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二対のエクペランス  作者: めむ
幼少期編
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幼少期編 四話

「アッシュ!」


「ランスくん!」


人混みの中を掻き分け、彼を見つけた。

アッシュだ。

彼は1人で柱の側に座り込んでいて、心細かったのか俺を見つけると突進してきた。

俺はそれを易々と受け止める。

色々言いたい事があったが、2人共、無事でよかった。

しかし、アッシュはこんなにも積極的な子だったか?

そういえば、アッシュのお母さんも見えない。


「くすぐったいよアッシュ。」


「あっ!ご、ごめん!」


彼は俺から離れる。

しかし、モジモジしているところを見ると、やはり心細いんだろう。

大人の男女が何百人も小さなホールに押し込まれているんだ。

アッシュのような子供1人だけでは安心できないのも当然の事だ。


「ねぇ、ランスくん…。」


アッシュは俺の服を掴んだ。

容姿も相まってこういう行動をされると同じ男には見えない。

しかし、アッシュは相当気が弱っているようだ。

普段こんな姿は一切見せないというのに。

彼は俺の名前を呼んだっきり口を閉ざしてしまった。

ドードは大丈夫そうだが、アッシュは心配でならない。


「アッシュ、良かったら一緒に行動しないか?」


彼は驚いたような表情を見せる。

まさか、なにか地雷を踏んでしまったのか?

断られたら俺も寂しいのだが……。


「勿論だよ!宜しくね!」


「あ…。うん。アッシュ痛いよ?」


アッシュは嬉々とした態度で俺の右手を両手で握り、ブンブンと上下に揺らした。

俺は笑顔を作って彼に笑いかけた。

俺も1人じゃ寂しかったのは本当の事だったんだが、なにか不思議な気持ちだ。


「皆さん、此方です!私達について来て下さい。」


ホール中に透き通った良い声が流れた。

金髪の長髪、両手には短機関銃(サブマシンガン)を握っている。

彼女には少し見覚えがある。

地下で化け物を引き止めていた人達の1人だ。

彼女は片手で短機関銃(サブマシンガン)も持つともう片方の腕を俺達にめいいっぱい振って注目を集めた。

金髪の髪と、大きな胸が腕を振る度に揺れる。

男達は彼女のお陰なのか争う事なく順番に銃を持った屈強な男達の後ろに続いていく。

男性陣は緊張が少し溶けたようでみんなの顔も少し明るくなった気がする。

しかし、何十人かの女性達からは殺気にも似た様なオーラが漏れ出していた。


「……大人の人ってあんまり頼りになんないね。」


アッシュは呆れた様子でそう呟いた。


「自分の身は自分で守ろう。」


俺がそう言うとアッシュはキョトンとした顔をしたが、すぐに笑いに変えていた。

アッシュはこの時、俺が冗談か何かを言っているように思えたのかもしれない。

しかし、俺の心にはそのような思いが焼け付くように刻まれていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うわ、凄いところだね。」


