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偽りの英雄  作者: 考える人
第一章 学園の問題児
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さぼり



  Sクラス

 通常のクラスとは違い、魔法の才能はありながらも、精神的に未熟だったり異常だと判断された者が配属されるクラス。

 一学年で千人近い生徒がいるが、このクラスに配属される生徒は毎年20人にも満たない。

 であるにも関わらず、校内で問題が起こればその原因の大抵はSクラスであり、担当した教師が1年間ほぼもたない最低のクラス――



 


 ――これがSクラスに対する世間の評判だ。


 おかしい、なぜこうなった?

 面接では、これぞ優等生といえるような模範的な回答をしたはずだ。


 Q.あなたがこの世界に対して一番感謝することは何ですか?

 A.むしろ俺という存在が生まれてきてやったことに世界が感謝するべき。


 いや、ちょっとふざけたかもしれない。

 だってほら、質問の時点でちょっとふざけてるじゃん

 なんだよ世界に感謝って、なんかの宗教か。


 とはいえ親父も金を出してるし、こんなことになるはずは……


 ちなみにツエルもSクラスだった。

 護衛がしっかりと同じクラスに振り分けられていることを考慮すると、やはり親父の息はかかっているらしい。

 ツエルがSクラスに配属されるような性格だというのは考えにくいし、というか考えたくないし。

 俺がツエルのほうを向くと、ツエルはきょとんとした表情を浮かべる。

 自身がSクラスであることに疑問を感じている様子はない。


 しょうがない、その辺のことはまたセーヤにでも聞いてみるか。




「これから入学式を行います! 新入生の皆様はお集まりください!」


 少し離れた場所で教員が呼びかけを行い、多くの新入生がその場所に集まりはじめている。


「我々も向かいましょう、トーヤ様」


「あー、俺はいいや」


「え? 行かれないんですか?」


「そういうめんどくさいのは出たくない」


 俺は式への参加をパスする。

 どうせ親父や兄の説教以上に、意味のない話を延々と聞かされるだけだ。

 めんどくさいというのは本当だし、今は少し確かめたいことがある。


「まあでも一応大切な話とかがあったらあれだから、ツエルは式に出といてくれ」


 自分はすっぽかすと宣言しながら、従者であるツエルには式に出るように強制する。

 自分でもなかなかクズ発言だとは思うがしょうがない、確かめたいことがあるから。

 そう、確かめたいことがあるからであってこれは決して本心とかではなく――


「トーヤ様はこれからどうなさるんですか?」


「俺はその辺ぶらぶらしてるわ。式が終わる時間になったらまたここ戻ってくる」


「わかりました。ではまた式が終わった後に、この場所で落ち合うということでよろしいですか?」


「いいよ、それで」


「ではお気をつけて」


 そう言ってツエルは式に参加する人達の集団に向かっていった。


 さて、俺のほうもぼちぼち動くか。













 しばらく学園内をあてもなく歩いていた俺だが、一つわかったことがある。


 

 誰かにつけられている。


 小さいころから脱走常習犯であり、監視をつけられまくっていた俺にはわかる。

 数は二人、明らかに俺の後をつけてきている。

 

 この二人は間違いなくヘルト家に関わっている人間だろう。

 ずっとおかしいとは思っていた。ツエルの聞き分けが良すぎることに。

 朝、マヤからきつい洗礼を受けたにもかかわらず、命令すれば簡単に傍を離れる。

 明らかにおかしい。なぜなのか?


