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偽りの英雄  作者: 考える人
第六章 シール王国統括支部攻防戦
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とりあえずいつもの


「じゃあさっそくだが――」


 集まった面々に対し、話を繰り出そうとしたところで『待った』がかかる。

 普段は俺の話を遮るようなことをしないダヴィが、申し訳なさそうにしながら挙手していた。


「どうした?」


「すいません。その……」


 発言しづらい内容なのか、ダヴィの態度にはためらいが見える。

 一応発言は自由にしていいと普段から言っているのだが、やはり目上の人間相手ではそうもいかないのだろう。


 どれ、ここでいっちょ俺の懐の広さを見せてやろうか。


「安心しろダヴィ。俺たちは立場云々の前に同じ目的を持つ同士だ。どんな話だろうと真摯に耳を傾けるし、無下にしたりしない。だから遠慮なく発言してくれ」


「……リリアーナ様がきてません」


「じゃあさっそくだが、各々頼んでいたことの報告から――」


「光の速さで無視して無下にしたんだけど」


「うるせえぞイン。目上の人間の話は黙って聞け。口を開くな」


「手のひらクルクルしすぎでしょこの人。」


 ……あいつ呼ばなきゃダメか? 別にいいだろ、いなくても。


「いやダメですよ。私達が任された仕事を取りまとめてたのリリアーナ様なんですから」


「じゃあとっとと呼んで来いよ。どうせいつもの(・・・・)部屋にいるんだろ」


 あの女、あろうことか俺の家の一室をもはや自分の部屋かのように扱っている。

 私物を持ち込み、部屋のデザインを自分好みにアレンジし、当然のように寝泊まりしたうえ、恋人まで連れ込む始末。

 一度部屋のものを全て焼き捨ててやったが、次の日には元通りになっていたのは本当に意味が分からない。


「いやです。前に起こしに行ったとき、寝ぼけながら鼻の骨を折られたんですよ。なんで半寝状態の人間が魔力を込めたパンチ打てるんですか」


「なるほど。お前の鼻1つですむなら安いもんだ。行ってこい」


「人でなしってトーヤ様のためにある言葉だと思うんですよね」


 インはブーブー文句を言いながら、一向に起こしに行こうとしない。


「あー……じゃあダヴィ。頼むわ」


 まあ本来ならリリーの部下であるダヴィに行かせるべきか。

 金にこすいインと違って、忠誠心の強いダヴィならば自分の主人を起こしに行くことに抵抗もないだろう。


 と思ったのだが、すぐに返事もせず、渋ったような表情を浮かべている。


「その……リリアーナ様は就寝の際、服装が、その……かなり薄いといいますか、なんといいますか……」


 顔を真っ赤にしてなんとか言葉を絞り出したといった様子のダヴィ。

 

 はーーったく、これだから図体のでかい思春期は。


「いい機会じゃねえか。そのまま男にしてもらってこい」


「トーヤ様!!」


 真っ赤だった顔をさらに赤くしてダヴィは叫ぶ。


「あーもう誰でもいいから早く連れてこい」


 俺がそう言ってここにいる全員の顔を見まわすも、全員がいやそうに顔を背け目を合わせようとしない。

 こいつら…………


 あんまりこんなくだらない仕事を任せたくないんだが、この際しょうがないか。


「ツエル、頼めるか?」


「…………」


 お前もかツエル。


「……実は私、以前リリアーナ様から――『ツエル、あなたがこの部屋に入ってくるとき……それは私と×××する心の準備ができたと判断します。あなたと○○○○○や△△△△△△、さらにはとても口にはできないあんなことやそんなことをするの、楽しみにしてますよ』 と言われていまして……」


