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第三話 化学の終わり 魔法の始まり 3

 ここは、魔法学校内の裏庭。

 魔法学校には様々な施設や機能が存在しており、その中の一つとして裏庭がある。

 

 基本、魔法学校はかなり贅沢な設備と機能を備えており、大体のものは全て学校に置いてあるという逸話もあるぐらいだ。


 しかし、いくら設備や機能が揃っていても、全員にその設備が使えるわけではない。

 それこそが魔法学校の階級制度、「魔法使い」と「魔術使い」、この学校に入学した生徒は、基本的にこの二つのどちらかに分けられる。


 まず最初に魔法使いだが、分かりやすく言うならばメィジ保有量が多く、更に魔法実技の点数が高い生徒に与えられる。

 「魔法使い」のその名にふさわしく、魔法の発動速度は「魔術使い」よりも早く、人族の中では強力の魔法も放てる可能性を持つ。

 分かりやすく言えば、優秀な生徒である証なのだ。


 一方で魔術使いだが、この称号は魔法使いとは打って変わって不名誉なものだ。

 魔法発動速度が遅く、メィジの保有量も低い、更に魔法実技の点数も低い。

 これら三重苦全てを揃えた者に与えられる不名誉の称号、それこそが「魔術使い」という称号だった。


 魔術使いの生徒は学校内での扱いも酷い。    

 一部の施設は使用不可能、使用可能な施設でも魔法使いの生徒が来れば施設を譲る事、学校内のイベント参加不可、更には魔術使いには担当の先生も一人しかいない始末だ。


 この担当先生一人が、魔術使い最大の不遇とも言われる所である。

 せっかく魔法学校に来ても魔法使いになれなければ、魔術使いとして生活する事になる。

 そこから魔術使いで名を上げるのは至難の技で、学校を卒業してもこの階級は永遠に残る。

 おまけに、魔術使いの称号はあまり社会に良いイメージはなく、むしろ負け組の証とまで言われている始末だ。

 つまり、魔法学校に入学して得る階級は、一生己に付き纏ってくる事になる。


 魔法を学ぼうにも、魔術使いは先生が一人しかいないので、その先生に気に入られなければ全てアウト。

 嫌われてしまえば、君の学校生活はそこで終了が確定のゲームオーバーだ。

 と言うのも、先生一人で魔術使い全ての生徒を支えるのは不可能に近い事なので、結果的に素質のある者のみしか、魔法を教えられないのが現状だ。


 そして案の定、魔術使いの称号を貰ってしまった生徒の大半は学校を中退、稀に中退せずに最初から頑張る生徒もいるものの、大半は魔法使いにいじめられてしまい、学校に来なくなる奴らがほとんど。

 つまりは、落ちこぼれの溜まり場だった。


 そんな落ちこぼれの溜まり場で、俺とリーベは共に学園生活を送ってきた。

 華々しいとは言えないけれど、それでも二人で過ごした去年、一年目の学園生活は楽しいと言えるものだった。

 

 去年の例を挙げるなら、リーベが魔法の練習をした時に邪魔をしてくる魔法使いのエリート集団に、ちょいと魔法を使ってイタズラしている様子を見ていたりと、結構な頻度で魔法使い達に仕返しのイタズラをリーベはしていた。


 当然、そんな事を長くやっていれば学校にも小言を言われそうなものだが、残念ながら、歴代の魔法学校の中でもトップクラスの成績を収める魔術使いと、私とリーベは言われており、学校の偉い人達も簡単には手が出せなくなっていた。

 無論、やりすぎると学校を退学になってしまうので、ある程度は控えるように心得ているが。


 そんな感じで、緩く過ごして来た俺達の学園生活も二年目。

 底辺組の俺達も参加できる、ある一つのイベントが行われる事が判明した。


 そのイベントの名は、──「魔術大戦」

 

