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偽りの英雄  作者: 考える人
第六章 シール王国統括支部攻防戦
133/158

二人の先輩 side統括支部



  統括支部 地下入り口前――――



「………………やっぱ揺れてるよな」


「揺れてますね」


 開けた空間に、見上げるほどの高さの移動棚が立ち並ぶ空間。

 棚には研究書類や箱詰めされた魔具等が収められ、地下へと続く通り道でありながら、倉庫としても扱われている部屋。

 そこにスカー、シュー、ヴェラ、そしてイースの『バード』の面々がいた。


「一定間隔で揺れてますし、自然現象ではないでしょうね」


「今どういう状況なのかな? なんでか指令部との連絡もとれなくなっちゃったし」


「まあ喜ばしい状況じゃないのは確かだが……このまま何もわからない状態が続くのはよろしくないな」


 唐突にとれなくなった指令室との連絡。

 さらには不自然な建物の揺れ。


 すでに『ミスフィット』が建物内に侵入していることを考慮した時、事態が悪い方向へと進んでいるのは、ここにいるバードのメンバー全員が理解できた。


 そんな現状を憂いた副隊長のスカーが動く。


「少し様子を見てくる。もし俺が戻ってこないようなことがあれば、その時はシュー、お前に指揮を任せる」


「わかりました。ただ、行くならイースも連れて行くべきです。さすがに1人で動くのは危険ですから」


「最終防衛ラインに少しでも戦力を置いておく方がよくないか?」


「普通ならそうかもしれませんけど、戦闘になったら俺とヴェラの二人の方がやりやすいですから」


「まあたしかに……お前ら(・・・)ならそうか。わかった、シューの提案でいこう」


 スカーはシューの提案を受け入れ、スカーとイースが部屋の外に出て、シューとヴェラが部屋に残るという方針で固まる。

 

「じゃあ行くかイース……イース?」


「…………」


 スカーがイースに声をかけるも、イースは心ここにあらずといった様子で、地下へとつながる扉を見つめていた。


「どうした? 大丈夫か?」


 そんなイースの肩にスカーが触れる。

 そこでやっとイースは自身が呼ばれていることに気づいた。


「あ、すいません」


「ちなみに話は聞いてたか?」


「……すいません」


「今まさに敵が攻めてきている最中なんだ。あんまり気を抜くなよ」


「はい…………」


 スカーは改めてこれからの方針をイースに説明する。

 


 説明を聞き終えたイースは立ち上がり、スカーと共に移動を開始する。


 そんな中で、イースはどうしても後ろ髪を引かれる思いがあった。

 地下室へと繋がるあの扉の先。

 もしかするとそこに、己の真実へとつながる何かがあるのではないか。

 己の迷いを振り切ることのできる何かが。


 しかしイースには、その扉の先に行く権利も手段もない。

 素直に諦めて、扉とは反対方向に歩き出すことしかできなかった。












 


 イースはスカーと並んで、それほど広くない廊下を歩く。

 自分たち以外に人の気配はないものの、いつ敵と遭遇するかわからない状況もあって、常に重苦しい緊張感が漂っていた。


「…………」


 そんな状況の中、スカーがイースに対して言葉をかける。


 いつも通りの少し飄々とした態度で、低く落ち着いた優しい声で。

 何気なく、世間話をするようなノリで、声をかけた。



「おそらくだが、地下にお前の望むものはないよ」



 一瞬、イースの思考が止まった。

 すぐに思考を再開させるものの、やはりその言葉の意味は分からない。


「――――何を」


記憶(・・)


「っ!?」


 まさにイースの核心に触れるワードを、スカーは口にする。

 疑問の波が押し寄せ、混乱するイースだったが、スカーはかまわず言葉を続けていく。


「お前の記憶置換が行われたのは、統括支部ではなくコクマ本部だ。そのことを考えれば、お前の記憶に関する資料等はここにある可能性は低い。とはいえ、俺も実際に入って確認したわけじゃないから、絶対にとは言い切れないけどな」


「…………」


 イースにはわからなかった。

 発言内容に関することはもちろん。

 さらにはスカーがその話を、まるで日常会話のようなノリで話していることが、イースには心底理解できない。


 ――あなたは、どこまで知っているんですか?


