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失敗したら僕達は貴方達を見捨てますよ?

 博士の助手として働く僕。博士はあまり常識というものを考えていない。


そのことは分かっていたが、どうにも意識の外だった。


博士は自身のクローンを7体作り、そして世話役として僕のクローンを7体作った

ああ、哀れなクローン達。


望む未来もあったはずだろうに、博士の世話という運命を定められてしまった。


僕は僕のクローン達と出ていこうと思ったが、博士は必死に縋り付いてきた。


「君がいないとダメなんだ。」


 そう言われてもダメなものはダメだ。


「分かった、過去に行ってこの事をなかったことにしよう。」


 それもどうかと思うけど、博士がまだ取り返すのつくことだと言っているなら。


クローンを作り、未来へ行くという博士の可能性を今のところは信じよう。


結局、僕は博士を見捨てずにいる。




 今は博士と僕の荷物をまとめている。未来に行くためだ、僕達も僕を手伝ってくれている。


博士と博士達は機器の点検を行っている。もちろんタイムマシンのだ。


 そういえば、僕はタイムマシンの仕組みを知らない。


「博士、少しお時間いいでしょうか?」


「なんだい助手くん?」


「どのような原理で未来に行くのですか?一方通行とは聞いていましたがそれ以上は聞いていません。」


 未来に飛ぶという現象を実現させた博士。


その原理に興味が湧かずして何が研究者か。


研究者を夢見る僕はきっと理解が出来ないと分かっていても聞かなくてはいけないのだ。


「ああ、原理か。すごく簡単だよ。助手くんも理解できるだろう。」


 僕が理解できる程簡単な原理か、一般的に言われるタイムマシンは光の速さに近づくことことで時間の流れが変化するというものだったか。実現が可能なのか?

いや、博士ならきっと…


「コールドスリープする。」


「エッ」


 凍るの?


「手っ取り早く未来に行くなら凍った方が早い。」


「 」


 冷凍マグロよろしく凍って未来にいくのか…


「いや、そんな言葉が出ないってものでもないだろう?そもそも時空の跳躍なんて今の技術で再現することが難しい。時間もかかる。なら、体と記憶を眠らせて未来で解凍するほうが早い。擬似的なタイムワープだ。しかし、管理には手間がかかるという現実もあるが、そのための娘達助手達だ。彼らならしっかりと私達を起こしてくれる。」

 

 懸念事項というのは「しっかりと起きられるか」というものだったのか…。


「そのためのクローンだったんですか…?」


「うーむ、そのためかと言われると…微妙だな。複数の研究が頭の中で同時進行しつつ未来からの私の助言を含めて行動していたので結果的に管理を任せるためという目的が出来たという感じだな。」


 博士は知識の研鑽という私利私欲のために研究をしている。


いや、研究者としては正しい姿なのかもしれない。


その興味だけで進めていた研究中、未来から自分の危機を伝える自分に会った。


未来に行くという目的を持った博士の研究速度は今までとは比べ物にならない速度で進んでいったのだろう。


その結果がコールドスリープ。シンプルだけど少し腑に落ちない。


「一人目の私が生まれた時」「先輩現れたらしい」「クローンいかんと戒め」「助手離反の危機」

「未来へ飛ぶ決意」「7人の私達」「そして7人の助手」


 博士達も加わって説明を始める。一人目の時点で未来の博士は来ていたのか…いや、まて


「なぜ未来の博士は出来る前に飛んで阻止しなかったのですか?」


 そもそもクローンを作った時に飛べるなら、作る前にも飛べるはずだ。


「その時は助手がいなかったからな。クローンの研究自体は5年程前から始まっている。その時点に未来の私はやってきたが助手が私の手を離れると言われても意に介さなかった。そもそも誰か分からないし重要性なども理解出来なかった。3ヶ月程前に君がやってきた時に全てを理解し後悔したがね。」


 おいおい、世界中が忌避している人のクローン研究をそんな前から始めてたのか。

というか


「5年で実用レベルのクローンを作製するなんて狂ってる…」


 この人は天才だ。


「いや、研究が加速したのは君が来たからだ。このコールドスリープで未来に行くことも、娘達に任せることも、未来の私が言っている意味がわかったその瞬間から、全てが始まったと言っていい。」


 そして、異常だ。狂ってる。その矛先が僕だというのも笑えない。


「博士はなぜ、そこまで…」


 とりえもなく、大学を追い出された僕に。


「分からないからだよ。この体と思考の異常も君が来て始まった。これが恋や愛だというものかも知れないがそんなのは知識だけの情報から推測したものだ。推測を確信にするには圧倒的にデータが足りない。今までは年の近い異性というものは私の周りにいなかった。君が特別なのか、それとも閉鎖的な人間関係から生まれた特別なのか。」