 ……の、予選だ。


 落胆する気持ちは分かる、そう予選だ。

 何故予選なのかと言うと、それはこのイベントがただの学校行事ではない事が関係している。


 魔術大戦はディーオ国が提案したスポーツで、五人の魔法使い又は魔術使いが、願望機を巡って争うバトルロワイアルだ。


 そのうちの一枠を、なんと魔法学校が推薦出来る事になっており、その一枠を掛けて戦うのが今回の行事となっている。


 予選と言っても、その予選に入るまでが大変。

 基本的には、成績上位者であることと、魔術大戦において死ぬ覚悟があるか、この二点が求められている。


 成績上位者は余裕でクリアしているとはいえ、流石に死ぬ覚悟まで求められるとは思っていなかった。

 そして、この時点で、私はただのスポーツでは無いと理解した。

 優勝の報酬が何でも願いが叶う願望機のプレゼントだ、むしろ何も無いことの方がおかしいのは当然だった。

 無論、こんな覚悟は本場になれば浅いものだと知ることも理解している。

 中途半端に長生きをしていると無駄に知識だけは増えるのだ。

 ここらで、本気で戦ってみるのも良いかもしれない。

 もし願望機を手に入れられたのなら、この世界に訪れた意味を教えてもらう些細な願いで良いだろう。

 そのぐらい許されるはずだ。


「……おい、さっきから避けてねえで当たってこいよ。さっきからゴキブリみたいに動きやがって。イライラするんだよ」


「──そんな事言っても、お前、カウンターする気満々だろ?」


「へぇ、よく分かったな。じゃあ大人しく引っかかりな!」


 話を戻すと、俺達は魔術大戦予選の特訓をここ最近は続けている。

 ここの裏庭は、屋根もなく天候次第とはなってしまうが、立地も地味に良くが校舎からの距離も遠い、本日の天候は曇り、俺たちのような魔術使いが練習するにはぴったりの場所だった。


 先程から、リーベが足を踏み込みながら私に連撃を繰り出しくる。

 その木剣の軌道を読み、足を滑らせるように私が相手の懐に移動していく。

 当然、その移動先もリーベには読まれており、そこにフェイントを仕掛けようとリーベが剣を当てる、俺は自身の木剣でリーベの身体を突こうと動かすも、紙一重でリーベがその動きを躱す。


 互いに後ろへ下り、木剣を構え直す。

 両者共に沈黙のまま、どちらが先に踏み込むかが勝負の分かれ目となりそうだ。

 リーベに、フェイントの類いは一切効かない。

 ならば、お互いの全力を持って相手に当たるのみ。


 私は、足元に無属性魔法【ソニック】を使用。

 魔法が掛かると、両足の靴が青く光ると同時に、重さが一気に軽くなり、魔法が成功した事を実感する。

 その直後、私とリーベはほぼ同時のタイミングで、右足を踏み込んで駆け抜ける。

 両者互いに木剣が激しくぶつかるも、鍔迫り合いの状態になってしまい、そのまま魔法の効果が消えると同時に、互いに後ろへと戻る。

 数秒間の沈黙の後、私は木剣を収める動作をしてから、ふと息を吐く。


「──何だ? もう限界なのかよ。相変わらず、体力の低い軟弱野郎だな。まあ、女男だし無理もねえよな」


「良い加減にその呼び名はやめてくれ。俺にはヒロって名前があるんだから、そっちの方を呼んでくれると非常に助かるんだけど」


 私の提案に検討の余地があったのか、リーベは数秒間顎に手を当てて考える様子を見せる。


「……却下!」


 一瞬でも期待した自分が恥ずかしい。

 リーベは、満面の笑みで断ってくる。

 どうやら、意地でも私の名前を呼びたくはないらしい。


 リーベが私の事を女男と言うのは、出会った直後からだった。

 小さい頃、とある丘で偶然遭遇。

 その頃五歳程だった私達は意気投合して仲良くなるも、そこでの呼び方はずっと女男。

 名前で呼んでくれと何度頼んでも名前で呼ぶことは現在もない。


「……おい」


 そんな、先程までの軽い様子とは打って変わり、リーベの表情が大きく変化する。

 その理由は、耳から聞こえてくる遠くの声についてだった。

 招かれざる客がこの場に近づいてくる事に、苦笑をしながらも声のする方に耳を傾ける。


 ふいに周囲に響いた足音──後ろを見れば、魔法使い達が集団で立っていた。

 

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