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偽りの英雄  作者: 考える人
第一章 学園の問題児
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ただ黙って――



 西側トーヤside



 疲れた……


 満身創痍の俺は近くの木にもたれかかり腰を下ろす。

 とりあえず自分でできる応急処置はやっておく。


 ちなみに気絶したにも関わらず、さきほどまで姿の見えなかったラシェルだったが、魔力が枯渇したためか今はしっかりと目視できている。


 さて、現状を整理してみるか。

 

 こいつら襲撃者の狙いは俺。

 だとすれば本来、俺がいるはずの東側に戦力を集めるはず。

 橋が落とされているとはいえ、ツエルがまだこの場にたどり着かないのも説明がつく。


 ようするにツエルのような実力者がてこずるほどの数、または力をもつ敵が東側にいる。

 両方ということも考えられる。


 東側の状況を知りたいが、東側に行こうとなると橋も落とされており、相当遠回りをすることになる。

 この体の状態で行けばかなり時間を食ってしまう。


 どうすっかな……


「トーヤ様……」


 一人で考え込んでいた俺に、声をかけてきたのはカリナだった。

 体を引きずるように近づいてきたところをみると、こっちも相当傷を負ったのがわかる。


「あの……グランは?」


「そこだよ、最後は毒飲んで自分で死にやがった」


 俺はグランが倒れている方を指さす。


 カリナは駆け寄るでもなく、何かを発するでもなく、ただグランの死体を複雑そうな目で見ていた。


 しばらくするとこちらに向き直り、口を開く。


「申し訳ありません、結局グランを引き留めることができず」


 本当に申し訳なさそうに話すカリナ。


 結構頑張ったと思うけどな、俺のとこにきたグランはすでにぼろぼろだったわけだし。


「なに、死ななかったら上出来だ」


 とりあえず適当に返事を返す。


「あいつは……グランはとどめをさしていきませんでした」


 辛そうな声で言葉を発する。


 


 …………なんか空気が重い。

 同じ学園のやつが裏切り者だったからか?

 にしても落ち込み具合が半端ないな。

 

 とりあえず話題を変えよう。

 不謹慎かもしれないが、俺は場が重い空気になると、どんな状況でも逃げだしたくなる。

 人生楽しいことだけ考えて生きていきたい。


 話の話題を考えていると、カリナが使っていた魔法のことを思い出す。


「そういやお前のメインって転移系の魔法かなにかか?」


「はい、私のメインは空間転移です。自分や他人、物を別の場所に一瞬で移動させることができる魔法です」


 やっぱりか、となると悩みの解決策が出てきた。


「なら谷の向こう岸まで、俺を転移させることができるか?」


「目視できる距離なら移動可能ですので、問題ありませんが……その傷でいかれるんですか?」


 カリナは俺のぼろぼろの体を見て不安そうに言う。

 まあ当然の考えだよな。

 けど、


「ああ、グランたちの狙いは俺だ。なら俺がこんなふざけた作戦に引導渡してやらなきゃならねえ。これは義務みたいなもんだ」


「……わかりました。トーヤ様がそうおっしゃるなら」


 納得はいってないようだが、まあ貴族の俺が言うことだ。

 そう強くは出れまい。


 カリナは戸惑いながら俺の体の傷を見ている。

 さすがにこれだけ醜態さらしてばれないはずもないか。

 しかたない。


「意外か?ヘルト家の人間が予想以上に弱くて」


「あ!いえ、そんなことは――」


 慌てたようにカリナは弁解する。


「気にすんな、実際兄妹のなかじゃ落ちこぼれ扱いだ」


「それは……」


 いきなりの俺のカミングアウトにより、言うべき言葉を失ったかのようにカリナは黙り込む。


「とりあえずこのことは秘密にしててくれ。親父から実力がばれねえようにと念を押されてんだ。ばれたら最悪、家を放り出されるかもしれない」


「そ、それはもちろん!」


 同情を引くような形で、カリナとの口約束を取り付ける。

 仮に放り出されたところで、いくらでも伝手はあるから生きていく自信はある。

 

 これで簡単には広まらないはずだが、まあ広まってしまったらその時はその時だ。


「じゃあいきなりで悪いが、俺とこの倒れている女を向こう岸まで飛ばしてくれないか?」


「あ、申し訳ありません。先の戦闘で少し魔力を使いすぎてしまいまして……魔力回復に時間をいただけないでしょうか?」


 すぐには無理か。

 とはいえ、森の外まで出て遠回りするよりは大分マシのはずだ。


「じゃあ魔法を使えるほど魔力が回復したら教えてくれ。それと、今回のことでまた何か報酬を与えるから、要望があったら言えよ」


「はい、ありがとうございます!」


 



 


 ……また静かになる。

 会ったばかりだし仕方ないと言えば仕方ない。

 普段なら寡黙な職人相手でも会話を盛り上げてみせるのだが、今はちょっとしんどい。


「あの」


 不意にカリナが話しかけてくる。


「どうした?」


「待っている間、少し話を聞いてもらってかまいませんか?先ほどの報酬ということで。もしかしたら愚痴みたいになってしまうかもしれませんが」


 いやそんなんでいいのか?

