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偽りの英雄  作者: 考える人
第六章 シール王国統括支部攻防戦
125/158

舞台は司令部に side統括支部


 西門side



 門が破壊され、付近に密集していた魔獣が次々と門の中へ流れ込んでいく。

 その上、近づいてくる魔獣の群れ第二陣。

 数は最初の倍以上。


 現在はなんとか押しとどめることができているものの、第二陣が門へと到達すればどうなるかわからない。

 戦っている者たちは精神的に崩れかけており、もはや西門は劣勢と言って過言ではなかった。



 しかし、ある人物たちが西門に到着したことによって転機が訪れる。



「我が祖 風の妖精ラーミリアに願い奉る 我が魔力を糧とし 敵を打ち滅ぼす刃を我が手に」


妖精賛歌(ようせいさんか)刃雷砂滅ノヰ(じんらいさめつのい)


 詠唱と共に、壁上から強力な魔法が放たれる。

 風の雷が幾重にも重なり合い、一本の大きな刃にも見える魔力の塊。

 神々しく輝くその魔力の塊は魔獣の第二陣へと一直線に突き進んでいき、そのまま魔獣の群れを飲み込んでいく。

 爆発音と共に激しい衝撃が辺りを覆う。

 

 その衝撃がしばらくしてやむと、魔法の通った直線上は地面がえぐれ、魔物の姿は一切ない――そんな光景が広がっていた。

 たった一撃の魔法で、魔獣の群れの半分以上が殲滅される。

 

「さあ! まだまだこれからだよ! 気合入れていこう!!!」


 壁上から発される透き通るような大声。

 その声は門の下にいた部隊の人間にまで届いていた。

 大声を発した人物こそ、先ほどの魔法を放った張本人――コクマ遊撃部隊バード隊長、シェルナ・ヴァント。

 傍らには同じくバードのサクキとパールバルが控えている。


 統括支部内でも最大戦力と呼べる人物が現れたことによって、意気消沈しかけていた部隊は再び勢いを取り戻す。


「よっしゃああ! バードが加勢に来てくれたぞ!」


「すげぇ…………魔獣の群れを一撃で消し飛ばすなんて……」


 そんな様子を見た壁上のシェルナは、ひとまず安心だというふうに息を吐く。


「これで士気は高まりましたね。さすがです隊長!」


「まあね! じゃあ、残りの魔獣も蹴散らしちゃおうか!」


 部下であるサクキにおだてられ、気分が良くなったシェルナは先ほどの魔法をもう一度放つため、持っていた剣に魔力をため始める。

 まだ魔獣の群れから門までは距離があるため、準備をする時間は十分にあった。




 しかし、そうはさせないとばかりに、その準備を妨げようと動く一つの影。

 比喩表現ではなく、言葉通りの意味で影が動く。

 影は壁を猛スピードで登っていくと、すぐに壁上までたどり着く。


 そしてその影から這い出るように、仮面を付けた一人の少女が姿を現した。

 

