天沼四郎の相談室
環状8号線はその昔、旅人達の通り道で別の名前で呼ばれていたが、
いまでは車どおりのとても多い交通の要だ。
月の形がととのった時、
近くのカレーやがカレーを煮詰めるあの時間帯。
決まってあの青年がランニングでその道を通り過ぎたそのタイミングの直後
館が現れる。
「ははっ、とっても月が綺麗です。なんにもない、本日のような静かな夜を迎えることは、生きていて
本当に嬉しいことだと私は感じています。ムタもそう思いませんか。」
リアクションをしない猫が一匹。眠そうにあくびを。
この館には天沼という名前の紳士が住んでいる。
紳士のもとへは、悩みを抱えた者がいざなわれる。
紳士は時折10代にも見える時もあるし、40代のような落ち着きをもっているように見える。
今日も一人、この場所へいざなわれる。
真面目にオーディションを受けてこつこつキャリアを積み重ねている声優 河野佳奈
昔ティーン雑誌のモデルからキャリアをつみ
子供向けヒロイックアニメでメインの役を28歳でいとめるが、
めだった主役作品にはめぐまれていない。
彼女は同じ事務所の後輩声優に殺意が芽生えるほどにいらだちを覚えている。
「ここにきたら願い事がかなうって聞いたんです。」
「誰に聞かれたんですか?」
「それは、、あれっ、誰にきいたんだっけ、だれかがいっていたんです。。」
「誰なんでしょうね。不思議ですね、人の話というのは内容だけが記憶に残り、
誰が伝えたかという記憶が薄れてしまうのですね。本当に不思議です。私もそういうことありますよ。」
「願いはどんな人もある程度の望みならかなえることが出来ます、しかし、それには
それ相応のエネルギー量というのが必要でして、なんの労力もなく欲しい物を手に入れることは出来ません。
たくさんお金がほしいとき、大好きな人とお付き合いしたいとき、いろいろ悩んだり、大変ですよね、
ほんと生きるのって。せっかくのご縁ですし、まずはお話を聞かせてください。」
後輩声優に綺羅野沙耶がいる。
デビュー当時はそんなに目立つ存在ではなかったが、
事務所の強い協力もあり、最近はグラビア、バンド活動など幅を大きくひろげ、
バラエティ番組にも出演している人気上昇中のアイドル。
「彼女が嫌いなんです。」
綺羅野がやっていることで一番嫌悪するのは、
キャスティング権をもつプロデューサーや、監督への異常な営業に対してだ。
吐き気がする、腹のそこから何かが沸いてくる。目障りでしょうがない。
「綺羅野の、、私に対する態度も生意気で、言葉では話をしているのに、視界には私が入っていないんです。
そんなとき、私はそういう存在なんだって思う。」
「あなたは彼女にどうなってほしいと思っていますか?」
「えっ、それは、、、綺羅野に態度を改めてほしいと願うことと、実力勝負で仕事にのぞんでほしいと思っています。」
「解決方法なんですが、理想は、あなたが綺羅野さんと相対して、なんらかしらの影響を与えることが一番適切な処置です。」
「そんなことはもうとっくにしてます、何回もしゃべりましたし、注意もしたつもりです!
言葉で人間の心が変わるなんてそんなのは理想です、影響力のある人間からの言葉ならまだしも、、
私の言葉なんかじゃ、、彼女には聞こえないんですよ、私の声が!」
「なるほど、、きっと本当なんですね。お貸ししますよ、お守りといいますか、、なんというか、、」
引き出しからとりだしたプラスチックのような質感のカード。
「これ、カードです。ずっともっているといいことないので、満足したら手放してください。」
「あなたが思っていることが具体的な形となって、現実に影響を与えます。あっ、金銭は不要です。お茶でも飲みます?」
「このカード、本当に願いが叶うんですか、、」
「それを求めにこられたのでしょう。中身に関してはあなた次第、といったところなんですが、、」
「こっ、このカード、どうやって使うんですか?」
「お財布にでも入れておいてください。あなたが本当に願っていることが現実になります。
願いをかなえたくなかったら、切込みをいれてゴミ箱にすててください。」
「内緒にしてほしい話なんですが、聞いてもらえますか、誰にも言えなくて、、」
「大丈夫です、お約束します。私、口、堅いんです。」
「あいつ、私の彼氏と寝たんですよ、その彼というのがTV局のプロデューサーなんです。
いい役を結構回してもらってて、そのうえで、あいつはわざわざ寝るんですよ。
頭がおかしいでしょ、そんな必要ないし、私と付き合っていることも知っていたはずでしたから。。
彼は、それから数ヵ月後に体調を崩して入院するんです、
心臓の大きな病気で面会も制限しているんです、でも綺羅野はその病院にいくんですよ。
次にやる番組ききましたよって、私その役、ただでもやりますって。
そのあとオーディションで受かって、取材会見のときにいうんです。
「私にこういう役をいただけるなんて、ほんと以外でした、でも演者としての幅が広がるので、
一生懸命がんばります!」って。。
「ただで仕事依頼するやついねぇだろ、わかっててしゃべってんじゃねぇよ。
それに裏表ありすぎだろ!本当に頭がおかしいんじゃねぇか、、すいません。」
月の形がととのった時、
近くのカレーやがカレーを煮詰めるあの時間態、
決まってあの青年がランニングでその道を通り過ぎたそのタイミングの直後
館が現れる。
「今日の月も美しいです。ムタもそう思いませんか?」
眠そうにあくびをする猫。
「私、あの河野さんの話聞いて、大変だなっ、て思っちゃいましたよ。自分の中にある欲望ってやつにきづかいているのかな、ひょっとしたら、綺羅野さんと河野さん、似ているところもあったんじゃないかなって。あのカード、ただのプラスチックです。私の予想だと、綺羅野さんはもう数年で落ちます。不安定な生き方は必ず支障をもたらします。」
「人を変えようとすることは、とっても難しい、でもそれが出来ないとはみんな思わないですよね。願わくば、怒りにとらわれないような心持ちになれれば、人に干渉するような考えに至らなければ穏やかに暮らすことが出来るのに、長生きしてみないとみんなわからないことかな。」
小説をかいて、投稿して、誰かに何かを言っていただくことが目的です。
まずは楽しんでかき続けていきたいと思っています。
宜しくお願いします。