 答えは簡単だ。

 ツエルのほかにも、護衛のような役目をもったやつがいる。

 ツエルが俺から目を離している場合は、他の者が常に監視しているため、ツエルは簡単に俺の傍から離れたわけだ。



 さて、確信が持てたところで――――逃げるか。


 監視されながら行動するのは、俺がこの世で嫌いなことトップ10に入る。ちなみにランキングは都合よく変動する。

 昔は付添人や監視をまくたびに説教をくらっていたし、マヤとの鬼ごっこは毎日のノルマだったが、今や諦められてしまったぐらいだ。


 そのため、いざというときの手段も渡されている。

 ケルトの時は使う時間も余裕もなかったからしょうがない、うん。






ーーーーーー






「まかれた……」


「まかれたな」


「『まかれたな』じゃないわよ! どーすんのよ!? またトレイドさんに怒られる……」


 人目につかない建物の陰――――そこに学園の制服を着た一組の男女。

 トーヤと同年代の少年少女であり、少年の方は印象に残りにくい顔立ちで、物静かな雰囲気がそのたたずまいから感じられる。

 一方で少女の方は、派手さこそないものの最新の流行をおさえたメイクを施しており、その見た目からもほがらかな印象を相手に与える。

 そんな見た目だけだと正反対の二人だが、この二人こそが、先ほどトーヤを尾行していたヘルト関係者の正体だった。

 現在、護衛(監視)対象にまかれてしまい、どうすべきかを話し合っている最中である。あるいは途方に暮れているともいう。


「油断したつもりなんてなかったのに……」


「とりあえず手分けして探していこう。俺は西門のほうへ向かう。インは東門のほうを頼む」


「はいはい」


 そういってインと呼ばれた少女は、気が乗らないという態度を隠すことなく、渋々と動き出す。


「訓練を受けてる私たち『影』の尾行を簡単にまいておいて、どこが落ちこぼれだっていうのよもう……」


「俺たちの実力不足と言われればそれまでだが、護衛のやり方を見直すよう提案した方がいいかもな」


 愚痴と懸念をこぼしながら、二人はその場を後にする。

 そうしてまた、場は静寂を取り戻した。




ーーーーーー



 


 しっかし、ほんと広いなこの学園。


 監視をまき、しばらく学園内を自由気ままに見て回っていたが、いつの間にかツエルとの待ち合わせの時間がせまっていた。

 にもかかわらず、学園の10分の1もまわれた気がしないほど、学園が有する敷地面積は広大で、施設は多種多様。

 学園内すべてを見て回るには1ヶ月近くかかるかもしれない。

 

「しかたない。今日はあれ(・・)に行って最後にするか」


 俺は見上げるようにして、学園内でも一際目立つ建物に目を向ける。

 その建物は、学園内のどの施設よりも高くそびえたっていた。


 建物の構造を見る限り、何かの研究をするような施設には見えない。

 入り口を見ると、許可のある者以外は立ち入り禁止と書かれているが、『気になるところは全て行く』を旗印に生きているため、これはもう本当に心苦しいが行かざるを得ない。


 マグネシウムよりも重い罪悪感を抱えて建物へと歩き出そうとしたその時、つい最近聞いた声が背後から耳に届いた。


「入学早々いきなりさぼりですか?」


 声のした方を振り返ると、そこにはリリー改め、兄の婚約者である第三王女リリアーナ姫が、満面の笑みでこちらを見つめていた。


「これはこれは姫様」


 そういって俺はリリーに向かって片膝をつく。

 この行為が気に入らなかったのか、リリーは不機嫌そうな表情を浮かべた。


「二人っきりの時にそういうのはいりませんよ。それに呼び方もリリーでいいですし、敬語も必要ありません。私たちの関係は、あの祭りの日から始まったんですから」


「そう? じゃあ遠慮なく」


 お言葉に甘え、俺は膝の汚れをはらいながら立ち上がる。


「おお、私が今まで見たきた中でも最速の切り替えですね。普通は『え? ほんとにいいの?』みたいな感じで戸惑うんですけど」


「まじでか、世の中みんな(つつ)ましいな」


 やったぜ言質とったヒャッホウこれで敬語使わなくて済むぜ――――くらいにしか思わんかった。


「リリーもその敬語やめたらどうだ?」


「私はいいんですよ。誰にでも敬語ですから」


 へえ、なんか上品ぶってんな。いや、家柄的に言えば最上品なんだけどさ。


「話を戻しますけど、さっそくさぼりですか?」


「まあな、そういうリリーこそいいのか? 生徒会長のくせにこんなとこいて」


「だめですね」


 おい。


 リリーはまったく悪びれることなく、笑いながら言葉を続ける。


「今頃シーナなんて大慌てだと思いますよ」


 ひでえ王女様だなほんと。

 そんな王女の従者であるシーナはさぞ苦労しているに違いない。

 俺の場合は、むしろマヤに振りまわされている感がすごいけど。


「そういえば、朝一でさっそく弟に喧嘩を売ったらしいじゃないですか。入学初日からもう上級生の間で話題になってますよ」


 …………何の話だ?

 弟ってことは今年入学するとかいってた第一王子のことだよな?

