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偽りの英雄  作者: 考える人
第一章 学園の問題児
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爆破


 『男だけじゃなくて女も、恋愛対象かつ性欲対象なんです』


 最後の最後に、とんでもない爆弾を笑顔で放り投げながら去っていったリリー。

 なんでそんなこと俺に教えるんだと思ったが、よくよく考えれば、親しい人間にこそ言えない内容だからだろうと、俺は自分で自分を無理やり納得させる。


 深く考えたら負けだ。


 しっかし、ほんとやべえ女だな。

 祭りの時もしかり、女にここまで振り回されたのは久しぶりだ(マヤを除く)。

 あんな女と婚約関係のセーヤには、がんばれとしか言えない。



 気を取り直して、俺は当初の目的であった背の高い建物へと向かう。

 建物に入る扉を開けるとすぐに階段があり、らせん状に伸びるその長い長い階段を上っていく。

 最上階にたどり着くと、あったのは立派な装飾の施された扉のみ。

 扉の上部には『理事長室』と書かれたプレートがはられてあった。


 学園で一番高い建物を自身の部屋だけのために建てるとは、いいご身分なこって。


 とりあえずノックを――せずに入る。

 よく考えたら式の途中だからいるわけないだろうし。


 中に入ると、やはりそれなりに豪華であり、国から贈られた賞状などがいくつも飾ってあった。

 歴代理事長の肖像画も飾られており、全員がドヤ顔だったので、壁に『ドヤ顔選手権』と書き込んでおいた。俺は6代目の理事長に清き1票を入れておく。


 部屋の壁はところどころガラス張りになっており、そこから学園が見渡せるようになっている。

 

 そこから見える景色は、人も建物もすべてが小さい。

 広範囲破壊魔法をぶっ放したくなるような景色だ。

 やらないしできないけど。


「誰かね?」


 少し過激なことを考えていると、扉のほうから声がかかる。

 振り向くとそこには、かなり背丈が低く、立派な髭をたくわえた老人が立っていた。

 まさにドワーフといった見た目の老人は、温厚そうな表情を浮かべ、こちらの方を見つめている。


「魔法という悪しき力が蔓延る荒廃した世界に生まれた天才魔法使い、神に愛されるが神を愛さない英雄の中の英雄、数多くの通り名を持つヘルト家次男、トーヤ・ヘルトだ」


「ヘルト……ああ! 君がホクトくんの言っていた問題児か!」


 この野郎、俺のボケに一切触れないとはいい度胸じゃねえか。

 てか誰が問題児だ。


「私はこの学園の理事長を務めているシードックというものです。君のことはホクトくんからすべて聞いているよ。魔力のことも、それを隠し通さなければならないことも。私も可能な限り、君の秘密を守る手助けをさせてもらおう」


 シードックと名乗った老人は、柔らかい声でそう告げる。

 なるほど、理事長という立場の強いやつを親父は味方に付けてたわけか。


「しかし、ホクトくんに話を聞いた時から思っていたんだが、いくら私を含めた教師数名の力でも、4年間秘密を隠し通すのは少し難しいのではないかい? この学園は1年のときから魔法実習の授業もあるし、魔法を使う機会なんていくらでもあるのに……」


 シードックは心配そうな表情を浮かべて話す。

 依頼を受けたはいいものの、やはり不安は残るらしい。


「まあそれに関しては自分でなんとかするさ。俺にはこれ(・・)もあるしな」


 そう言って俺は制服の内側から一枚の()を取り出す。

 ただの紙ではなく、あるもの(・・・・)が書き込まれた紙。


「それは……もしかして魔法陣かね?」


「その通り。しかもただの魔法陣じゃない。セーヤ、マヤ、親父、カナン、その他もろもろ、力のある魔法使いたちが直接書き込んだ魔法陣だ」

 

 そう言いながら、さらに複数枚の魔法陣を取り出す。


「っ!!……それはすごい。よくそんなに書いてもらったね」


「まあ人徳というやつよ」


 親父の魔法陣に関しては、場所も選ばず三日三晩土下座をし続けるという迷惑行為をしたうえでやっと書いてもらえたわけだが。


「しかし本当にすごいね。これほどの魔法陣が……」

 

