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第四話 化学の終わり 魔法の始まり 4

「おやおや、こんな所でお二人とも不純性行為ですか? 感心しませんねぇ、男女が誰もいないところで二人っきり。何をしているんです?」


 わざとらしい喋り方と共に、インテリ風で伊達のメガネの真ん中を右の中指で上げながら、にやけた笑いを崩さない男の魔法使いが一人立っている。

 その隣に、ピンクでツインテールの髪型をして立っている女の子はよく見るけど、周りの取り巻きはやっぱり顔が違う。


 どれだけ人望があるのかは知らないが、こうして取り巻きが付いてきているのだから、ある程度のカリスマ性をこの二人は持っているのだろう。


「あらあら、リーベさん何処へ行くの? まさか、私達が来て都合が悪くなったからって逃げるなんてしませんよね?」


「……はあ?」


 まずい、これは非常にまずい流れだ。


 幼馴染として、リーベとは長い間同じ時を過ごしてきたからか、彼女の良いところも知っているし、逆に悪いところもよく知っている。


 今回は、悪いところが出てきてしまったらしい。

 彼女のダメなところとして、煽りに弱いところと沸点が低いところだ。

 ある程度心を許している相手なら、まだ会話が成立するらしいけど、嫌いな相手や他人にはすぐに起こってしまうらしい。


 本人も後から反省してはいるのだが、自分の感情を上手くコントロールする事は、意外にも大変なので、リーベの永遠の課題として残り続ける事だろう。

 そして、そんなリーベの悪い癖が今現れていた。


「てめえ、さっきから黙って聞いていれば何様のつもりだよ? こっちはてめえらが何もしなければ手は出さねえのにな。そっちがそんな態度だからこっちも動いているんじゃねえか。おめえら、覚悟……出来てるんだろうな?」


「……あらあら、怖い豚さんですこと。ああいう女性にだけは、同性としてなりたくはありませんね。良いお手本を示してくれて、本当にありがとうございます」


 隣にいるリーベと、目の前にいる女の子との間の視線がぶつかり、火花が散る睨み合いが始まっている。

 両者互いに一歩も引かない様子で、改めて女の怖さを実感する瞬間だった。


「……さて、我々の要件を話そう。我々だって暇人じゃないんだ。わざわざこんな遠くまで足を運んだ我等に、感謝の言葉でも欲しいぐらいだが、まあいいだろう。要件はただ一つだ、魔術大戦の予選を辞退しろ。これだけだ」


 最初の煽り以降、無言を貫いてきた男が話しを始める。

 魔術大戦に参加しない事は俺は別に構わない。

 元々、そんなに参加意欲があったわけでもないイベントだし、きっと僕以上に願望機の存在を望む人もいるだろう。

 しかし、それはあくまで魔術大戦よりも優先するべき事が出来た場合のみ許される事だ。

 少なくとも、逃げる事だけはしたくない。


「何で辞退しなければいけないのかな? 俺にはどうもそこが結びつかなくて、理由を教えてくれると助かるんだけど」


「あらあら、そんなこと決まってますわよ。あなた達が、魔術使いだからですわ。魔術大戦という神聖な儀式に、あなた達の様な不純物を放り込むわけにはいきません。それに、私達はあなた達の身も案じているのです。だって、魔術使いでしょう? きっとすぐに死んでしまうわ!」


 いつになくテンションが高い彼女は、意地悪な女の人がよくする高笑いをしている。

 なるほど、つまり彼等は我々が邪魔で仕方ないのだ。

 こんな真似をする彼等だが、成績だけは良い。

 そこから考察出来る答えは一つしかない。

 

