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偽りの英雄  作者: 考える人
第五章 学園の麒麟児
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こぼれ話編 初めてのお買い物 ②



 俺はアーカイドを連れて広場から少し歩き、人通りの少ない路地裏へと入っていく。

 その場所(・・・・)へたどり着くには、複雑に入り組んだ道を一つも間違えることなく進む必要がある。

 それも二次元的な移動だけでなく、地下へと繋がる階段を下ったり上ったりと、三次元的な移動も必要になる。


 要するに、道順を完全に理解していなければ、決してたどり着くことができない場所に俺たちは向かっている。


 目的地へと近づくにつれ、通路は狭くなっていき、心なしか空気も冷たくなっていく。

 もう長いこと俺たち以外の人間に会っていない。


「ずいぶんと下へ降りた気がするな。話で聞いたことはあったが、王都の地下がこれほどまで深く広大だったとは……」


「実際大分奥深くまで来ましたよ。とはいえ、まだまだ先がありますけどね」


 物理的にも、闇の深さ的にも、王都の地下は無限と言えるほど広がっている。

 とはいえ、一般的な家庭に生まれ、一般的な生活を送っていれば、一生関わることのない話だ。


「あ、そうだ。アーカイド様、そろそろこれ(・・)を被っておいてください」


 そう言って俺はアーカイドに、顔の鼻から上を隠せる仮面を手渡す。


「……? 顔を隠したりすればむしろ怪しさが増すんじゃないのか?」


「いえいえ、むしろこれはドレスコードなんですよ」


 言いながら俺も持って行った仮面を身に着ける。

 最近仮面付けてばっかだな俺。


 またしばらく歩くと、20代くらいの男が俺たちの前に姿を現す。


「ようこそいらっしゃいました。招待状の確認をさせていただきます」


 狭い通路を塞ぐように立つ男は、詳しく説明することもなく招待状を求める。

 なぜならこんなところを訪れる人間など、オークション参加者以外はありえないからだ。


 さて、ここで問題が1つ。

 

 

 俺は招待状を持っていないのである。



 考えてみて欲しい。

 裏社会最大規模で行われるオークションの招待状を、たった2週間で用意できるのか――


 無理だ。


 とはいえ、手段を選ばなければ入手できないこともない。

 それに頼めば喜んで招待状を渡してくれるどころか、オークションの商品を全部渡してくれそうな相手にも心当たりがある。

 だが見返りが怖すぎるため、そいつを頼る案は捨てた。


 というわけで、ここ以外にもいくつかある『招待状の提示』を招待状なしで乗り切らなければならない。


「ああ、招待状ね。ちょっと待ってくれ……」


 そう言って俺はあるはずもない招待状を探すふりをする。


「あれ? どこやったかな…………あ、しまった! 俺たちの分の招待状もインのやつに渡してたんだった」


「……すいません、招待状がないと進めない決まりになっていまして」


「おいおいまじかよ。でもちゃんと招待状はあるんだ。先に中に入った仲間が持ってる。だからいいだろ?」


「申し訳ありませんが規則ですので……なんでしたら私が先に入ったかたを呼んできますよ」


「ほんとか!? 助かるよ!」


「ええ、ではそのかたの特徴などを教えていただければ」


「多分すぐわかると思うぜ。めちゃくちゃガタイのいい男だからな。ただあんたは気をつけた方がいい。なんせあいつはホモだ。しかもあんたの見た目はあいつの好みにどストライクだからな。あいつに開発されて性癖ゆがめられた人間は何人もいるんだ。ケツでなきゃイケなくなったやつもいる。さらに厄介なのがそれなりに金も権力も持ってるってことろさ。あんたみたいな組織の下っ端は金であいつ専用のおもちゃとして売られる可能性だってある。実際あいつの部屋の地下ではあんたほどの体型と年齢の男たちが何人も鎖でつながれてて、夜な夜な断末魔のような叫び声が聞こえてくるそうだ。そういやこの前16人目が壊れたって言ってたっけ? おっと、余計な話だったかもな。当人たちはそれで幸せなのかもしれねえし。とにかく呼んできてもらえるなら助かるよ」