 そう質問しようとしたイースは、口を開く直前で思い直す。

 その質問が、どこか正しくない気がしたからだ。


 だからこそイースは、頭で考えたものではなく、心に思い浮かんだままの言葉を口にした。


「あなたは……何なんですか?」


「……」


 イースのその質問にスカーは少し考えこむ。


「なるほど……何なんですかときたか。そうだな……見せた方が(・・・・・)早いかもな」



 そう言うと、考え込んでいたスカーが顔を上げ、前を見据える。

 イースもつられて前を向くと、そこには仮面を付けた2人組がいた。


「っ!?」


 距離にしておそよ10メートルほど。

 スカーの発言に、いくら心を乱されていたとはいえ、この距離を接近されるまで気づけなかったことにイースは驚愕する。


 ゆっくりと歩きながら距離を詰めてくる2人組は、スカーとイースの2人を警戒する素振りを一切見せない。

 どう動くべきか悩むイースをよそに、スカーは迷いなく行動する。


 しかしそれは、2人組を迎え撃つための行動ではなく、指を三本たてて肩をなでるという謎の仕草だった。

 もちろんイースにはその行動の意味が理解できない。

 なぜならその仕草は、仮面を付けた2人組に向けてとった行動だからである。


 その間にも、仮面を付けた2人組はイースたちとの距離を詰める。

 さすがにこれ以上の接近を許容できないイースが、魔法を発動しようと構えるも――――


「大丈夫だイース。これから起きることで、お前の不都合につながることは何もない」


 スカーがイースに向かって手を伸ばし、イースの動きを遮る。

 

「しかし……」


「前を見ろイース。目の前の存在が敵であると、決めつけることができるほどお前の立ち位置はハッキリしていないはずだ」


 そう言われてしまうと、悩みの渦の中にいるイースは黙ることしかできない。


 イースたちと仮面を付けた2人組との距離は、もう3メートルもない。

 争うことが目的ならば、もうとっくに仕掛けていてもおかしくない距離。


 気づけば、手を伸ばせば触れられる距離まで2人組は近づき、そこで歩みを止める。

 