「ランスくん。僕耐えられそうにない…。」


アッシュは鼻をつまんで、苦い顔を浮かべる。

もう片方の手で俺の手を握っているのだが、力むように握る力が強くなった。

前の列の人達も苦しそうな顔で歩いていた。


今いる場所はホールを階段で下に進んだ場所にある、下水道だ。

親父が水道の点検をしたくなかった理由がやっと分かった。

臭いだけでもうギブアップしたい気分だ。

ホールよりも温度は随分と下がり、地下暮らしの時と同じような感じで過ごしやすい。

違うのはこの鼻にくる臭いと真っ暗な状況だろうか。

持ち運びライトで先頭と、俺とアッシュの真後ろにいる最後尾の集団が照らしているが、殆ど何も見えない。

辛うじて前の人を頼りに進んで行っている状況だ。


「ねぇねぇ。君達2人だけだけど怖くないの?」


「怖くありません。」


「なんだ。可愛げないね。大丈夫、何かあってもお姉さんが助けてあげるからね。」


後ろでライトを付けていた先程の金髪の女性がちょっかいをかけてきた。

アッシュは無口のまま俺に離れない。

金髪の女性はライトを持ちながらも、で短機関銃(サブマシンガン)を大事そうに肩にかけている。


「お姉さん、なんで撃てないのに大事そうに銃を持ってるの?」


「お、お姉さんなんて堅っ苦しい呼び方じゃなくて、マリベルさんって呼んでもいいのよ!アハハハ…。」


彼女は俺の問いに引きつった笑顔を見せた。

何を誤魔化す事があるんだろうか…。


「分かりました、マリベルさん。それでなんで銃を持ってるんですか?」


「これだから勘のいいガキは嫌いだわ。」


「え?」


「言ってみたかっただけよ。」


突如彼女の口調が豹変したが、すぐにいつもの感じに戻った。

彼女は俺の右隣に来ると、押すようにして、手を俺の背中に合わせて置いた。

そして歩きながら俺の耳元に辛うじて聞こえるように言った。


「弾がなくても銃って今じゃ結構貴重な物なの。それに、銃持ってるだけでみんな安心するでしょ。それに、胸にナイフを入れてるもの。」


彼女はニッコリと笑ってそう言った。

確かに彼等が銃を持っていなければ、みんながこうして真面目について来たかどうか怪しい。

それ程までに、銃という物は頼りになる。

一本取られた気分だ。

俺が感心していると、少し前の方から水の音が聞こえた。


「静かに。」


彼女はそういうと指を口に近付けた。

お茶らけた先程の様子とは違う。

彼女の青い目はギラギラと獲物を狩るようにライトの光を反射していた。


前の方からも混乱が起きる。

音の方向からして、下水道の水の方だ。

暗いし誰かが足でも滑らせたのだろうか。


「うわぁぁ!!」


男の叫ぶ声と共に、マリベルは俺達を押し退けて走り出した。

ライトで照らされ、叫び声を上げた男がようやく視認できる。

男の二の腕の肉はごっそりと無くなっており、暴れる男を壁に押し付けて、なおも襲っている。


「ランスくん!ランスくん!」


「アッシュ落ち着いて!」


アッシュに見える位置に事が起きたのは失敗だっただろうか。

トラウマが呼び起こされたのか、歯をガチガチと鳴らし、震えだした。


マリベルは男を壁に押し付けている化け物を水に向かって勢いよく蹴り飛ばした。

化け物は呻き声を上げて吹っ飛ばされる。

しかし、ライトも同時に俺の方に投げ出され転がってきた。

水の中で大きな音を聞こえる。

どうやらあの化け物はちっともこたえていないらしい。

前からは騒ぎに気付き、こちらに駆け付けているようだが狭い道幅の中で人混みを掻き分けてこちらに向かうのは時間がかかる。


「キャッ!ちょっとぉ……!!」


その声にハッとした俺は足元に転がっているライトを拾い、目の前を照らす。

見るとマリベルが水から上がってきた化け物に対し、床に向かって押さえつけられている

状態だった。

マリベルさんは化け物の肩を押さえて、化け物が自分の顔を食い千切ろうと暴れるのを辛うじて防いでいる状態だ。

このままでは彼女が危ない。


「なんで助けないんだよ!」


俺の出した声にマリベルから離れた男女達はビクッと体を震わせた。

しかし、その体はまるで固まったかのように動かない。


ああ、そうか。お前達も結局は……。

そう思うと自然と俺の身体は動いていた。


「ランスくん!」


アッシュの手が俺の服を掴もうとするが、その手は空を掻いただけだ。

俺はライトを持ったままマリベルに向かって走った。


あれ!?なんで走ってるの僕!


1番に疑問に思ったのは自分の行動に対してだが、すぐに考えるのをやめた。

母さんも料理がまだ下手だった頃に言ってた。

何事もなるようになれだ。


俺は勢いのままライトで化け物の頭を殴り抜けた。

化け物の体はよろめき、マリベルを解放する。


「ひやぁっ!!」


まだ床に伏したままのマリベルの胸に俺は手を突っ込んだ。

周りの男からはこんな状況なのに羨ましそうな顔をする馬鹿が湧く。

そんなことは関係ない。

胸の奥の方に隠されていた短いナイフを抜きさると、這いずったまま、俺に向ってくる化け物の頭に突き刺す。

化け物の勢いのお陰か、ナイフは止まることなく脳天に深くぶっ刺さった。

しかし、止まると思われた化け物の動きは止まらず、勢いのまま俺に噛み付こう止まらない。


不老者(テレスパス)はこうすんのよ!」


化け物の左耳にもう1本ナイフが刺さった。

次の瞬間、化け物の頭に彼女の蹴りが炸裂する。

化け物の身体は再度水の中に落とされ、浮かんでくることはなかった。


「よかったぁ……。」


身体から力が抜ける。

最後のは本当に死ぬかと思った。

それに、マリベルの蹴りの風圧がこっちにもきて心臓が飛び出るかと思った。


「ナイフって1本だけじゃなかったんですか?」


「女っていうのはね。3個は武器を隠しているものよ。覚えときなさい。」


マリベルは自慢気な表情で腕を組んでいた。

しかし、この俺達を照らす光は……。


「アッシュ…。」


「ランスくん…ほんとによかった!」


アッシュは手に持っていたライトを落として、俺に突進してきた。

俺はそれを受け止めることができず、なすがままだった。

胸の中のアッシュからは鼻水を啜る音が聞こえる。

その後すぐにライトを持った男達が俺達を再度照らした。

男達は子供が抱き合って、1人は無表情で1人は泣きじゃくる謎の状況に混乱していたが、すぐに壁に横たわる血塗れの男を見つける。

男達はマリベルを見つけると、一緒に横たわる男に近付いた。


実際に見たくない物はここからだった。


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