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偽りの英雄  作者: 考える人
第五章 学園の麒麟児
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こぼれ話編 これが彼らの日常 ①

トーヤ達が出てこなかった時期に、トーヤ中心の話を書きたくて書いた話。

時系列的には第四章の81話と82話の間あたりです。

前話との温度差が激しいかも。


久しぶりのトーヤ視点


「助けてください!」


 最近一部の人間のたまり場と化している王都の俺の家。

 ヘルト家の所有物件ではなく、トーヤ・ヘルト名義の物件。

 長らく放置していたが、ラシェルをかくまっていることや、とある目的のために拠点として最近よく使用している。


 普段はフーバーに管理を任せていて、俺自身そこに住んでいるわけでもないため、たまり場になっているのはまだいい。

 ただ――


「助けてくださいトーヤ!!」


バカ(リリー)がちょくちょく問題を持ち込んでくるんだよなあ。

 しかも大概くだらない内容ばかり。

 弟の態度が最近変だとか、ツエルとデートしたいだとか、ツエルへのプレゼントを何にすればいいだとか。

 

 そのお前の弟から、ツエルへの恋愛相談を受けてること暴露してやろうか。


 あれ? 俺いつの間に王族御用達の相談相手になったんですかね?


 とにかく、アホの話なぞ聞いてても疲れるだけだ。

 もちろん聞いてやる気などない。


「腹減ったな。イン、なんか飯買ってきてくれ。お前の手作りでもいいから」


 先ほどから、我関せずで椅子に座りながらナイフを磨いているインに、昼飯の調達を求める。


「えー、特別給でます?」


「まったく、口を開けばお金お金と。お前には主人に奉仕しようという心が――」


「助けてください!!!」


 うるせえなこいつ。


「いいかリリー、人に助けを乞うときっていうのはな、それなり(・・・・)の態度で示すもんだ。額を地面にめり込ませてから出直せ」


 そう、あろうことかこの女、助けを乞うのは口だけ。

 体は腕を組みながら仁王立ち、頭は1ミリたりとも下がっていない。

 なんならソファーで寝転がっている俺を見下してきやがる。

 人の上に立つやつってのは常識が足りなくてやだやだ。


「そうですよね……助けを乞う、確かに……これはおかしい」


 まったく、やっと考えを改めたか。

 まあ仮にも王女だ。

 土下座を最低限として、それなりの誠意を見せるのならば、俺とて考えてやらんこともない。


「そうですよ! 王族であるこの私が、そもそも助けを乞うというのがおかしかったんです!! さあ下々のものよ、私のために働きなさい!」


「はい、かいさーん」


「あ、ちょっ!待ってください!! 嘘!嘘ですから!!――」
















「事の発端は昨日、とある施設宛に手紙を書いていたんです。王族の公務の一つなんですけど、よく覚えていませんが堅苦しい文章を書いた気がします」


 ちゃんと覚えとけや。


「で、その手紙を送った後、気づいてしまったんです。送る手紙を――間違えていたことに」


 んなたいしたことじゃねえだろ。

 