 突如として現れた少女に、サクキは持っていた剣を構え臨戦態勢に入る。

 シェルナが魔力をためている間、敵からシェルナを守るのはサクキの役目。

 そのため、普段ならサクキを信頼して魔力をため続けるシェルナなのだが――


 シェルナは少女の姿を見た瞬間、魔法の発動をキャンセルしてサクキの前へと出る。


 一目見ただけでシェルナにはわかった。

 この少女は――自分と同じステージにいる。


 少女の強さ、底知れない何かを見抜いたが故に、サクキでは敵わないと判断しての行動。


 シェルナがサクキの前へと出たと同時に、剣のぶつかり合う音が鳴り響く。

 剣をぶつけ合ったまま、シェルナと少女の力押し状態になる。


「わかった。あなたが壁を破壊したんでしょ」


「…………」


 お互いあらん限りの力で押しあう中、シェルナは少女に問いかけるが、少女は答えない。

 しかしそれでもシェルナは確信していた。

 門を破壊したのは魔獣などではなく、目の前の少女だと。




 西門壁上にて、大きな戦いの一つが始まる。






ーーーーーー



 司令部side



 東門は突如現れた謎の鎧を着た集団と交戦中。

 西門はおびただしい数の魔獣の群れと交戦中。


 その現状はナディアにとって想定外中の想定外だった。


 ミスフィットは少数の組織――そう認識していたため、総力戦のような形になるとは微塵も考えていなかった。

 だがふたを開けてみれば、西門と東門に予備隊を含めたほぼ全部隊を投入しており、追加できる部隊もあとわずか。


 あと2日あれば、周辺の支部から今の5倍の戦力を集めることができたのに――そんなふうに悔やんだものの、今さらどうしようもないと頭を切り替える。


「西門の方はシェルナたちが到着するころね。そっちは彼女たちを信用しましょう。問題は東門だわ」


 突如として現れた300近い数の敵集団。

 これほどの戦力をミスフィットは有していたのかと、ナディアだけでなく映像を見ていた全員が焦りや不安を含んだ複雑な感情を抱く。


「あくまで西門側は陽動で、東門側が敵の本命みたいだな」


「戦闘部隊には集団から抜け出す人間がいないか注意するよう伝えて。どさくさに紛れて内部に侵入しようとする敵がいるかもしれないから」


 皆が東門側を敵の本命と捉え、意識と思考をそちらに持っていく中、モニター近くにある魔法陣を操作していた職員が困惑するような声を上げた。


「あ、あれ、、、何か設定がおかしいのかな?」


「どうしたの?」


「いえ、その、何回も記録を調べてみたんですけど、、、東門の感知壁に『未登録魔力の接触』記録が最初の――メイド服を着た女の記録以外に見つからないんです」


「…………?」


 それはおかしな話だった。

 敵の集団は既に感知壁の内側に存在している。

 ならば、300ほどの記録が残っているはずなのだが、それが存在しない。


 要するに、記録上では使用人服を着た女以外、誰も東門側から侵入していないことになる。


 だがモニターには確かに300近い敵集団がしっかりと写っていた。


「どういうことですか? 感知壁が不具合をおこしたとか?」


「いや、西門側は今でもちゃんと作動してるし、しっかり記録も残ってる」


「検証段階を含めましても、このような不具合は存在しませんでしたな。そもそもこのような不具合を起こすようには設計してませぬぞ」


 まず真っ先に不具合という可能性が排除される。

 少なくとも、システムの開発者であるピーグルーが太鼓判を押した時点で、他の人間には議論のしようがなかった。


「不具合じゃないってことは、本当にありゃなんなんだってことになりますけどねぇ」


「もしかして既に登録されている魔力とか?」


「統括支部内の裏切りってことか?」


「1人や2人ならまだしも、300はさすがに考えづらいだろ」


 あれこれと敵集団の正体に悩む中、東門から連絡が入る。


『こちら第16守備部隊です。今よろしいでしょうか?』


「ええ、大丈夫よ。何かあった?」


『実は先ほど、前衛の部隊が倒した敵兵が一人後方に回されてきたので、鎧を脱がせようとしたんですが――』


 そうして伝えられた内容は、謎の敵集団に関するヒントとなる情報だった。


『――中身がなかったんです(・・・・・・・・・・)


「…………どういうこと?」


 報告の意味を理解できず、報告を受けたナディアだけでなく、話の聞こえたほぼ全員が同じ感情に支配される。


『本当にそのままの意味なんです。鎧の中に人がいなくて、鎧だけの状態で動いているんですこいつら』


「…………は?」


 ナディアから思わず素の声が漏れ出てしまう。

 あまりの内容に思考が迷子になる中、その隙をつくようにシューが報告してきた人間に問いかける。


「その鎧に魔法陣かなにか刻まれてないか?」


『魔法陣ですか? 少しお待ちください』


 そう言って少し間が空いた後、少し高いテンションで返事が返ってくる。


『あ、ありました! 鎧の内側に魔法陣が刻み込まれています!!』


「ちょ、ちょっと待ってシュー! どういうことなの?」


 シューの質問の意図や話の流れにサッパリついていけていないヴェラは、焦るようにシューに問いかける。

 しかし当のシューはブツブツと何かをつぶやきながら考え込んでおり、ヴェラの問いかけなどまるで聞こえていないようだった。


 


 

 そんな状態の中で、今までまったく発言できず、ただ黙って動きを観察することしかできなかったイースはふと思い至った。

 

 統括支部の部隊はほぼ全て西門と東門に集中している。

 現在は戦力が拮抗し、膠着(こうちゃく)状態とも言える。

 そして今、統括支部の人間は相次ぐ敵の攻撃によって、『敵は次にどんな手を打ってくるのか』という受けの姿勢になってしまっている。

 

 もし敵がトーヤ・ヘルトなら――――こんなチャンスを見逃すだろうか?


