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第六話 魔術大戦予選 1

「皆様、本日は魔法学校までお越しいただき誠にありがとうございます。本日は闘技場にて、魔術大戦の一枠を掛けて生徒の皆さんに競ってもらいます。ご存知の方が殆どだと思いますが、魔術大戦は生き残った最後のチームが願望機を手に入れるバトルロワイアルとなっております。誰が魔術大戦へ参加する切符を手に入れるのか? 最後までお楽しみください!」


 日差しが地面に強く照りつける快晴の中、今日は魔術大戦の予選が行われる日が訪れた。

 闘技場の会場席には人で埋め尽くされており、魔術大戦という名前の大きさを強く感じる様子が伺える。

 老若男女、世代を超えて大勢の人々がこの場に集結しており、その人数は目視で五万人以上は確実にいることが分かり、席は満席状態だった。


 観客席では、背中にドリンクが入っているバックを背負い、前にはおつまみやスナック菓子を前に掛けて販売しているスタッフを多く見かける。

 近くの売店にも大勢の人が立ち寄っていて、商業店を営む者からすれば、今日はかなりの稼ぎ時だろう。


 そんな中、リーベとヒロは闘技場の内部にある控え室で待機していた。

 控え室の中はお世辞にも綺麗とは言える状況ではなく、所々に見える汚れやホコリにペンで書いたと思われる落書き等、これが普通のホテル等ならクレームを出して賠償金が出るレベルだった。


 しかし、彼らは魔術使いである。

 魔法使いと違いあまり優遇はされない彼らは、こういった扱いも決して良いとは言えない事ばかりである。

 控え室の明かりは闘技場側からの魔法で点いており、壁に映し出されている映像では闘技場内の様子も見えていた。

 少なくとも、最低限のスペースと環境は確保されている。


「……しかし、ここの部屋は汚いな。さっきまで掃除していたとはいっても、まだまだ時間が足りないみたいだ。リーベは気にならないのかい?」


「まあ、気になるって言えば気になるけどよ。別にそんなに長くいるわけじゃねーんだ。多少は目を瞑るさ。お前も、余計な事考えてないで予選に集中しろ」


 ヒロの不満を述べた言葉にリーベは強い反応を示さず、そのまま目を瞑る。

 この闘技場の控え室に入ってから、リーベはずっとこんな感じだった。

 最初の掃除には、彼女も思うところがあったのか手伝ってくれたものの、掃除がある程度終わって瞬間、椅子に座ってひたすら目を瞑ったままだ。

 

 控え室に流れる冷たい空気に時折耐えきれなくなったヒロは、リーベに話しかけようと思ったものの、まるで精神統一をしているかのような状況をしている彼女に、ヒロから話しかける勇気はなかった。 


「──ヒロさん、一回戦の準備出来ました。入場口まで来てください」


 鉄のドア越しに女性スタッフの声が聞こえてくる。

 ヒロはその声に「はい」と相ずちをすると、座っていた椅子から立ち上がり、制服のブレザーについていたホコリを払う。


「よし、それじゃあ行ってくるよ」


「おう、楽しんでこいよ」


 瞑想が終わったのか、先程までの雰囲気とは打って変わり、リーベはこちらを見て微笑んでくる。

 その姿はまるで女神のようで、この笑顔の為なら何でも出来てしまうと錯覚してしまうほどだった。

 

 ドアを開ける直前、ヒロはふと思う。


 ──リーベのあんな笑顔、今まで一緒にいた時間の中でどれだけ見ただろうか?


 まるで、この日をずっと待っていたかの様な、そんな錯覚さえ感じてしまう。

 

 ──彼女の、願いは何だろう?


 それはヒロには想像が出来ず、頭の中の雑念を振り払い、後でリーベに聞けば良いと考え、控え室の扉を開いた。



ーーーー



「──さあ、魔術大戦に出場する一枠がここ闘技場で決まります! 一回戦は魔術使いにして最上位の成績を持つヒロと魔法使いのデボレです。大きな拍手でお迎えください!」


 実況者の暑苦しい声と選手の軽い紹介が行われた後、共に二人の選手が入場口から登場する。

 両者ともに魔法学校の制服姿で、規律を守る模範的な生徒の象徴のような姿を見せる。

 闘技場の中央まで入った後、それぞれ二人は互いに睨みつけながら戦闘態勢になる。


「……よく、ここまでこれたな。怖気づいて逃げ出したのかと思ったが。今回こそはあの時とは同じ轍は踏まない。魔法使いと魔術使いの徹底的な差というものを教えてくれる」


 デボラがこちらを煽りながらこちらに視線を向けていた。

 ヒロは彼の言葉に反応せず、そのまま彼の外見に注目している。

 その時、内側のポケットが少し分厚い様子がヒロの目に見えた。

 そのことを不審に思いながら、ヒロは相手を観察する。

 デボラとヒロが互いに睨み合う状態になっているのを見て、会場の雰囲気はどんどん盛り上がっていく。


「それでは試合を始めましょう。制限時間は五分、それまでに相手を降参、又は戦闘能力を失わせたものの勝利です」


 実況者がルールを改めて解説した後、会場の真ん中にカウントが表示される。

 カウントが十秒間で、カウントが終わればスタートだ。

 盛り上がっている観客達が数字をカウントしている声を耳から聞きながら、今回の相手に関する考察を始める。

 