 あのバカ姫は一回地獄に落ちた方がいいと思うんだよな。わりと真面目に。


「し、しかし、トーヤ様の命令であればこのツエル、体をさしだすことも――」


「やめろツエル。お前にそこまでさせるつもりはない。お前は俺にとって大切な部下だ。こんなことで身を犠牲にする必要はないさ」


「トーヤ様…………」


 感動したように俺を見つめるツエル。

 そして慈しみを込めた笑みで見つめ返す俺。


 ああ、これこそ理想的な主従関係。


「あの、同じ部下なのに扱いに差を感じるんですけど」


 何も聞こえない。



 さて、これ以上時間を無駄にするわけにもいかないし……気はのらないが俺が行くか。

 まったく、使えない部下どもだ。


 惰眠姫を起こしに行くため部屋を出ると、部屋の中から扉越しに声が聞こえた。


「ケンカになって傷だらけで帰ってくるに1万」


 聞こえてるからな???


 戻ったら覚えとけよイン。











 さて、部屋に入るとそこには目的の女がベッドの上、下着姿で爆睡していた。

 

 起こすのが申し訳なるくらい心地よさそうな寝顔を浮かべているリリー。

 その寝ている姿はどこか美しく、大げさに言ってしまえば素晴らしい絵画のようだった。


 なるほど、暴力云々は置いておいて、たしかにこれは起こしづらいものがあるな。

 起こしてしまうことに申し訳なさすら感じる。



 そんな思いを持ちながら俺は――魔力弾のこもった魔法陣を発動させた。




 けたたましい音が鳴り響き、目の前のベッドは木っ端微塵。

 部屋の壁には穴が開き、隣の部屋と繋がってしまっていた。

 数秒前まで存在していた美しい光景は見る影もない。


「諸行無常……か」


「人生最後の言葉はそれでいいですか?」


 しみじみと語る俺の胸ぐらを、乱暴につかむボロボロの女がそこにいた。

 これでもかというほど怒りの表情を浮かべている。

 寝ている時の可愛げある表情は見る影もない。


「なんだ、生きてたのか」


「ええ、生きてますとも。そしてこれから死ぬのはあなたです。辞世の句を詠む時間はいくら欲しいですか?」


「おいおい、人を脅迫してはいけませんって常識、王族教育では習わなかったのか?」


「寝ている人間に魔力弾ぶち込むやつに常識語られたくないんですけどぉ!!!」


 魔力弾くらいでギャアギャアうるさいやつだ。

 

「そもそも、お前が時間通り会議に来ていれば何の問題もなかったんだよ」


「会議……え、もうそんな時間ですか?」


 会議という言葉を聞き、リリーはきょとんとした表情を浮かべる。

 俺はリリーが掴んでいた胸ぐらの手を払い、ここに来た目的を果たす言葉をかける。


「ああそうだ。世界をひっくり返すための、世界で最も重要な会議にお前は遅刻したんだぞ」


 大げさでも何でもない。

 事実だけを述べた俺の言葉に、リリーは笑う。


「重要だろうとなかろうと、私は私ですよ。いつだって」


 いつも通りの顔でリリーは告げた。

 寝顔なんかよりもよっぽど魅力的な表情で。


 ほぼ全裸でぼろぼろのくせに、大物ぶりやがって。


「まあでも、みんなを待たしてるなら急がないといけませんね」


「なら早く服着て降りてこい」


 そう告げ、振り返って部屋から出よ――うとする俺の肩をリリーはがっしりと掴む。

 それはもうがっしりと。肩がみしみしなるほどに。


「まさか、さっきの件が有耶無耶になると思ってませんよね?」


 


 …………ちっ、ダメだったか。






 15分後、お互いぼろぼろの状態で二人そろってみなの待つ部屋へと戻った。

 

 これから大事な会議始めるってのに、トップ二人がこれなのどうなんだ。





 ちなみに、そんな俺たちを見てガッツポーズをしたインは殴っておいた。




 やっとメンバー全員が部屋に揃い、その全員の視線が俺に向く。


「さて、今度こそ始めるとするか。1ヶ月後に決行する――






 コクマ シール王国統括支部攻略会議を」

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