 戦力、意識共に統括支部の外側へと向けられ、内部が手薄。

 今こそミスフィットが統括支部内部で自由に動き回ることのできる状態であり、もし内部に侵入してくるならこのタイミング――――そう考えたところで、イースは自身の思考に違和感(・・・)を感じた。


 その違和感は、イースに語り掛けてくるようだった。

 何かが違うと。トーヤ・ヘルトがそんな当たり前の行動をとるのかと。



 そしてここで、イースと同じような思考を行い、かつその違和感の正体にたどり着いた人間がいた。


「今すぐ内部感知をしろ!」


 それはその少年による本日二回目の、まるで怒声のような叫び声だった。


「ど、どうしたのシュー?」

 

「おそらく今起こってることは全部敵の陽動だ! 西門か東門のどちらかが本命――――そう思わせること自体が敵の罠だったんだ!!! 魔獣大行進や鎧の集団といった派手な攻撃に意識を持っていかれちまったクソッ!」


 焦りや叫び声を上げるだけならまだしも、ここまで本気で悔しがるシューの姿は、幼なじみであるヴェラにとっても珍しい姿だった。


「…………内部感知をしてちょうだい」


 シューの発言の意図を理解できなかったナディアだが、シューの言葉通り職員に指示を出す。


 内部感知――それは統括支部内の特定(・・)の魔力を検知する術式であり、防御システムに組み込まれている魔法の一つ。

 1時間ごとに自動で発動するようにされており、魔獣に侵入される直前の30分ほど前に行われた内部感知では、未登録魔力は確認されなかった。


 本来ならば、あと30分ほどで行われる内部感知を今すぐ行う――――それに何の意味があるのか? 西門と東門付近で反応がでるだけではないのか?

 そんな疑問が部屋にいる多くの人間に浮かぶ中、内部感知の準備が進められていく。


「魔法制御の自動から手動への切り替え完了しました」


「特定魔力を未登録魔力で設定」


「魔力充填完了。内部感知を開始します」


 内部感知が実行され、膨大な魔力が統括支部を起点として球状に広がっていく。


 この内部感知は人間が行う感知魔法とほぼ同じような仕組みだが、あまりにも使用する魔力が膨大であるため、感知された人間が違和感を感じるという特徴が上げられる。


「うおっ、ブルっなった」


「この感じ、相変わらず慣れないんだよねー」


 部屋にいた人間も、自身の魔力が波打つような違和感を覚える。

 そしてすぐに内部感知の結果がモニターに表示された。

 

 モニターには簡易的な統括支部の地図が表示される。

 そしてポツポツと表示される『赤い点』――未登録魔力の反応。

 そのほぼ全てが西門に集中していた。


「西門は魔獣の群れだとして、やっぱ東門にある反応は1つだけか…………あ?」


「やっぱり感知壁の不具合じゃなかったんだ、って…………え? あれ?」


 西門、東門とそれぞれに視線を移動させ、魔力の反応である『赤い点』を確認する面々。

 どちらの魔力反応に関しても、あらかじめわかっていた、もしくはなんとなく想像していたものと大きな解離はなく、それほど驚きはない。

 だが、ひと通り地図上を確認すると、みなその表情が驚愕に染まる。









 西門と東門を直線で結んだそのほぼ中間点に浮かぶ――――100を超える(・・・・・・・)数の『赤い点』









 それは、敵が統括支部の奥深くまで侵入していることを示していた。


「今すぐどの建物か特定して!!!」


「は、はいっ!」


 信じられない事態にナディアが声を荒げて指示を出す。

 

「いやいやいや、最初の反応からまだ30分だぞ! 100人以上の集団がどうやって司令部まで移動したんだ! 仮に少数だったとしてもここまで来るのが速すぎる!!」


「部隊のほとんどを門に回しているとはいえ、通常の見張りが0になったわけではありませぬからなぁ。移動の仕方には疑問が残りますぞ」


「侵入経路や方法は後でいいだろ。とにかく、ここまで侵入されてるんだ。今すぐ対処しなきゃならねえ。場所がわかり次第、俺たちはすぐそこに向かうぞ」


 そう言ってバードの副隊長であるスカーが指示を出すが、シューはそれに否定の意を示す。


「スカーさん…………おそらく、その必要はないと思います」


「…………どういうこだ?」


 その疑問の答えを示したのは、建物の特定を指示された職員だった。


「特定完了しました! 場所はFの43ブロック――――え?」


「Fブロックってことはこの辺りね」


「であれば、機密研究を行っている第16研究所などが候補に挙がりまするな」


 各々が侵入場所の予想を立てる中、不自然に言葉を止めた職員は慌ててまた言葉を紡ぎ始める。


「ち、違います……………Fの、43ブロックは、、、ここ(・・)です――









 ――敵は、既にこの司令部の中です」


 














ーーーーーー



『司令部内、または司令部近くにいる全ての部隊に通達!! 敵は既に司令部内に侵入している!!! 繰り返す! 敵は既に司令部内に侵入している!!!』



 司令部内を仲間と共に移動する仮面を付けた少年は、その音声拡散魔法によって、明らかに統括支部内の空気が変わったことを察する。


「おっ、もうバレたか。想定よりかなり早いな。敵にもかなり勘の鋭いやつがいるみたいだ」


 うっすらと笑うその少年に焦りは見えない。


 こうして、統括支部の攻防戦は次の段階へと進んでいく。


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