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偽りの英雄  作者: 考える人
第六章 シール王国統括支部攻防戦
124/158

激化する両門 side統括支部



 ほんの少し時はさかのぼり――コクマ統括支部 東門前


「そろそろ魔獣の群れが門に到達したくらいか?」


「だろうな。今ごろ西門は大騒ぎのはずだ。それに比べてこっちは静かなもんだ」


 まさに魔獣が門の前へと到達し、戦闘が始まっている西門とは違い、反対側にある東門は同じコクマとは思えないほど、平和そのものだった。

 門の前で見張りをしている職員も、慌てている様子は一切見られない。


 ここまで落ち着いている理由として、1つは西門からはかなり距離があること。

 西門から正反対に位置する東門は、単純な距離だけで言えば統括支部で内でもっとも安全な位置とも言える。

 そしてもう1つの理由として、何もない平野が広がる西門側とは違い、東門の外側には街が広がっていることが上げられる。


 統括支部内部ほどではないが、多くの人間が暮らしており、夜遅くまで営業しているような店も多く存在する。

 そのため、西門のように魔獣の群れが現れた場合、まず騒ぎになるのは統括支部ではなくその街(・・・)

 街が静かであるということは、魔獣の群れが現れていないことの証明になっていた。

 もちろん、それは魔獣の群れに限った話ではなく、軍隊などが攻めてきたとしても同じである。


 だからこそ(・・・・・)、見張りの職員たちは警戒することができなかった。

 東門にゆっくりと近づいてくるのは、魔獣の群れでもなければ軍隊でもない。



 まったくと言っていいほど場にそぐわない使用人服を着た、1人の女だった。



「ん? なんだお前」


「おいおいねーちゃん。なんかのコスプレか? 営業なら他所でやれ」


 職員はその女の姿を確認するも、街で営業しているそういう店の人間だと勘違いする。

 女の容姿が驚くほどに整っていたことも、そう判断した理由の1つだろう。


 しかし女は職員の指示に従うことなく、どんどん門へと近づいていく。


「おい、いい加減に――」


 指示に従わない女に対し、職員が実力行使に出ようとしたその時、女は初めて口を開く。


「コスプレなどではありませんよ。これが私の本業ですから。まあ、今日の仕事はこちらですが――」


 そう言って女が服の中から取り出したのは――――仮面(・・)だった。


 その取り出した仮面を見た職員は、一瞬でその女の正体を看破する。

 なぜならここ最近、コクマで働く職員にとって、仮面から連想できる組織はただ1つ。


「お前! ミスフィットの―――――!!!」


 大声で叫ぼうとした職員はその言葉の途中で、動きを停止した。

 1人だけではなく、門の前で警備にあたっていた人間すべてが動きを停止していた。


「あ、が――」


 職員たちは必死に体を動かそうとするも、まるで凍らされたかのように一切動くことができない。

 そのうちに女はどんどん歩いて門に近づいていく。


 ついに女は門の目の前までたどり着き、持っていた仮面を付けると、右手をそっと門にかざす。


「さて、始めるとしましょうか」


破氷戒砕(はひょうかいさい)


 司令部に東門破壊の急報が入ったのは、この数秒後のことだった。







ーーーーーー



 統括支部司令部――

 


「被害状況を詳しく説明しなさい!」


『詳しくも何も! 言葉のままです!! 門が一瞬で破壊されたんです!!!』


「映像の準備できました! 東門映します!!」


 手元の魔法陣を操作していた職員が叫ぶと同時に、東門の映像がモニターに映し出される。

 そこには報告と何一つたがうことなく、完全に破壊された門。

 そして門の残骸の前に立つ1人の女。


「……メイド?」


 ポツリとつぶやかれた言葉は誰のものかわからない。

 だが、その場にいる全員が同じ気持ちだった。

 それほどまでに、使用人姿の異様さが極まっている。


 皆が等しく使用人服を見て思考を停止させたのち、次に目に入ってくるのは女が顔に付けているそれ(・・)