 報酬じゃなくとも愚痴ぐらいいくらでも聞くけど。


 まあどちらにせよ、聞かないという選択肢はなさそうだ。

 断ったら今にも泣きだしそうだし。


「いいぞ、ずっと立ってるのもあれだろ。どっかそこらへん座ったらどうだ」


「すいません、ではお言葉に甘えて」


 そういって俺と向かい合うように腰を下ろす。


「私とグランは同じ村で育ったんです。小さいころから同じ学び舎で学んで、成長して。成績はいつも私が主席でグランが次席、お互いの勉強や練習にもよく付き合いました」


 なるほど、幼馴染だったのか。

 だとすればあの落ち込みようも納得がいく。

 よく俺の味方をしてくれたもんだ。


 それはそれとして成績のくだりいる?


「私は他人に無頓着なとこが多々あって、誰かと衝突することがしょっちゅうだったんです。そこにグランが仲裁に入る、それが私にとっていつもの日常でした。私が成長して立派な魔法使いになったとき、私の隣には立派な剣士になったグランがいる。そんなことを当然のように思っていたんです。


 なのに、なのに……」


 どうやら感情を抑えきれなくなったらしく、涙がカリナの目からこぼれ落ちる。


「結局何も知らなかったんです。グランについて。敵になったとわかってひどく困惑しました。目の前にいたのは殺人鬼でも狂人でもなく、いつも通りのグランでしたから。最後の攻撃の瞬間も迷ってしまって……」


 ついに言葉もつまりだす。

 カリナはなんとか声を絞り出していく。


 おそらく、カリナは話を聞いてほしいだけだ。

 信じていた人間と(たもと)を分かち、感情の整理がつかず、誰かに打ち明けたいんだろう。

 俺がわざわざ慰めの言葉や、励ましの言葉をかける必要はない。


 きっとこいつは強い。

 自分の正しいと思うことのために、友に対して戦うことを選べた。

 その強さがあれば、必ず今回のことは乗り越えられるはずだ。


 いっておくが……かける言葉が思いつかないとかそういうのではない、決して。


 そこからしばらく、俺はカリナの言葉をただ黙って聞き続けた。











「あの、その……今回の事はこう、内緒にしてもらえたら」


 ひとしきり泣き、言いたいことを言い終わったカリナが、顔を赤らめながら恥ずかしそうに話す。

 勢いに任せてしゃべったはいいが、冷静になって泣き顔などの醜態をさらしたことに気づいたってところか。

 貴族相手に自分から身の上話をしだすなんてマネ、普通に考えれば絶対にしないことだしな。

 

「安心しろ、誰にも言わねえよ。それより魔力はどうだ、回復したか?」


「はい、移動させることができるくらいには回復しました」


「じゃあさっそく」


 頼む、そう言おうとした時だった。


 学園指定の制服を血まみれにした男が現れる。

 学園の服とはいえグランの件があるため、俺とカリナは警戒する。


 ゆっくりと近づいてきたその男は、指を三本たて、肩をなでるような仕草をとる。

 その仕草に俺は覚えがあった。


 自分がヘルト家の関係者であることを示す合図だ。


「カリナ、こいつは味方だ」


 カリナに警戒を解くように促す。

 カリナが警戒を解くと、男は口を開く。


「トーヤ様、少し二人きりでお話しできますか?」


「ああ、問題ない」


 おそらくヘルト家以外のやつには知られたくない話をするんだろう。

 カリナもそれを察してくれたらしく、少し距離をとる。




「こうして面と向かってお会いしたのは初めてですね。ヘルト家の『影』所属、デイルと申します。学園でのトーヤ様の護衛及び、監視任務を承っております」


 おもいっきり監視って言っちゃったよ。


 まあとにかく、学園とかで俺を尾行していたうちの一人はこいつだったってわけだ。


「デイルか、よろしくな。それでさっきから気になってたんだけど、その血大丈夫か?」


 俺はデイルの制服に付着した大量の血を指さして言う。


「問題ありません、すべて返り血ですので」


 何そのセリフ、かっこいい、俺も言ってみたい。

 今俺の服についてる血は100%純粋な俺の血なんだけど。


「先ほど、この場に向かう複数の人間と接触し、戦闘になりました。どうやらこの襲撃に加担しているものだったらしく、全員を無力化するのに時間がかかってしまいました」


 なるほど、敵の増援がいつまでたってもこなかったのはデイルのおかげか。

 あの状況で増援なんてこられたらたまったもんじゃなかった。


 とりあえず護衛とも合流できたし、安全は確保できたわけだ。

 

 俺は一枚の魔法陣を取り出し、魔力を込める。

 先ほどのように煙が、今度は青色の煙が一筋。

 十分な安全を確保できたときに使う合図だ。


「ツエルたちのもとへ向かうなら私も同行します」


 当然だよな、さすがの俺でもこの状況で、デイルの提案を断るなんてことはしない。


 遠くで待機していたカリナを呼び寄せる。


「移動させる人数が一人増えたけどいけるか?」


「問題ありません」


 力強くカリナが返事する。


 

 よし、さっさと行ってこんなくだらねえこと終わらせてやる。




ーーーーーー



 東側ツエルside



「どうやら終わりらしいな」


 その言葉を発したのはカーライ・テグレウ。


 地面に倒れ、ピクリとも動かないツエル、イン、アーカイドの三人。

 カーライを除き、誰一人としてその場に立っていなかった。 

 



西側side決着。

次回から東側に場面が移ります。

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