落ちた。
とにかく、やられないようにしなければない。さもないと俺の未来はないようなものだった。
彼女の技は、どこまでも俺を追いつめる。真綿で首を絞めるかのごとくじわじわと攻めるのだ。
逃げ場は一つずつ絶たれた。きっと、俺がしようとしていたことは何もかもお見通しだったのだろう。反撃の隙すら与えられず、ただ翻弄されるだけで、俺はもうお手上げ状態だった。
「もう諦めて、大人しく私のものになってください」
ちょっと困ったみたいに眉を下げ、ほんのり笑う。春らしいワンピースを着た彼女はとてもかわいらしい。名前も知らない男どもが何人も振り返っていった。
俺だって彼女のことは嫌いじゃない。むしろ好意すら抱いているのは間違いない。
それでも、この一年間ずっと彼女の告白を断り続けてきて、今更「はい付き合いましょう」だなんて言えないじゃないか。余計な意地かもしれない。だが、それをはねのけるのには大きな勇気が必要で、そんなものは生憎持ち合わせていなかった。何かきっかけがあれば、或いは可能かもしれないが。
不意に彼女が近づいて、至近距離からのぞき込まれた。つられて、俺も下を向く。
「もう少しかがんでほしいな」
真剣な目をして言われる。ひどく甘い響きだ。
まさか、これは“きっかけ”か。そういうことなのか。
頭がぼうっとしたまま、顔を彼女に近づける。
彼女の目だけ見つめて、だんだん近づいてくる圧を感じた。距離はどんどん縮まっていく。
とうとう互いの呼気まで感じられるところまできた。やっとかーーそう思った時。
「峰打ちです」
ふっと囁き、そのまま吐息は遠くへ行ってしまった。
戸惑いを隠せなかった。これはそういうことじゃなかったということなのか。
するとそれに気づいた彼女は、小悪魔のような笑みを浮かべて、言う。
「あなたからしてくれるのを、待っているから。」
結局、俺は彼女の体温をまだ知らない。
始めた時間が遅くてワンライの時間には間に合いませんでしたが、とりあえず一時間で書き上げました。彼女のキャラが判らない……。