「……………………申し訳ありません。やはり私の一存では判断できそうにありません。この先にも招待状を確認する場所がありますので、そちらの方で事情をもう一度説明していただけますか?」


「なんだ、通っていいのか? まあどっちにせよ助かるよ。あなたのケツに祝福があらんことを」


 そう言って笑顔で男に手を振り、アーカイドと共に男の脇を通り過ぎる。

 男はひどく複雑そうな笑みを浮かべていた。



 しばらく歩くと、アーカイドが話しかけてくる。


「もしかして招待状を持っていないのか?」


 ご名答。


「あんな怯え方をした人間は初めて見たぞ。まさかこの先も口先だけで乗り切るつもりじゃないだろうな?」


「さすがに無理ですよ。あれは下っ端の下っ端だったからこそ勢いだけで丸め込めたんです」


「じゃあこの先はどうするんだ?」


「安心してください。俺はどんな魔法よりも役に立つ()を持っていますから」


 アーカイドは役に立つ力というものにピンとこないようで、わかりやすく疑問符を浮かべている。


 そんな話をしているうちに、また招待状を提示する場所へとたどり着く。

 今度は先ほどのように一人だけでなく、多くの人間が受付を行っており、俺たち以外の参加者の姿もちらほらと見受けられる。


「どうするんだ? ここでは先ほどのような方法は使えそうにない」


「まあ見ててください」


 そう言って俺は空いている受付に足を進める。


「悪いんだけどここを担当している責任者呼んでもらえる? かなり重要な話があるんだ」


「どのようなご用件でしょうか? 私が責任者にお伝えします」


「おいおいあんた、俺はかなり重要な話(・・・・・・・)って言ったはずだぜ。今俺は死ぬほど焦ってんだ。一分一秒を争うほどにな。この話がうまくいかなけりゃそれこそ億の損失が出ることだってあり得る。そん時はあんたが損失を補填してくれるのか?」


「わ、わかりました……今すぐお呼びいたします」


 受付は慌てた様子でその場を離れていく。

 

 やっぱり強引な手を使ったじゃないか――とでも言いたげな顔をアーカイドが浮かべている。

 まあ見てなさいって。





「どうも、私がこの受付の責任者です。どういったご用件でしょう?」


 見た目30代ほどの男が俺の前へと現れ、責任者を名乗る。


「ああ、あんたが責任者? 実は招待状を忘れちゃって――」


「招待状がなければ参加はできません。規則ですので」


 俺の言葉を最後まで聞こうとせず、責任者を名乗る男はぶっきらぼうに答え、その場を離れようとする。


「あっ! ちょっと待って待って! 代わりにこいつ(・・・)を持ってきたんだ。招待状の代わりにならないか?」


 そう言いながら、俺は札束(・・)を責任者の男の手に握らせる。


「……バカにしないでもらおうか? こんなもんで買収できるとでも?」


 責任者の男は不機嫌そうな顔を浮かべ、鋭い視線を俺に向ける。


「おっと、間違えた。招待状の代わりはこっちだった」


 俺は先ほどの倍の高さがある札束を、責任者の男のポケットにねじ込む。


「…………入場料は?」


「ああ、そいつはうっかりしてた!」


 俺はさらに倍の高さがある札束を、責任者の男の服の内側に突っ込む。

 

 その瞬間、責任者の男に笑顔が浮かんだ。


「あなたが良き品とめぐりまえますように」


「ありがとう。ついでといっちゃなんだが、この先でも招待状を快く(・・)受け取ってくれるやつがいたら教えて欲しいんだ」


「お安い御用です――」




 こうして俺は責任者の男といくつか言葉を交わし、握手をして別れてアーカイドの元へ戻る。


「なあトーヤ、今のはワイロのように見えたんだが」


「むしろワイロ以外に見えました?」


「…………」


 納得がいかないという表情を浮かべるアーカイドだが、これがもっともスムーズに物事を進める方法だから諦めて欲しい。

 お金はどんな魔法よりも強力な力だ。特にこういう場所では。


 


 こうして俺とアーカイドは、いくつかある受付を喜んで通してもらい、ついにオークションが開催される会場に足を踏み入れる。



 しかし予想以上に金額がかかってしまった。

 アーカイドに頼んだら経費で落としてもらえないかな。



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