「っ…………!」


 次の瞬間には殺し合いが始まってもおかしくない相手が、目の前で佇んでいる。

 心臓がうるさいほど鳴り、体の震えが止まらない。

 しかし、2組人を目の前にしたイースを支配している感情は、恐怖だけではなかった。


 恐怖以外に感じるもう1つの感情――それは懐かしいという思い。


 2人組のうちの1人が、かぶっていたフードをとり、自身の仮面に手を触れる。

 それはイースたちに対して、自身の正体をさらすことに他ならない。


 どうして?――という疑問は浮かばなかった。

 なぜならイースには、仮面をとろうとしている人間の正体に察しがついていたからだ。


 まるであの日(・・・)、初めて顔を合わせた時のように。

 イースはこの人物が何者なのか、本能的に理解できた。


 仮面を外し、その素顔をさらした少年は笑顔でイースに語り掛ける。




「よおイース。1ヶ月ぶりくらいの再会にしては、随分と前のことに感じるな」


「…………トーヤ、様」



 イースは覚悟していた。

 『ミスフィット』を率いるのはトーヤ・ヘルトである可能性が高い。

 だからこそ、敵対しても躊躇(ためら)うことがないように、敵として戦う覚悟を――――


 ――――持っていたつもりだった。


 しかしそんな偽りの覚悟は、学園にいた時と何一つ変わらない表情をトーヤに向けられた瞬間、粉々に崩れ去ってしまった。


 もちろん、トーヤに対する感情だけではない。

 トーヤの顔を見たことで、学園での思い出が、友の顔が、生徒会の仲間の顔が、連鎖するようにイースの脳内にあふれていく。

 それらの全てが、イースの戦おうとする心を折った。





 トーヤを前にして敵対する意思を見せないのはイースだけでなく、隣にいたスカーも同じだった。

 それどころかスカーはトーヤの方を向きながら片膝を付き、敵である『ミスフィット』の人間に対して敬礼の意を示す。


「お久しぶりですトーヤ様。……といっても、以前お会いしたのはトーヤ様がまだ5歳の時でしたので、覚えていらっしゃらないかもしれませんが」


 普段感じられる軽いノリは一切なく、真剣な表情と声でトーヤに告げる。

 それはイースが初めて見るスカーの姿だった。


「俺が人の顔忘れるかよ。俺が覚えないのは嫌いな奴の顔だけだ」


 トーヤもスカーが敬意を示すことに、何の驚きも示さない。

 まるでそれが当たり前とでも言うように。


「兄貴から話は聞いてる。こっちは今のところ大きな計画変更は無しだ。そっちはどうだ?」


「こちらも問題ありません。計画通りに進んでいます」


 完全に置いてけぼりをくらうイース。

 そんなイースに対して、真剣だった表情を崩し、いつも通りの顔に戻ったスカーが笑いかける。


「まあ、こういうことだ。端的に言うと、潜入捜査ってやつだな」


「……じゃあスカーさんは、もともとヘルト家の人間だったって、ことですか?」


「ヘルト家の人間だなんて、そんな大層なもんじゃねえよ。数多くいるヘルト家に仕える人間のうちの1人ってだけだ。お前には色々と詳しく話しておきたいが……今は時間がない。また生きて会えたら、その時は酒でも飲みながら話そうや」


 スカーは飄々としながら話すも、それはどこか別れの言葉にもイースには聞こえた。


「ではそういうことでトーヤ様、おそらくこれからおっかねえ女がここに向かってくると思うので、自分はそれを足止めします。自分の今まで集めた情報は協力者(・・・)に持たせてます」