 シードックは相変わらず魔法陣に対して驚きを隠せずにいる。


 そもそもの話になるが、単純な放出系魔法の場合、魔法を発動させるために三つのプロセスが必要となる。

 1、体内の魔力を集める。

 2、頭の中で行う魔法の魔術式を完成させる。

 (これに関してはなんとなくだったり、行う魔法のイメージですますものもいる。というよりそういうやつの方が多い)

 3、その魔術式、もしくはイメージに魔力を注ぐ。


 一部例外はあるが、大体この手順により魔法を使うことができる。


 魔法陣は1~3のプロセスのうちの2を排除する。

 ようするに魔力を魔法陣に流すだけで、簡単に魔法が発動できるすぐれものというわけだ。


 しかし、この魔法陣は量産するのがとても難しい。

 頭の中で描いた魔術式を魔法陣に書き写すということが、まずとんでもない技術を要する(イメージから魔法陣を作ることは不可能)。

 書いたものを複製することでさえ、かなりの技術が必要となる。

 この学園でも教師陣を含めて、魔法陣を書くことのできる人間が5人もいれば、それは多い方だと言えるだろう。

 

 そのため一般に魔法陣はあまり出回らないが、誰にでも魔法陣に記された魔法が使えるため価値は高い。

 それが英雄家の使う魔法ともなれば、大枚はたいてでも買いたいという奴が存在する。

 ようするに俺の懐には、下手すれば億の金になる代物がしまわれている。

 シードックが驚いたのもそれが理由だ。


「魔法陣か、なるほど……しかし例え魔法陣でも使用する魔力の量は変わらない。そんな強力な魔法を使うとなると、魔力不足ではないのかい?」


 まあ当然の疑問だろう。しかしそこは英雄家によるプラスアルファ技術があるため問題ない。

 これらの魔法陣には使用する魔法の他に、もう一つ別の術式が組み込まれている。


「『魔力の蓄積』――それがこの魔法陣に組み込まれたもう一つの術式だ」


「魔力の蓄積?」


「通常の魔法陣なら、一気に魔法が発動するまで魔力を流し込まないと、途中まで入った魔力は霧散する。けどこの術式があれば、魔力は霧散することなくたまり続け、魔法を発動するための魔力をちょっとずつ入れていけるってわけだ」


 だから俺が普段持ち歩いている魔法陣は全て、あと少し魔力を入れれば発動する――というところまで事前に魔力を入れてある。

 そこまで準備するのに、何度魔力がすっからかんになったことか。


「それはすごい。聞いたことのない技術だよ」


「そりゃヘルト家の機密技術だからな」


 というより、俺のために開発してもらった技術だ。


「私に言っていいの? 機密技術なのに」


「誰にでも話すってわけじゃないさ。親父が信頼してる相手だから話したんだ」


 親父が俺の才能についてまで話してるんなら、親父もこの人を大分信用してる証拠だ。


「信頼ついでだ。実際に一つ見せてやるよ」


 持っていた魔法陣の中から一枚を抜き出し、魔力を込める。

 すると――

 

 ……

 ………

 …………

 ……………あれ?


 魔法が発動しない。


「おっかしいな。確かにこの術式がこうでこの術式がこっちにかかっているから――」


 必死に術式を読み解いていると、シードックから疑問の声が上がる。


「一体何の魔法だったのかね?」


「閃光魔法だよ。まともに見たらしばらく目が見えなくなるくらいの」


「トーヤくん……そんなものここで使おうとしていたのかね?」


「まあ爆発魔法とかよりはましだろ」


「なぜホクトくんが君をSクラスにしてくれと頼んだのかわかったよ……」


 失礼な。せっかく気を使ったというのに。

 というか俺がSクラスだったはやっぱり親父の差し金かよ。


「えーと……この術式はこっちにかかって……もういいや」


 俺は解読しようとした魔法陣を放り投げる。

 本来魔法陣の術式の解読なんてものは、もっと時間と人をかけてやるもんだ。

 こんな短時間に一人でやるもんじゃない。

 多分どっかで術式がミスってたから魔法が発動しなかったんだろう。

 

