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偽りの英雄  作者: 考える人
第六章 シール王国統括支部攻防戦
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難航する前準備


 コクマ シール王国統括支部攻略――


 攻略なんてちょっとかっこいい言葉を使っているが、実際のところ勝手に忍び込み、必要な情報(・・・・・)をかっぱらってくるだけ。


 それ泥棒となにが違うの?――と問われてしまえば正直ぐうの音も出ないのだが、もちろんこの行為はとある目的(・・・・・)があってのことだ。

 その目的に対して、ここにいるメンバーは賛同し、俺と志を共にして行動している。


 まあ一部例外もいるけど。


 そして今日の会議は、その支部攻略に向けた第一歩というわけだ。

 事前に俺が各自メンバーにやるべきことを指示しておいたので、今からその経過報告をしてもらうことになる。


「じゃあまずは支部長調査班から」


「は~~い」


 俺の報告を促す言葉に反応したのは鬼族のソフィー。

 ソフィーは俺が鬼族の村に拉致られたとき、村にいた数少ない同世代の鬼だった少女。


「はいはーい!『しっかり調査したよ!』」


 そしてさらにもう一人、シルエという見た目は(・・・・)年齢が二桁にも届いていなさそうな少女。

 こちらは建国祭で出会い、話せば長くなるので割愛するが、かなり奇妙な縁によりこうして協力関係となっている。

 ちなみに、おかしな話し方に関しては以前インが突っ込んだ際、その重すぎる理由に空気がお通夜状態となったため、触れるのはタブーとなった。


 ソフィーとシルエ、この二人に任せたのはコクマ シール王国統括支部の支部長の動向調査。

 目的を達成するためにも、支部長の調査は重要なものになる――のだが、


「想像通り~~ここ一ヶ月統括支部の周りで張り込んでたけど~~めぼしい情報はなし~~~。多分この人~支部から一切外に出てないよ~」


「こっちも統括支部を出入りするいろんな人の記憶を覗いた(・・・・・・)けど、たいした情報はなかったの。ね? 『うん、なんなら姿すら見たことない人ばっかりで、命令とか指示も全部副支部長から出るんだって』」


 とのこと。

 言い方は悪いが成果なしといった具合である。

 とはいえ、これはある程度予想できていたことなので仕方ない。


「まあもともと名前以外なんの情報もなかったやつだからな。それに統括支部は司令部のある建物を中心に20近くの研究棟が立ち並ぶうえ、研究者や職員、なんならその家族が住む住居まで存在する」


「しかもその家族が暮らしていくための店も数多く出店してるんでしたっけ? もはや立派な一つの街じゃないですか」


「福利厚生もかなりいいらしいですからね。研究者志望の学生には大人気の就職先ですよ」


 俺の言葉にリリーとインが続く。

 さらに付け加えるなら、これはシール王国だけ特別というわけではなく、他国のコクマ統括支部も同規模であるということだ。

 いや、むしろヘルト家による妨害(・・)がない分、他国の方が大規模といえるかもしれない。


「そういえば、私が学園に通っていた時の一つ上の代も、何人かコクマに就職したっていうのを風の噂で聞いたな」


 懐かしそうに語るのは、鬼族の村からの帰りに護衛として雇ったヴィエナだ。

 王都に到着して別れた後、正式に俺の元で働くことになった。

 ヴィエナはもともと家出同然で貴族である実家から飛び出したこともあり、帰ったときは本気で殺されるかと思うくらいキレられたが、ヘルト家に仕えて働くと聞いた瞬間、手のひらを返して喜んだらしい。

 まあ正確に言えばヘルト家にというより、俺個人に仕えると言った方が正しいが。


 少し思考が逸れた。


「とりあえず、支部長についてこれ以上探っても成果は見込めそうにないな。二人には今後別の仕事を与えるからそのつもりでいてくれ」


「は~~い」「うん!『わかった!』」


「じゃあ次、統括支部の防御システム担当班」


 当然のことではあるが、主要な建物や重要な場所には魔法による侵入対策が施されている。

 統括支部も例外ではなく、なんらかの魔法による防御システムが導入されているということが、今までの調査で分かっていたことだ。

 しかし、それ以上のことはどれだけ調べても情報を得ることができなかった。

 

 統括支部がまとめている支部をいくつも調べたが、防御システムに関しては一切共有されていない。

 要するに、統括支部だけの独立したシステムが組まれているということになる。

 情報すら下部組織に伝わっていないのは正直異常だが、逆に言えば、それだけ統括支部の守りを重要視しており、外部から守り抜きたいものがあるということだ。


 というわけで、その防御システムの調査と対策をリリー達に任せた。

 調査人数とその能力から考えると、一番力を入れた人選とも言える――のだが、防御システム担当班のメンバーの顔が暗い。

 

 報告前からすでにダメでした感が満載だぞおい。


「ああー……じゃあ私から……」


 そう言って担当班の一人であるインが調査結果について話し始める。


「統括支部で採用されていた防御システムですけど、トーヤ様の予想通り統括支部独自で開発された魔術システムでした」


「やっぱりか、そりゃどこ調べても情報が出てこないわけだ」


「システムの名前は、開発者の名前からとってPシステム。3年ほど前から正式に稼働し始めたらしいです」


 Pシステムねぇ……まじで聞いたことねえな。

 よくもここまで完璧に情報を隠し通せるもんだ。


「で、システムの概要は?」


「…………」


「嘘だろおい」


「しょうがないじゃないですか!!!」


 うお、びっくりした。急に叫ぶなよ。


「外部に一切情報がないシステムを調べるんですよ! なら当然統括支部内を調べないといけないのに、そのシステムのせいで統括支部内に入ることができない! なんですかこのジレンマ!!」