 

 博士の口調は冷静そのものだが、体は耳まで赤い。


「と、とりあえず!君は私にとって研究対象なのだ!」


 そういうと「少し頭を冷やしてくる」とふらふらと実験室を後にする。


博士達も一緒になって出て行く。皆一様にゆでダコのような状態だった。


「困ったね」「これは本当に」「あの人から離れることは」「出来そうにないね」

「いや全く」「実はこれも計算?」「どうだろうね…」


 僕達が円になって話をしている。

話している内容は僕が頭で考えていることとほぼ一致している。

頭の中をそのまま出したような感覚がして少し気持ち悪い。


「博士が戻ってくるまでに準備終わらせようか。」


 僕達にそう伝えると、皆同時にアイコンタクトを取ってうなずいてくれる。


行動するタイミングも同じのようだ。


クローンというのはここまで同じなのだろうか…全く同じ人間だとしても少し違和感を感じる。


そもそも僕達の背丈から見て10歳程度に見える。おかしい。10歳の頃の僕の思考は子供相応だ。


クローン達は20代を超えた僕とシンクロと言っていい思考を持っている。


「答えたほうがいい?」


 一人の僕が近づいて来て話をかけてくる。思考を読んだ質問。思わず口の端がゆがんでしまう。


「いや、博士に聞くよ。話のネタに困っているわけじゃないけどそのほうがしっかりと理解できる。」


 その答えを聞くと軽くうなずいて作業に戻っていく。 


少し邪険にし過ぎだろうか。気持ち悪いとは言え僕のクローンなのだ、一心同体。一蓮托生。


そんな言葉でくくってお互いを尊重しあうのが普通なのだろうか。


どう対処したらいいのか分からない。


博士と博士のクローン達は違和感なく打ち解けていた。


彼女はそもそもクローンを作ることに違和感を覚えていなかった。


考えても仕方がない。他人の考えなんて分かるものじゃない。


ましてや博士だ。理解できるはずがない。


僕は思考を切って準備を始めた。




「さあ!時は来た!助手くん、共に過去を変えるために未来へ行こう!」


 小さな体で大きな身振り手振りで話を始める博士。


なんというか、僕にクローンの存在を打ち明けてから明るくなったような気がする。


もしかしてクローンのことを一時的にも許してもらって調子に乗っているのだろうか…?


僕は気を引き締めなければ…!僕のクローン達の運命がかかっている。


「はい、行きましょう。それで、どのくらい未来へ行くのですか?」

「うーむ、とりあえず、1年程先に行ってみるか。この子達にまかせても大丈夫だと思うが一応様子見だ。体に異常が出ないとも限らない。いや、もちろん私の作ったタイムマシンだ。問題はない。しかし、万が一を考えて徐々に飛ぶ年数を上げていくのが無難だろう。」

 1年。

それなりの時間だ。短いと思えば短いかも知れないが…このクローン達にとっては違うだろう。


背が伸びて少しだけ成長して…思考や理解力も上がるかもしれない。


考え方も変わってクローンと言えども多様化するかもしれない。


少し楽しみだと思ってしまった自分が悔しい。


クローンを実の娘だという博士に近い感覚を共有出来てしまって。


クローンという間違ったことを楽しみにしてしまって。


「では、娘達よ!1年後の設定でよろしく頼む。助手くん達よ!どうか娘を頼む…。」


 博士は僕達に頭を下げて頼んでいた。断れないだろうな…僕は。


クローン達も断れないようで渋々といったなんともはっきりしない顔で頷いていた。


ああ、哀れ。その気持ち僕はよく分かるぞ…。


「さて、助手くんよ。荷物を詰め込んで未来へ行くぞ。覚悟はいいかい?」


 博士に促されて荷物を詰め込んでいく。


「はぁ…覚悟なんて出来てないですよ。さっきクローンのことバラされて今から未来へなんて無茶苦茶です。」


 荷物を詰め込みながらも愚痴のように博士に話す。


「でも、しょうがないですよ。僕のクローン達は、いや僕達は納得出来ませんからね。一緒に行ってどうにかするしかないでしょう。」


 僕と僕のクローン達は受け入れても納得はできない。


このどうにも表せない気持ちを荷物を運ぶ力に無理やり変える。


「はい、これで最後の荷物です!」


 最後の荷物を少しだけ乱暴に入れて、博士に向かって宣言する。


「頼りにしてますからね、博士!失敗したら僕達は貴方達を見捨ててどっかに行っちゃいますからね!」


 見捨てることなんて出来ないくせに。


心の中でそう思う。


結局、僕は博士を頼って行動するしか能がないようだ。悲しい。


「いや、それは困るなぁ…。」


 博士は少し嬉しいような、困ったような、そんな顔で頭をかいていた。

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