 

 


 ――おっと、今頭の中で最悪のシナリオが組み立てられてしまったぞ。

 いや、まだ別の可能性もある……慌てるな、俺。


「それって掲示板の前でのことか?」


「ええ、そのことです」


 はい、詰んだ。

 もう間違いない、朝俺が喧嘩売った相手は第一王子のアーカイドとかいうやつだ。

 

「まじで? あれ王子だったの?」


「やっぱり気づいてなかったんですね」


「気づいてたらあそこまで煽ったりしねえよ」


 さすがにそこまで俺もバカじゃない。

 いや、実際やってしまってる時点でもうバカか。

 うん、もういいやバカで。


「今わかったというわりには、あまり慌ててませんね」


 相手が王族だと知らずに不敬なことしたのはこれで二回目だからな。

 ぜってー言わねえけど……それよりもだ。


「あの王子様、なんであんな自尊心を塗りたくったような性格なんだ? 王家の教育を受けるとあんなふうに育つもんなのか?」


 そう尋ねると、リリーは少し困ったような表情を浮かべた。


「まあ確かに自尊心は強いですけど、あれでも前よりは大分ましになったんですよ」


 あれで?


 ナチュラルに人のことをゴミを見る目で見てたけど。あれよりひどいこととかある?


「たった一人の次期王候補というのに加え、それに恥じない才能と実力がありましたから。炎の精霊にも見初(みそ)められて、少し天狗になっていたというのは否めません」


 なるほど、親の七光りってだけじゃないわけね。

 俺とは違うって? うるせえよ。


「で、それがどうやってましになったんだ?」


「ちょっと前に、とある人物が城を訪れたんです」


「とある人物?」


「セーヤ様です」


 あーうん、なんとなく理解できたわ。


「なるほど、それでぼっこぼこにやられたと」


「そういうことですね。模擬戦を頼んだのは弟のほうからだったらしいんですけど、見事に返り討ちにされたということです。それはもう完膚なきまでに」


 王子をかばうわけじゃないが、セーヤと比べるのは酷というもんだ。

 セーヤは名実ともにこの国で最強の魔法使いであり、なんなら大陸最強との呼び声も高い。


「トーヤも気を付けたほうがいいですよ。セーヤ様の件より以前からあの子、英雄家のことを嫌っていますから」


「は? なんで?」


「王家の歴史については知っていますよね?」


「そりゃまあ当然知ってるけど……」


  ガイアス王家

 約千年前、精霊王と契約を結びこの国を建国した一族。

 とても長い歴史を持ち、その子孫は精霊の加護を得る。


 まあ大まかにいえばこんなところか。

 とは言っても、千年も前のことで文献もほぼ残ってないし、どこまで本当かはわかんねえけど。


「突然ですけど、子供たち10人に『この国で憧れの人は誰?』――――と聞いたら、なんて答えると思いますか?」


 そんなもん、答えは決まってる。


「10人中10人が『英雄家の人間』って答えるだろ」


「その通りです」


「……おいおい、まさかそれが気に入らないからってわけじゃないよな?」


「そのまさかですよ」


 リリーは困ったように笑いながら続ける。


「王家よりもその下の貴族家が人々の憧れ。その事実がどうにも受け入れられないみたいで」


 なるほど、自尊心を塗りたくったわけじゃなく、もともと自尊心の塊だったってわけか。

 めんどくさいな。俺のことを英雄家の人間だと知ったら、間違いなくつっかかってくるぞあの王子……




 先行きが暗くなってきた学園生活を憂いていると、少し遠くからリリーを呼ぶ声が届いた。


「姫様ー!! どこですか姫様!?」


 この声は聞き覚えがある。

 不幸な手違いで激辛まんじゅうを食べたリリーの従者の声だ。


「あら、もう迎えがきちゃったみたいですね」


 慌てる従者の声とは裏腹に、リリーは残念そうに笑うだけで、まったく慌てるそぶりを見せない。

 普段から従者を振り回している姿が目に浮かぶ。


「では最後に、セーヤ様から聞いたんですけど、魔力がまったくないんですよね?」


 ……え? 言っていいのそれ?


 あ、でもいずれは姉弟になるからいいのか?

 というか、ばらしたらばらしたでちゃんと伝えといてもらいたいんだが。


「私だけトーヤの秘密を知っているというのもフェアじゃないんで、私も秘密を一つ教えますね」


 秘密っていうほど秘密でもないんだけど。外部に漏れるくらいだし。

 まあ教えてもらえるのなら教えてもらおう、なんだ?自分の精霊とかか?


「家族やセーヤ様にも言ったことないんですけど…………私、男だけじゃなくて女も、恋愛対象かつ性欲対象なんです」


 じゃあそれでは――そう言って従者の声のした方へとリリーは去って行った。



 へー……、へー…………

 まあ異性に飽きて同性に手を出すようになる貴族ってわりといたりするし……



 ……………………え?


  


変化球のキレが思いのほか鋭く、トーヤは完全に取り損ないました。


ちらっと出てきた精霊とかの説明はまたいずれ。

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