない。


「すげえなおい、今で十五人目だぞ」


「村では有名な酒豪も何人かいたのに……」


 周りの鬼たちは、俺の酒の(・・)強さにおののく。


 今俺がいる広い宴会場は、村長であるメリダの屋敷の一部屋で、何人もの鬼族が集まり飲めや食えやと大騒ぎしている。


「まったく、性格といい酒の強さといい、オーヤと似ているのはほんと顔だけだな」


 当然メリダもその場にいるわけで、ほんの少し酒で顔が赤くなっている。


 そういえば初めて顔を見せたとき、俺をオーヤと勘違いしてたっけ?

 常識的に考えて、ただの人間が500年も生きるわけないというのに。


「そんなそっくりなのかよ。俺と初代様は」


「ああ、今でもオーヤのことは鮮明に覚えているが……ほんとそっくりだ」


 どうせ似るんなら、実力のほうを似せてもらいたかった。


「といってもなあ、オーヤに似てるなんて言われたことないぞ。主観的にも似てねえと思うし」


 初代英雄家当主だったオーヤ、その肖像画はシール王国でかなり出回ってる。

 国の危機を何度も救った実績を考えれば当然のことだ。

 当然、俺も嫌というほどその肖像画を目にしてきた。


「ああ、もしかしてシール王国で出回っている絵のことか?あれは私も見たことがあるがまったく似てない!誰だ?あのいかにも理想のイケメンをイメージして書きました――とでもいうような顔は!!オーヤはあんな威圧感を与えるような顔ではない!オーヤはもっとお前みたいにいかにも人畜無害そうな顔で相手に安心感を与えてたまに見せる真剣な顔がまたギャップがあって――」


 メリダは息継ぎすらすることなく、これでもかというほどオーヤの魅力について語りだす。

 え、なにこれめんどくさい。

 聞かなきゃダメか?


 そんな俺の態度が気に障ったのか、メリダが突っかかってくる。


「なんだトーヤ、信じてないのか!?よーし、こうなったら証拠を見せてやる。昔ある絵師に二人の肖像画をそれぞれ描いてもらったんだ」


 いや、信じてないわけじゃないんだけど。

 というか絡みがめんどくさい、絶対酔ってるだろ。


「ソフィー!私の部屋から絵を持ってきてくれ」


「も~、おばあちゃん飲みすぎだよ~」


 メリダに、ソフィーと呼ばれた人物が近づいていく。

 このソフィーはメリダの孫であり、村の中では唯一俺と年の近い女の子らしい。

 ちなみに身長こそ俺とほぼ変わらない大きさだが、まだ筋肉はそこまでついておらず、いたって普通の女の子に見える。

 

「まだまだ飲み足りない、夜はこれからだ!それよりはやくとってきてくれ」


「はいは~い」


 ソフィーはやれやれといったふうにメリダの部屋に向かう。

 しばらくすると一枚の絵を持って戻ってきた。


「おばあちゃ~ん、いくら探してもおばあちゃんの肖像画しか出てこなかったよ~?」


「そんなはずない!大切に保管してあったんだから見つからないはずない!!」


「はいは~い、じゃあまた明日にでも酔いがさめてから探してくださ~い」


 酔っているせいか強く言葉を放つメリダを、ソフィーは慣れたように適当にあしらう。


 俺はソフィーの持ってきた絵を見せてもらう。

 そこに描かれていたのはメリダの似顔絵……などではなく、細身の綺麗な鬼族の女性の絵だった。


「へえ、綺麗な人だな。どことなくソフィーに似てる気もするけど、誰だこれ?」

 

「誰って……おばあちゃんだよ?」


 ……ん?


「え、ごめん、誰って……」


「だから私だって」


 ……まあ、メリダの身長を50センチ近く縮めて、筋肉量を10分の1ほどにすれば――


「嘘つけえええええ!!」


「嘘じゃねえよ!若かりし頃の私の姿だ」


「もはや完全に別人じゃねえか!絵の女のようにこんなすらっとした体型からお前みたいな全身ガチムチ筋肉パラダイスになるわけねえだろ!!」


「ガチムチってお前……」


 あ、やばい。

 さすがにさっきのセリフはデリカシーがなさすぎたかも。


「……照れるじゃねえかよ。あんま褒めんな」


 メリダは恥ずかしそうに顔を赤く染めて言う。

 

 鬼族の照れるポイントがわからん……ガチムチって誉め言葉なのか。


「私もいつかおばあちゃんみたいな筋肉つけるのが夢なんだ~」


 そんなふうにソフィーが嬉しそうに語る。


 ごめん、ガチムチになったソフィーは見たくない。



 その後も宴は続き、参加していた者のほぼ全員がその場で眠りについた。


 メリダも今はすっかり静かに寝てしまっている。

 ソフィーは寝ているものに一人一人毛布を掛けて回っている。

 なんと優しい。


「ごめんね~、これが終わったら寝る部屋に案内するから~」


「いいよいいよ、気にしなくて」


 どうやら俺はこちらにいる間、メリダの家に寝泊まりすることになるらしい。


「けど久しぶりだな~、おばあちゃんがこんなになるまで飲んだの。よっぽど嬉しいことでもあったのかな~」


 普段そんな飲まねえんだ、以外。


 まあ潰したのは俺なんだけど。



 しかし……俺はオーヤに似ているという言葉に、なぜかはわからないが引っかかっていた。

 

 ……帰ったら改めて調べてみるか。


 こうして鬼族の村での一日目が終わる。

 この時の俺は、ここに来るのを渋っていたことなどすっかりと忘れてしまっていた。

 


 お酒の力は偉大なり。



次から特訓……するんだろうか?

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