『え!? 王族のくせに送る手紙間違えるとか、そんな凡ミスするんですね!!』というように評価は下がるかもしれんが、妥当な評価をされてよかったじゃねえか。


「この間違って送ってしまった手紙というのが、今回の大きな問題点なんです」


「なんだ? まさか、甘い愛の言葉をこれでもかとつづった恋文、とかじゃないだろうな」


「うわ、それめちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃないですか」


 俺と一緒に話を聞いていたインは、俺の発言を茶化すように笑い、場を和ませる。

 しかし、リリーの表情はどこまでも真剣で――


「……そのまさかです」


 まじかこいつ。


「見られたらけっこうまずいことも書いちゃってるんですよね。主に性欲的なことで……ちなみに直筆の署名入りです」


 まじかこいつ。


「あと個人的な性癖についても――」


「もういいもういい。お前の下半身事情なんて聞きたくねえよ。で、わざわざその相談を俺にしに来たのはなぜだ?」


 そんな恥ずかしいことなら、自分の部下に任せて内々に揉み消してしまえばいい。


「……アルシアス教」


「は?」


「間違えた手紙の送り先が……アルシアス教本部なんです」


 ……なーるほど、つまり――


「自分の手は汚したくない、けど合法的にアルシアス教の本部に侵入して手紙を闇に葬りたい。なら聖女様の婚約者である俺を利用してやろうぜ☆ってわけか」


「正・解☆」


 ぶち殺すぞ。


「ぶち殺すぞ」


 あ、やべ。

 声に出てしまった。


「お願いします! 私をアルシアス教本部に連れていってください!!」


「やなこった」


「お金ならいくらでも払います!」


「できうる限りの協力をしましょう」


 お金という言葉にいち早く反応したインが、間髪入れず協力を申し出る。

 こいつ、ついさっきまで他人事のように聞いてやがったくせに。


「さすがイン!あなたなら助けてくれると信じていましたよ!!」


「いえ、お金――ではなく、王族の頼みとあらばこのイン、命を懸けてでもお金のため――リリアーナ様の秘密を守るため働きますとも」


「あなたのかわいい部下がこう言ってるんですよ! 主人ならそれに答えたらどうですか!?」


 別にかわいくねえし。


「それに、金なら余るほど持ってるからなあ」


「ぐっ……ならダヴィをいつでも好きな時に貸し出します。それならどうですか?」


 ダヴィをいつでもか……それなら確かに、取引としては悪くない。

 あれほど優秀な人材は、そう見つかるもんじゃないしな。


「わかった、ちゃんと約束は守れよ」


「はい!」


「というか、そのダヴィはどうしたんだ?」


 いつもならリリーのすぐそばで控えているはずのダヴィだが、今日は姿を見ていない。

 

「ダヴィなら外で待機させてます」


 この寒い時期に外で待たせるとか、人間じゃねえよお前。


「あの子……実はうぶなので、こういう話は聞かせられないんですよ。私の下着を見たくらいで、一ヶ月まともに顔を合わせられなかったほどですから」


「おいおい、いい年したやつがなにを……」


「ほんとですよ。もうすぐ16だというのに」


 へえ、思っていたより大分若いんだな。

 どっしりした見た目だから、てっきり20後半くらいかと。

 なんなら30代でも通用するだろ。

 もうすぐ16ってことは今15か……





 あいつ俺より年下なの!?



 






ーーーーーー









 さて、いくら婚約者とはいえ、アルシアス教本部へ行くとなるとそれなりに手続きが必要になる。

 勝手にお忍びで行ってもいいんだが、後がめんどくさいので正式に許可をとることにした。


「というわけで、教会に行ってくる」


「……」


 ヘルト家王都屋敷、兄であるセーヤの執務室。

 俺は婚約者に会いに行くという名目で、教会に行く許可をセーヤにもらいにきていた。

 もちろん、リリーの件は伏せている。


「……何が目的だ?」


 俺の言い分をまったく信じてくれていないようだ。

 疑いの目が痛い。


「ひでえよお兄ちゃん。俺はただ愛しの婚約者に会いたいだけだって」


「……宗教戦争を起こすようなマネはやめてくれよ」


 一体俺を何だと思ってるんだ。

 俺が神だ、とかいってカチコミに行くとでも思っているのだろうか?

 

「まあいい、許可しよう。教会には急ぎで連絡を送っておく」


 さっすがお兄ちゃん。

 なんだかんだ甘いところは大好きだぜ。


「建前とは言え、婚約者との仲を深めるのはいいことだ」


 もう建前前提で話を進めてやがるこいつ。


「カナンにもいい相手が見つかればいいんだが……」


 そういえば、カナンにはまだ婚約者がいなかったな。

 俺も遅かったとはいえ、魔力関係のことで慎重になっていただけだ。

 セーヤなんてもっと早くに決まっていたし。


「いい相手が見つからないのか?」


「どうもそうらしい。父上も何人か候補をあげたそうだが、カナン本人が気に入らないと却下したらしい」


 ふ~ん…………え、俺のときは拒否権なんてなかったんですけど?

 なんなら行方不明になってる真っ最中に決められたんですけど。

 あれ?なんでぇ?


 いや、婚約者に不満があるわけじゃないからいいんだけど。

 同じ子供でありながらこの扱いの差よ。


「普段の行いを鑑みればわかることだろう」


 わからないでもない。


「はっきりとわかってくれ」


「人が話す前に先取り(・・・)すんのやめろや」


「お前以外にはこんな失礼な対応はしないさ」


 おうおう、ケンカか?

 いや、やめとこ、勝てる気がしねえ。


「ほんじゃまあ、俺は婚約者に会いに行ってくるわ」


 そう言って扉を開こうとした俺に、セーヤから声がかけられる。


「次は13だ」


 短く、簡単に、ただ告げられただけの言葉。

 俺は特に返事をすることもなく部屋を出た。



ダヴィですが、学園にはリリーと同じ学年として入学しています。

年齢制限については権力を使ってねじ込みました。


あと一話この話が続きます。

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