「仮面…………」


「あんなメイド服着た女、第三支部の襲撃の時いたか?」


「いや~、さすがにあんな人がいたら覚えてますよ」


「だよな」


 以前ミスフィットと接触したバードのメンバーにも、使用人服を着た女の姿に見覚えがない。


「とにかく、あの女が門を破ったというなら、相当な実力者ということになる」


「そうね…………幸い西門の方は状況が膠着してるから、残りの部隊は全て東門の方にまわしなさい」


 門が破られた以上、東門からミスフィットの残りのメンバーが入ってくる可能性が高いと考えたが故の指示。

 しかしその動きをあざ笑うかのように、西門でも大きな動きを見せる。






ーーーーーー



 統括支部 西門side



 魔獣の力では門を破ることは不可能――そう確信した西門で戦う部隊の士気は高かった。

 壁を這い上ってくる魔獣を、一方的に壁上から攻撃する状況もあり、攻められている立場にも関わらず余裕すら生まれている。


 魔獣の群れ、雄たけび、魔法攻撃による破壊音、飛び散る魔獣の体。

 様々な衝撃に五感が支配される壁上の者たち。


 だからこそ、誰一人気づくことができない。

 門のすぐ前、魔獣たちが群がるわずかな隙間――その地面から突然1人の少女が現れたことに。


 少女は腰に携えた剣を抜き、頭の上で空に掲げるように構える。

 掲げた剣は地面から這い上がる闇を纏い、刀身が黒く染まっていく。


 少女の存在を最初に気づくことができたのは、壁上で感知魔法を使った男だった。

 魔獣とは別次元と言えるほどの莫大な魔力が、門のすぐ前で発生していることに男は気づく。


「おい! 門の前に何か(・・)いるぞ!!」


 男は慌てて叫ぶもすでに時遅く、少女は魔法を放つ準備が完了していた。





『黒刃・極』




 剣から闇が放たれる。

 極大の闇は門の前にいた魔獣を飲み込み、そのまま門に衝突する。


 東門からわずかに遅れ、西門も破壊された瞬間だった。


 さらに――



『こちら壁上部隊! 新しい魔獣の群れがこちらに向かっています!! 数は先ほどの二倍以上です!!!』



 西門側にあった余裕は既になく、戦況は激化しようとしていた。







ーーーーーー





 統括支部 東門side



「あちらもそろそろ門を破壊し終えたころでしょうか」


 使用人服を着て、仮面を付けた女は独り言のようにそうつぶやく。

 その姿に焦りや気負いは一切感じられない。


 百人以上の人間に取り囲まれながら。


「手を上げてその場で膝をつけ! おとなしく投降しろ!!」


 東門近くにいたほぼ全ての部隊が女の元へと集結し、何人かいる部隊長のうちの一人が女に投降するよう求める。

 1対100以上――圧倒的な数の有利を保っていながらも、取り囲む部隊の者たちは表情が険しい。

 たった1人とはいえ、敵は強固な門を一瞬で破壊し尽くした。

 そんな手練れがこの状況でどう動くのか――女の一挙一動に神経をとがらせる。


「ああ、このようなか弱い乙女に対して、武装した人間がこんなにも、、、なんと恐ろしい」


 女は急に芝居がかった態度で慌てる様子をアピールしだす。

 ここにとある少年が存在すれば、『なにかわい子ぶってんだこのマウンテンメスゴリラ』と発言したであろうが、今ここにいる周囲の人間は困惑するばかり。

 

「皆様も、女一人相手だと遠慮して本来の力を出せないでしょう。やはりここは対等(・・)にいきましょう」


 そう言い切った瞬間、女がその場から消える。

 しかしそれは瞬間移動したわけではなく、高速で移動したことによる消失だった。

 

「どこだ!?」


 多くの人間が女を見失った中、なんとか目で追うことができた数人はある方向を指さす。


「上だ!!!」


 そう言って指さされたのは壁の上。

 首が痛くなるほど高くそびえたつ壁上に、女は一瞬で移動していた。





 壁上から女は辺りを見回す。


「すでに集まっているのが150ほど。集まりかけている予備隊も含めると300ほどでしょうか…………まあ、余裕ですね」


軍兵総塊将(殲滅せよ)・氷兵・青』









「今すぐ壁上部隊を東門に集めろ!」


「こっちの地上部隊もいくつか上にまわせ!!」


 壁上から悠然と自分たちを見下ろす女を追い詰めるため、部隊を慌ただしく動かしていく。

 不思議なことに、今のところ女はまだ動く姿を見せない。

 女の狙いはわからないが、今のうちに――


 多くの者がそう考えていた時、門の外側から音が鳴る。


 ガシャン、ガシャンと――まるで金属がぶつかり合う音だった。

 それも一つではなく、複数の音が重なり合っている。


 暗闇で先がほとんど見通せない中、部隊の人間が魔法を駆使してその音の正体を探ろうとする。

 しかし魔法を使わずとも、その音の正体に気づいたものがいた。

 気づいたのは、かつて他国で軍に所属していた人間。


 戦場いた際、嫌というほど何度も聞いたその音は――鎧同士がこすれる音。

 すなわち、()が動く時の音。


「…………嘘だろ」


 暗闇の奥から門を通って現れたのは、全身に青色の鎧を身にまとった兵士――その数300近く。




「これで対等でしょう。あくまで、数の上でのことですが」


 壁上で佇む女は、仮面の奥で静かに笑う。


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