 彼等は、我々が予選に参加すると、自分達が負けると考えているのだろう。

 あくまで予想なので、答えは若干違うのかもしれないが、少なくとも先程の発言である程度の確信は得ている。

 それに、彼等とは一度戦って勝利をしている経験もある。敗北はしないだろう。


「忠告感謝するよ。だけど、俺達は止まるつもりはないんだ。二人が、実力で止めてくれると非常にありがたい。頼むよ、デボレ、マーレ」


 俺が彼等の名前を出した瞬間、二人の顔つきが大きく変貌する。

 辺りは緊張感に包まれて、異質な雰囲気を示している。

 二人の名前を出すのは、あまり良い選択とは言えなかったのかもしれない。


「……なるほど。つまり、君達は予選で殺されても文句は言えないという事だね? そう、理解をさせてもらうよ」


「あんた達も馬鹿ね。せっかく私達がチャンスを作ってあげたのに、そのチャンス断るどころか、魔術使いの癖に私達の名前を呼ぶなんて。生きて帰れないと思いなさい」


 男の方──デボレは態度には見せていないが、かなり機嫌が悪いようだった。

 言葉自体は普通だけど、その言い方からは棘を感じるし、恐らく予選の時も本気で殺しにくるほどだろう。


 女の方──マーレは感情が分かりやすい。

 完全に怒りに身を任せており、デボレとは違い冷静さに欠けているように見えた。

 案外、マーレは簡単に突破出来るかもしれない。


「……へっ、なんだお前ら。案外腰抜けだったんだな。俺が一人の時は大きな態度のくせに、こいつがいる時は案外しおらしいじゃねーか。お前ら、本当に弱いな」


「……今の言葉、我々への宣戦布告と受け取るぞ。今回の予選、心して来るといい。魔法使いに喧嘩を仕掛けたことを後悔させてくれる」


 簡単に突破出来るかもとか言ったけど前言撤回、リーベが彼等を本気にさせてしまったらしく、彼等は珍しく、こちらに本気をだしてくるようだった。


 リーベの男勝りの態度は嫌いではないけれど、こういう時は困りものである。

 リーベも、自分の失態に気がついたのか、こちらの方をチラッと見て頭を下げる。

 ここまで来たのなら、行くところまで行くしかない。


「……そう捉えてくれて構わないよ。俺達は予選での戦いで必ず勝つ。そして、願望機を手に入れる。よく、覚えておいてくれ」


 すると彼等の様子がまたしても変化した。

 先程まで怒りの形相を見せていた彼等だが、先程の俺の言葉以降、彼等の取り巻きが目を大きく開いた後、徐々ににやにやと笑い始める。


「……こ、こいつら頭逝ってるわ! デボレ、こいつら馬鹿よ。魔法使いと魔術使いの根本的な差を何も理解していないわ」


 マーレがこちらに指を指し、耐えきれなくなったかのように笑い転げる。

 隣にいたデボレも笑みを隠してきれておらず、どうやら俺は余程アホな事を言ってしまったらしい。

 こちらの空気が悪くなる中で、魔法使い御一行様は全員おかしなものを見たように笑っていた。


「ああ、こいつらに実力があると見誤っていた俺達が馬鹿だったようだ。むしろ、我々がこのような態度をしていたから、彼等が調子に乗ってしまったのかもしれないな。全く、我々も罪深い」


「……行くぞ」

 

 隣でリーベが舌打ちをしながら、こちらの右手を繋いで引っ張って来る。

 そんなリーべの様子を見て、私は少し申し訳ないと感じた。

 私のせいでリーベを困らせているなら、私もリーベの事に文句はあまり言えない。


「精々慢心しているといいわ。身の程を弁えない者の最後はみんな、死よ。あなた達もそうならない事を祈っているわ」


 マーレ最後の置き土産とばかりに、こちらに対して挑発を仕掛けて来るも、私もリーベも、その挑発に反応することはなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……別に気にする必要はねぇよ。あいつらの態度がいつもと違っていたのは事実だけど、今回もきっと勝てるぜ」


 私が、彼等に馬鹿にされて落ち込んでいると思っているのか、リーベはらしくもない励ましをしてくる。

 ここは魔法学校の屋上、ここへ立ち入る事は魔術使いでも許されている。


 きっと、私が顔を下げているから落ち込んでいると思っているらしいけど、私は少し違う事を考えていた。

 ──まあ、落ち込んでいるのは少しあるけど。


 私が気にしているのは、裏庭での彼等の態度の大きさだった。

 確かに、何時も彼等は調子に乗って小物の様な態度を出しているけど、それにしたって最後の様子は違和感があった。


「……まあ、落ち込んでいるのは少しあるけどね。一つ、気になる事があるんだよ」


「魔法使いと魔術使いの根本的な差、さっきあいつらが言っていた事気にしてるんだろ?」


「そう、そこだよ。魔術使いと魔法使いには確かに差があるけど、決して魔術使いは魔法使いに勝てないわけじゃない。現に、過去一年間の出来事で彼等もその事に関しては承知しているはずだ」


 そう、先程の彼等でも魔術使いは魔法使いに勝てると知っている。

 知っていなければ、最初に魔術大戦の予選に辞退しろなんて言ってくるはずがない。


 その彼等が、私が魔術大会の予選で勝利すると言った瞬間に顔色を変えた。

 単純に私の考えすぎなのか、それとも何か策があるのか。

 何にしても、警戒する事に越したことはないのは確かだ。


「まあ、あいつらも馬鹿じゃないってことだろ。そら、そんな事よりどうやってあいつらに勝つか考えようぜ。いつまで悩んでいても仕方ねえだろ」


 こういう時、リーベの存在はありがたい。

 私は結構引きずって考えてしまうタイプだから、こういう引っ張ってくれる人はモチベーションの向上につながる。


「……それも、そうだな。じゃあ、もう一勝負やるか?」


「おう、次は手を抜くなよ」


 そう言って、俺達は地べたから立ち上がり、屋上で再び特訓を始める準備をする。


 今回の魔術大戦の予選での謎も多い、けれど決して乗り越えられない壁ではない。

 そう気持ちを切り替えた俺は、既に剣を構えているリーベの元へ向かった。


 


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