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偽りの英雄  作者: 考える人
第五章 学園の麒麟児
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こぼれ話編 初めてのお買い物 ①




 出来心だったんだ。






 


 いきなりだが、この国の第一王子であり、同じ学園に通うアーカイド・ガイアスは俺の部下であるツエルに惚れている。

 学園でもツエルに近づくため、なにかと理由を付けて俺に会いに来る。

 俺に近づけば、俺の護衛兼使用人であるツエルに近づける――要するに俺はだしに使われているわけだ。

 正直言って鬱陶しいし、王子でなければサブミッションかけてた。


 思えばそんな不満が溜まっていたのかもしれない。





 ある日、ツエル宛にヘルト家を通して――というより、俺を通してアーカイドから手紙が送られてきた。

 内容を要約すると『フタツ山では助けてもらい感謝する。お礼の品を何か送らせてほしい』とのこと。

 好きな女へのプレゼントに大義名分を付けるなんて奥手な奴だ――などという感想を抱きながらツエルにその手紙を渡す。


「ほれ、王子からの手紙だ」


 そう言って俺が手紙を差し出すと、きょとんとした顔を浮かべるツエル。


「わざわざトーヤ様が直接持参せずとも、使用人のどなたかに任せれば…………あの、この手紙、封が開いてるんですが…………」


 俺が先に読んだからな。


「……トーヤ様になら私は全然かまいませんけど、いいんですか? 王子からの手紙を勝手に読んだりして…………」


 安心しろ。俺が読んだことを知っているのはツエル――お前だけだ。


「っ! …………なるほど、つまり私とトーヤ様は共犯ということですね。わかりました! この秘密は墓場まで持って行くと誓います!」


 なんでちょっと嬉しそうなんだよ。




 ツエルは手紙を読んでしばらくすると、わかりやすく困ったような表情を浮かべる。


「どうした? なんでも好きなもん頼めばいいじゃねえか。王子なんだから大抵のものはくれると思うぞ」


「そんな、できませんよ。王子相手にものを要求するなど」


 真面目な奴。


「じゃあまあ俺が適当に返事しといてやるよ。建前とはいえ俺宛に届いた手紙だし」


「申し訳ありません。お気持ちには感謝しているとお伝えください」


 







 といった出来事があり、俺が返事を一任したわけだが、そこで俺は考えた。

 