「その通りです!!」


 そこにリリー(バカ姫)が乗っかる。


「私なんて今回の調査で大切に育ててきた偽造戸籍全部失ったんですよ!!」


「仮にも王族が大声で犯罪行為を自白するのはどうかと思うぞ?」


 俺も持ってるけど。


 ちなみに、しっかりと毎年税金を払って偽造戸籍に信頼性を持たせることを、このバカ姫は『育ててきた』などと言っている。


 よい子のみんなはマネしちゃだめだぞ☆


「でもトーヤ、調査が厳しいのは確かよ」


 そう言ってリリーとインをフォローするように話すのは、こちらも防御システム担当班の一員であるラシェルだった。


「防御システム自体かなり複雑に組まれてるみたいで、役職の低い人間だとそもそもシステムの存在すら知らないの。実際にシステムを扱ってる人間も何人か見つけたけど、『よくわからないけど教えられた通り機械的に操作してる』っていう人間しかいなかったもの」


「ダメだろそれ。ブラックボックス状態じゃねえか」


「しかも一度統括支部内に私が侵入しようとしたんだけど、すぐに検知されて逃げざるをえなかったわ」


「精霊魔法でも無理だったのかよ……」


 そのラシェルの発言には少し驚いた。

 幻術魔法においてはおそらく世界でもトップクラスであろうラシェルの精霊魔法。

 対人がメインの魔法であるとはいえ、魔力隠匿魔法に関しても相当なものだ。

 それが通用しなかったとなると、かなりの精度を誇るシステムということになる。


「まあなんにせよ、システムの概要がわからなけりゃ攻略もクソもないわな」


「申し訳ありません……」


 見るからに気落ちして謝罪するリリーの護衛であるダヴィ。

 

「別のアプローチで調査するしかないな。時間がかかりそうだからこの話は後回しだ。最後に俺の担当した統括支部主要建築物の調査だが――」


 そこで俺は話を一旦切り、背後で待機していたヴィエナから一枚の丸めた紙を受け取り、それを机の上に広げた。


「これは?」


 誰かがこぼした疑問に、俺は端的に答えを述べる。


「統括支部のほぼ中心に位置する司令部の建物――その設計図だ」


「……よくこんなもの手に入りましたね」


「さすがに建築まで統括支部内部で扱ってるわけじゃないからな。建物が建てられれば当然設計図も存在するさ」


 もちろん違法にコピーしたものだけど。


「それより見てみろよ、このスペース」


 そう言って俺が指さしたのは建物の地下。




「…………なんですかこれ」


「いくらなんでも広すぎない?」


「高さだけでも30メートル以上ありますよこりゃぁ」


 おそらく、素人ですら一目見れば異常と思える馬鹿でかい地下空間の存在。


「司令部の建物にこんな地下空間必要ないでしょう」


「その通りだ。だからこそ、間違いなくここに何か(・・)ある。俺たちの求める何かが」


 その言葉で全員の眼の色が変わった。



「これで、俺たちの目指すべき場所は決まったということだ」





















 などと、かっこつけて現実逃避したところで、現実は変わらない。

 目指すべき場所が決まっても、最初の段階でつまづいているという現実は。


「まじでなんかねえのかよ」


「ないですねぇ……統括支部の出入口を張り込んで、システムを直接いじってる人間を見つけるしか」


「くっそみたいに地道な作業ねそれ……」


 こうなってしまった以上仕方ない。

 結局最後に頼れるのは地道な行動だけだ。


「イン、システム開発者の名前はわかるか?」


「え、あ、はい。ピーグルー・シャルルカンという名前の男です」


「……ピーグルー?」


 その名前に反応したのはヴィエナだった。


「聞いたことあるのか?」


「うん、たしか私が学園に通っていた時、一つ上の先輩にそんな名前の人がいた気がする。魔術式に関して天才的な知識を持っていたけど、かなり変わった人らしくて学園でも有名だったよ」


 学園か……もし論文とか書いてたらシステムのヒントがあるかもな……

 俺はそっちの線をあたるか。


「これ以上この場で考えてても意味ないな。明日までに俺とリリーで方針を考えてお前らに伝える」


 とりあえず俺はこの場の解散を宣言した。























 次の日――


「とりあえずソフィーとシルエは防御システム担当班に加える」


「そして二人を加えた防御システム担当班にはこれを渡します」


 そう言ってリリーは二つの紙の束を班員に渡す。


「これは、計画表と……名簿?」


「統括支部で働いてる人たちの中で、特に防御システムに関わる可能性のある全職員(・・・)の名簿です。似顔絵付きの」


「重要度の高さでも振り分けてるからしっかり頭に入れとけ。頭に入れたらすぐ燃やして処分するからな」


「めちゃくちゃ分厚いんですけど」


「これ全部頭に入れろとか正気?」


 俺とリリーが一睡もせずに考えてまとめた計画表と名簿に文句を垂れるボケなす共。


 おっと、いかん。疲れで思考が荒くなっている。

 ここはリーダーとして冷静に対応しなくては。


「正義のためだ。黙って働け」


「辛辣~~~」


 仕方ねえだろ。作戦の関係上、少人数のチームでしか動けねえんだから。



 

 次々と文句が出る中、インの手が上がる。


「あの、この計画表――睡眠時間どころか休憩時間すら書いてないんですけど」


「入れてないからな」


「二度と正義名乗るのやめてもらえます?」


シール王国第○○支部といった感じでいくつもコクマの建物があり、その全てをまとめあげるのがシール王国統括支部。

シール王国内におけるコクマの最高意思決定機関。

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