 あれ? そういや理事長がこうして部屋に戻ってきたってことは――――


「もしかしてもう入学式終わった?」

 

「ああ、ついさっき終わったよ。最後にリリアーナ姫が新入生に殺気を飛ばしたことで一時騒然となったけどね」


 何してんだあのバカ姫。

 やっぱり頭おかしいわあの女。


 まあいいや、ツエルとの待ち合わせもあるし、そろそろ戻るとするか。

 すでに待ち合わせの時間は過ぎてるけど、ツエルならマヤと違って、ちょっと遅れただけでチョークスリーパーをかけてくることもないだろう。


「じゃあな理事長、これからよろしく頼むわ」


 これから4年間、いろいろと世話になるであろう相手に対し、手をひらひらと振りながら俺は部屋を出た。





ーーーーーー





 トーヤが部屋を出てしばらくの間、シードックは椅子に座りながら昔のことを思い出す。

 それはあまりにも遠い記憶。

 自分がまだ学生だったころ、かつての仲間と共に勉学に励んだ日々。


「久しいな、オーヤ……」


 つぶやいたその名は、もっとも大切だった友のもの。

 先ほど出ていった少年と、よく似た姿がシードックの脳裏に浮かぶ。


「おっと、いかんいかん。歳をとるにつれて、つい昔の事ばかり思い出してしまう。今はトーヤくんの秘密を守るための対策を考えなくては……ん?」


 シードックが思考を切り替えようとしていた中、トーヤが捨てていった魔法陣の書かれた紙が目に入る。


「ふむ、簡単に処分してしまってもいいものか……」


 シードックは物が物だけに、魔法陣の処分方法を考える。

 トーヤは何の躊躇もなく捨てたが、機密情報の塊みたいなものを、適当に捨ててしまっていいものかと。

 だが、それを考える必要はすぐになくなる。


 次の瞬間、部屋全体が強い光に覆われた。



ーーーーーー



「おーい、ツエル」


 俺は集合場所近くで、ツエルを見つけて呼びかける。

 それに気づいたツエルもこちらに近づいてくる。


「お疲れ。どうだった? 入学式は」


「これといって重要なことはなかったですね。ああでも、最後にリリアーナ姫のおかげで、何人かの実力者は知ることができました」


 そうか、よくわからんが収穫はあったみたいだな。


「なんかこの後って予定ある?」


「いえ、今日は式以降の予定は何もありません。個人的な活動などの勧誘はあるみたいですが」


 なら今日はもう帰るか。まだ早いし、帰りにどっか寄っていくのもいいかもな――そんなことを考えていた時だった。


『バアアアァァァァアアン!!!』


 それは爆発音だった。


 耳をたたくような甲高い音は、反射的に手で耳を塞いでしまうほど。

 近くにいた生徒達が悲鳴を上げ、あたりは騒然となる。


 目の前ではツエルが腰の剣に手をかけ、とっさに警戒レベルを上げていた。


「……どうやらあの場所からみたいですね」


 そう言ってツエルが見上げた先は――








 ――理事長室だった。





 ……あれ? もしかしてあの魔法陣……


 俺は魔法陣の形を思い出し、大慌てで解読を進める。

 おそらく今まで、これほどのスピードで魔法陣の解読はしたことないだろうと思えるスピードで。


 …

 ……

 ………あ、


 しまった。あれは閃光魔法なんかじゃない。

 光った後に爆発する魔法だ……それも時間差で。




 …………やっべえええええ。


「お気をつけ下さいトーヤ様。もしかしたら、この学園を狙ったテロリストかも「ツエル」」


 俺はツエルの言葉を遮るようにして告げた。


「帰ろう」





 

ーーーーーー


  トーヤ・ヘルト学園記録 初日

 ・王族に喧嘩を売る

 ・理事長室爆破

  

 


ちなみにさらっとやってますが、魔法陣の解読はめちゃくちゃ難しいです。

専門的な深い知識と経験が必要ですが、トーヤが簡単にできるのはヘルト家の教育のたまものです。

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