 どうせなら無理難題吹っ掛けてやろうと。


 いや、反省はしている。わりとマジで。

 不満がたまってたこととか、もしかしたら本気で用意するんじゃないかとか、どうせほぼ脈なしだしいいだろとか。

 ほんとに軽い気持ちだったんだ。


 軽い気持ちで『国宝級の剣が欲しい』――そう書いてしまった。


 その結果――
















「というわけで、ツエルが国宝クラスの剣を欲しているんだが、どうすればよいだろうか? トーヤ」


 めんどくさいことになった。


「もちろんいくつか心当たりはあるが、どれも国が管理し所有するものだ。私一人の一存で渡せるはずもない」


 なんでこんなことになったんだっけなぁ。そっかぁ、俺のせいかぁ。


「私だけではこれといったものが思い浮かばなくてな。何かいい案はないかと君を頼ってきた次第だ」


 自業自得ってこういうことを言うんだろうなぁ。


「聞いているのか? トーヤ」


「ええ、ええ、聞いてますよ。本命の女へのプレゼントは気合を入れたいですもんね」


「…………別にそういうつもりはない。ただ命を救われたも同然なんだ。そのお礼としてだな――」


 人んち突撃までしといてまだしらを切るのか。


 俺は内心ため息をつきながら部屋の中を見渡す。

 王子の背後、そして部屋の入り口に窓の傍、全てに護衛の兵士が佇む仰々しさ。

 窓の外を見ても、同じように何人もの兵士が目に入る。


 今朝、俺は起きると同時に正装に着替えさせられ、わけもわからず来客用の部屋に連れて行かれると目の前にはアーカイド。

 何事かと思ったよ。


 おそらく例のごとく、俺以外の屋敷の人間は王子の訪問を知っていたのだろう。

 あいつら味を占めやがって、今に見てろ。


「話が逸れたな。とにかく何かいい案はないだろうか?」


 いい案ねぇ…………まあないことはないけど。


「国宝クラスは現実的でないとしても、重要文化財クラスなら……」


「手に入れる心当たりありますよ。国宝クラス――ではなく、正真正銘国宝認定された剣を」


 俺のその言葉にアーカイドは目を丸くして驚く。


「本当か? しかし今現在、国が宝剣として認定している剣はたった三振りだけだ。二つは国の宝物殿に、一つはヴァント家が管理している。私達では自由に扱えない」


「まあその三振りならそうでしょうね。けど私が言っているのはその三振りのことじゃありません」


 久しぶりに『私』って一人称使ったけど、なんかすごいむず痒いな。


「どういうことだ? まさか新しく国宝クラスの剣の製造を依頼する気か?」


「いえ、違います」


 鍛冶師の知り合いは8人いるけど、国宝クラスの剣を作れるのは1人だけ。

 それも偏屈な気まぐれジジイだから、どうせ頼み込んでも作ってもらえない。


「国が管理しているから扱えないのなら、国が把握していない(・・・・・・・)剣を手に入れればいいんですよ」


「…………どういうことだ?」


「物が手に入れば納得するはずです。宝剣はこちらでなんとか入手しますんで、それをツエルにお渡しください」


 とりあえず話はこれで終わりだ――そう思った俺だったが、アーカイドがそれに待ったをかける。


「すまない。どうやって手にするのか皆目見当もつかないが、私がツエルに渡すものなんだ。君に全てを任せるのではなく、私も協力したい」




 …………くっそ。


 正直そう言われるような気はした。

 さらにめんどくさいことになるから絶対嫌だったけど。


 アーカイドは決意を固めた眼で俺を見据える。

 こりゃ説得は無理そうだ。


「……わかりました。では後日、追って連絡をします。今すぐどうにかなる問題でもないので」


 その言葉にアーカイドも納得し、その日はそれで帰ってもらった。














 


 二週間後――王都のとある広場にて




「それで、今日はどこへ行くんだ? 今から行く場所に目当ての剣があるのか?」


「…………」


 協力したいという王子の意志をくみ取り、俺は剣を手に入れるために今日動くとあらかじめ伝えておいた。


 てっきり、使いの人間が送られてくると思ってたんだけど、本人きちゃったよ。

 俺と同様に髪の色を変え、服装も一般的な庶民に合わせたものを身に着け、さらにフードを深くかぶるという徹底ぶり。


「……護衛とかはどうされたんですか?」


「数人だけ隠れてついてきてもらっている。姉上にも協力してもらった」


 どうやらかなり入念に準備してきたらしい。

 そこまでして自分で手に入れたかったのか……


「なあトーヤ。そろそろどこに向かうのか、教えてくれてもいいんじゃないのか?」


 これからの予定をずっとぼかし続けてきた俺だったが、さすがにアーカイドも忍耐の限界に達したらしい。

 俺だって何の理由もなく黙っていたわけではない。

 

 俺が今からとろうとしている方法は、あまり褒められた行為じゃないからだ。

 違法かどうかと問われれば、間違いなく違法と言えるくらいには違法な手段を俺はとろうとしている。


 まあここまで来てしまえば言ってしまってもいいだろう。


「私たちがこれから向かうのは、とある会場です。そこではある催しが行われています。俺たちもそれに参加するんです」


「……?」


 アーカイドはまったくピンときていないらしい。

 むしろ王子が今の言葉だけで察する方がおかしいけど。


「ヤバいやつらが、ヤバい所で、ヤバい金を使って運営する催しです。この王都の地下深くにおいて、裏社会最大規模で執り行われるそれは、贋作、盗品、横流し品なんでもござれの――





 違法オークションです」



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