 ──集中しろ。


 彼は以前、デボラと戦って勝利を収めたことがある。

 しかし、その勝利は奇跡的なものとも言われており、この場ではっきりと実力を見せるにはいい機会だった。

 無論、相手は魔法使いなので、同じ技は通用しない。

 

 ──一秒も無駄には出来ない。


 魔術使いにとって慢心や余裕は敗北を意味する事。

 魔術使いが魔法使いに勝つには、運と頭と機転の速さが求められる。

 それが出来ない魔術使いは、永遠に魔法使いに勝つことなど出来ない。


 ──全ての可能性を模索せよ。


 魔術使いにとって、可能性の全ては勝利の鍵だ。

 考えられる限り全ての勝算を考え、最適な行動を場に合わせて戦っていく。隙や迷いは許されない。


「──さあ、試合開始です!」


 カウントがゼロになった瞬間、会場から鼓膜が割れてしまいそうな歓声が聞こえてくるが、いちいち反応している余裕はない。


 ヒロは始めに、無属性魔法の【ソニック】を使用する。

 デボラの方角に向けて、右足を大きく踏み込んで地面を駆け抜けると同時に、剣を鞘から抜刀する。

 

 デボラはその動きを読んでいたのか、そのまま五、六発の光弾をヒロに向けて発射する。

 それぞれ赤や青などと、属性毎の色の光弾が全てヒロに高速で向かっている。

 光弾は当たると属性によるダメージを受けてしまい、非常に厄介な事になってしまうので、一撃も当たる事は許されない。

 もし初手から協力な魔法使い、又はヒロも対応できない攻撃の類なら、ここで敗北、もしくは死んでもおかしくない事だった。


 しかし、相手がデボラならその技量はヒロがよく分かっているし、一度奇跡とはいえ勝利している。

 ヒロは、目の前に迫ってくる一つの魔弾に向かって横に剣を振る。

 剣の軌道と魔弾がぶつかった瞬間、剣が弾き飛ばされるのではなく、魔弾の方に異変が起こる。


 魔弾はヒロに直撃するのではなく、その場で消滅してしまった。

 一つ消滅させた先に魔弾魔弾が更に二つ迫ってくる。

 今度も、先に迫ってくる水属性の魔弾から縦に剣を振って消滅させた後、その直後に来る土属性の魔弾も、ヒロの元へ到着する時間を予測していたかの様に、ぴったりのタイミングで剣を振りかぶる。


 「──同じ手が通用すると思ったか!」


 まるでデボラは予測していたかの様に、懐から短剣を抜刀する。

 特に飾っている様子のない短剣は、デボラの右手に持たれて、目の前で高速に迫ってくるヒロに構えるも、


「……何?」


 デボラの声が困惑に変わる。

 それは無理もない事である。

 

 目の前を黒光りの生き物の様に迫ってくるヒロが次にした事は、デボラの懐に迫り、右手に持っている短剣の破壊だった。

 武器破壊と呼ばれているこの行為だが、実は中々出来るようなものでもない。


 武器を破壊するには、その武器の弱点とも言える箇所を探す必要がある。

 その武器の弱点の所を叩けば、武器は一発で壊れてしまうが、戦闘中にそんな所を探す余裕はない。


 ──上手くいった。


 ヒロはホッとした思いを抱き、短剣を壊されて倒れ込んだデボラの首筋に剣を突きつける。

 目の前に腰を抜かして座り込んでいるデボラは、未だに何が起こっているのかが理解出来ていない。 

 しかし、その普通は出来ない行為を魔術使いのヒロがやってしまったのである。

 

「……詰めが甘いな」


 ヒロが呟くと、デボラが鬼の様な形相をしながら睨みつける。

 会場内は先程まで盛り上がっていた雰囲気とは打って変わり、辺りは静まり返ってしまう。

 何が起こっているのかが理解出来ない様子だった。


「……しょ、勝者は、ヒロ選手。二回戦、出場です」


 実況者も突然の事に驚きながらも、勝利者のアナウンスをする。

 そのアナウンスに会場内からは、まばらな拍手や困惑した声が聞こえてきた。


 こうして、波乱の魔術大戦予選が開幕したのである。



 

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