「わかった。ちなみに、銀髪の頭悪そうな女と、変なしゃべり方するガキが来たら通してやってくれ。あとお前の同僚のインも」


「わかりました」


「最後に1つ――兄貴が久しぶりに会いたがってたから、墓参りさせるようなマネするなよ」


「…………最高のエールです」


 トーヤの言葉にスカーは満足そうな表情を浮かべ、トーヤたちが歩いてきた方向へと進んでいく。





 そうして、その場に残ったトーヤ、イース。あと仮面をつけた1人。


「トーヤ様は、これから地下へと向かうんですか?」


「そうだな…………止めるか?」


 それはトーヤからイースへと向けられる挑発。

 しかしイースにはすでに挑発に対して怒る気力すらなかった。


「止めません……今の自分には、、、もう何が正しいのかわかりませんから」


「なら俺と一緒にこい。俺の素晴らしい活躍っぷりが間近で見れるぞ。あとついでに、お前の立つべき位置も見つかるかもな」


「…………」


 ああ、本当にこの人は、俺の心を見透かしているかのように、俺の欲しい言葉を、欲しいタイミングでくれる――


 欺き、さらには1度殺そうとしてきた相手に対し、なぜそんな優しい言葉をかけることができるのか理解できないイース。

 今だ心が定まらず、簡単にブレてしまう自分を嫌悪する中で、まるで暖かい光で包み込むようなトーヤの言葉に、油断すると泣きそうになってしまう。


「じゃあさっそく――と言いたいところだが、一応ここで途中別れたメンバーと合流予定なんだ…………おせえなあの女」


 あの女――その発言から、イースは合流予定の相手がツエルではないかと予想する。

 しかしツエルは今現在、西門壁上にて交戦中のため、その推測は正解ではない。

 ただ実際の合流予定の人物は、イースのまったく知らない相手などではなく、2人きりで話したことが何度もあるような相手だった。





 2、3分ほどたった後、合流予定の人物がその姿を現す。


「少し遅くなりました。指令室の機能破壊は無事達成です」


 その人物は仮面を被ってはいるものの、フードは外していたことから、銀色の美しい髪を持ち、女性としての特徴がはっきりと表れた体型をしていることがわかる。


 この時、イースは自分の中である違和感を感じる。

 まるでどこかで見たことがあるような、そんな違和感。


 そんなイースの違和感に答えたのは、他の誰でもない、仮面を付けた女本人だった。


「あら、久しぶりですねイースくん。最近、店に寄ってくれなかったんで寂しかったんですよ?」


 自分へとかけられるその声を聞いたとき、イースの頭の中に、ある光景が鮮明に浮かんだ。

 学園からの帰り道、小さな花屋の前で笑う少女の姿が。


「…………リリー、さん?」


「正解でーすっ」


 名を呼ばれた少女は仮面をとり、花が咲くような笑顔をイースへと向ける。


「――――どうして…………」


 学園へと通っていた時、情報面だけでなく、精神的にも自分を助けてくれた花屋の少女であるリリー。

 そんな彼女が、『ミスフィット』の人間として目の前にいることに、イースは感情を整理することができない。


 なぜミスフィットに? いつから? 最初から俺のことを知っていた?――――


 次から次へと押し寄せてくる疑問と共に、何か大切な物を失ったような喪失感がイースを襲う。

 リリーと初めて会った時から、敵であったかもしれないという事実が、イースにとって想像以上にショックだったからだ。

 学園という慣れない環境で過ごすイースにとって、リリーはイースが自分でも気づかないほどに、いつの間にか心の支えになっていた。


「ごめんなさいイースくん。詳しく話している時間はありませんので、簡単に説明しますと……花屋の看板娘は、様々な情報を集めるための仮の姿。実は私――――こう見えてけっこういい身分の人間なんですよ。まあ、もしかしたら私のあふれ出る高貴オーラでうすうす気づいていたかもしれませんが」


「すいません。まったく気づいていませんでした」


「…………そうですか」


 ()んだ瞳をして放たれた純粋な返事に、リリーは割とダメージを受ける。

 イースに悪意が一切ないことを理解してるが故に、かなりくるものがあった。


「くっ……ぐふっ」


「ふふっ……」


「あははははは!!! よぉなんちゃって王女様!!」


 リリーとイースが久しぶりの再会を果たす後ろでは、1名を除き、笑いを必死にこらえるリリーの仲間たちの姿。


 次の瞬間、イースの目にも()まらぬ速さで、リリーがトーヤの胸ぐらを掴み上げていた。


「私がなんちゃって王女なら、トーヤはヘルト家のバッタもんですか? どうりで一切魔力を感じないわけです」


「そもそも誰だっけお前? どっかで会ったことある? もしかして王女のそっくりさん? どうりで存在と言動が下品なわけだ」


 常に優し気な柔らかい笑顔を浮かべるトーヤ。

 常に満面の輝くような笑顔を浮かべるリリー。


 そんな二人が、信じられないほど冷たい表情でにらみ合う状況に、イースは思わず自身の眼を疑った。






「ちょいちょいちょい、お二人さん。今そんなことやってる場合じゃないでしょうよ」


 取っ組み合い、今すぐ殴り合いが始まりそうな二人を止めたのは、今まで一言も発さなかった仮面を付けた人間だった。

 その声からイースは仮面の人間が男であると判断する。


「ただでさえ遅れ気味なんですから、急いで先に進まないとまずいですぜ」


「…………」


「…………」


 仮面の男の言葉に、二人は『仕方ない。ここは見逃してやる』とでも言いたげな表情を浮かべながらも、なんとかその矛を収める。


「じゃあとりあえず移動しながら話すぞ」


 トーヤがそう言って走り出すと、リリーと仮面の男も文句を言うことなく走り出す。

 リリーの出現に対してまだ混乱したままだったが、おいていかれるわけにはいかないと、イースもトーヤたちの後を追う。





「――じゃあインとシルエは、、、」


「――支部長と交戦中で、、、」



 トーヤとリリーは別れてからの行動とその成果を報告し合う。

 イースも走りながら話を聞いていたが、話している内容の半分も理解できなかった。





「…………嫌な予感がするな」


 リリーからの報告をすべて聞き終えたトーヤは、表情を曇らせてぼそりとつぶやく。


「リリー、爆発的な魔力の上昇を感知したのは、お前が指令室を出てすぐ後だな?」


「そうですね。正直一度戻ろうかとも考えたほどです。とはいえ、インの心意気を無駄にするわけにはいかないので、後ろ髪を引かれる思いでこちらに来ましたけど」


「…………」


 念を押すように情報を確認すると、トーヤはまた考え込む。

 数秒をほど考え込んだのち、覚悟を決めた表情でトーヤはある指令を出した。


「フーバー、それとラシェル(・・・・)。二人はインたちの方へ向かえ」


「……二人?」


 トーヤのその指令にイースは疑問を覚える。

 だが、トーヤが顔を向けたその先には、仮面の男のほかにもう一人、仮面を付けた人間が立っていた。

 先ほどまでいなかったはずの存在が、さも当然のようにその場にいることに、イースは恐怖を覚える。


「いいの? 地下に向かう戦力を減らして」


 もう一人の仮面を付けた人間は、その声から女であるとイースは判断する。


「まだ予備の戦力は残ってるから問題ない。それよりも支部長の方が気になる。なんせどれだけ調べても全く情報の出てこなかった相手だからな。考えすぎならそれでいいし、用心するに越したことはない」


「じゃあインの方を対処したら、私たちも地下に向かうってことでいい?」


「状況にもよるがその方向で」


「わかった」「了解っす」


 仮面の女と男がそれぞれ返事をして、その場から離れていく。





 その後、人数は減ったものの、トーヤ、リリー、イースの三人は地下へと向かう一本道を進む。

 そしてそれほど時間をかけることなく、先ほどまでイースがいた部屋――地下入り口前倉庫の扉の前にたどり着いた。


「…………」


 当然ながらイースの心情は複雑なものだった。


 この扉の奥にいるシューとヴェラ。

 つい先ほどまで仲間だった相手であり、バードの中でも比較的年齢が近い二人。

 できれば争いたくない――それがイースの嘘偽りのない本音。


 しかしトーヤについていくと決めた時点で、イースは『バード』を、『コクマ』を裏切ったことと同義。

 今さらどっちつかずでいれるはずがないと割り切り、二人と敵対する覚悟を決めようとしたところで、トーヤから声をかけられる。


「イース」


「……? なんですか?」


「お前はここに残れ」


「なっ!?」


「さっきまで仲間っだった相手とは戦いにくいだろ。俺たちが相手して、ちゃちゃっと倒してくるから、その後に入ってこい」


「しかし自分は――!」


「トーヤの言う通りですよイースくん。そんな酷い顔をして戦えるはずないじゃないですか」


 異議を唱えようとするイースの言葉を遮り、リリーが追い打ちをかける。

 さらにリリーはイースを両頬をつかむと、その頬をもてあそぶように引っ張った。


「ほら、笑いましょう。今のあなたがすべきことは、世界中の誰よりも頼れる先輩を笑顔で送り出すことです」


 まるで手本を示すように、ニイっと笑顔を見せるリリー。


「イース、お前が覚悟を決めるのはここじゃなくていい。全ての真実を知った後、どこに向かうべきか、どこに立ちたいか――じっくり考えればいいんだ。その結果、俺たちと敵対することになっても、それはそれで祝福するぜ。かわいい後輩の一人立ちだってな」


 ニヤっと笑ってみせるトーヤに、イースは『この人なら本当に許してしまうんだろうな』という確信を持つ。


 トーヤとリリーの二人により、自身がどんどん骨抜きにされているのを実感するイースだが、その心地よさについつい身を任せてしまう。

 だから今回も、イースは素直にその心地よさに甘える。いつか絶対に、受けた恩と優しさに報いることを心に決めて。


「……武運を、祈ります」


 後輩は二人の先輩にエールを送る。

 作った笑顔ではなく、自然と浮かんだ笑顔で。


「まかせとけ」「3分で終わらせてきますよ」


 そんな軽口をたたく先輩二人の背中は、とても大きく、たくましく見えた。





トーヤ&リリー(決まった……!)


後輩に背中を見せながらドヤ顔を浮かべる先輩二人

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