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剣士レイラ

 リネットと別れた日から、俺の求職活動は始まった。

 本当はもうちょっと大きい街で仕事を探したかったんだが、いきなり大都会の大企業に就職しても仕方がないとも思う。

 最近の大学生の間じゃまことしやかに囁かれていることさ。『起業したいなら大企業じゃなくてベンチャー企業に行け』ってね。

 大きな企業の中で一つの役割をこなすのではなく、小さな会社で総合的なマネジメントを学習するのだ。起業をするならそっちの方がおいしい経験になるからな。

 そう考えて俺は町の中を色々と見て回ったのだが、求人票などが張り出されている店は無い。まあ、日本とは文化が違うのだから、同じような求人の方法を取るとは限らないわな。

 それに、ここは人口2000人の小さな町。もしかしたらコネである程度の仕事は決まってしまうのかもしれない。それなら、こっちから体当たりで営業を掛けるしかないのではないだろうか?

 お、丁度いいところに武器屋が有るじゃないか。こう言うファンタジーの世界ではいかにも需要がありそうな職種ではないか。


「失礼します!」


 俺は元気よく挨拶しながら、武器屋に入った。

 そこは大きな棚に剣や槍、弓などが所狭しと置かれている典型的な武器屋だった。


「いらっしゃい。本日はどんなものをお求めで?」


 ちょび髭の中年男性が近づいて来た。


「いえ、今日は買い物ではなく、売り込みに来たんです。率直に言って、私を雇う気はありませんか?」

「はあ?」


 おっさんは露骨に迷惑そうな顔になった。


「うちはねえ、見ての通り小さな武器屋なんだよ。余計な人員を雇う余裕なんてないんだ」

「余計な人員とは失礼な。私はこの武器屋をグローバルな大企業へとイノベートさせる志を持った未来のアントレプレナーですよ?」

「……お前さんが何を言っているのか全く分からん」


 っち。これだから田舎者は……。分かりやすい言葉で説明するしかないのか?


「私を採用した暁には、この店を国一番の武器屋へと成長させて見せます」

「どうやって?」

「それはこれから考えます」

「帰れ」

「え、ちょ、ちょっと!」


 おっさんは俺をぐいぐいと店の外に押し出して来た。


「ほ、本当ですってば! 本当に私はこの店をイノベートしに……」

「商売の邪魔だ! 出てけ!」

「うわ!」


 俺はおっさんに追い出されてしまった。

 ……ふう、俺の将来性が見抜けないとは、瞳の曇った殿方だ。

 

「君が、ハルイチと言う男か?」


 突然後ろから声を掛けられた。振り返ると、一人の女性が立っていた。

長い黒髪をポニーテールにした長身の女性で、全身を簡素な鎧に包んでいる。腰には剣を下げており、一目で職業が推察できそうだ。

目鼻立ちのはっきりした綺麗な女性だった。しかし、その顔は凛々しく、物腰には隙が無い。かなりの修羅場を抜けてきたような雰囲気を感じさせる女性だ。


「そうだが、君は?」


 俺の方も警戒をしながら答える。流石にいきなり切りかかっては来ないだろうが。


「では! 失礼!」


 そう言うなり、女はいきなり切りかかってきやがった!


「危ねえ!」


 咄嗟に俺は白刃取りの要領で剣を受け止める。

 昨日の盗賊連中よりもよほど早い一撃だった。

 受け止められたのは偶然のような気がする。もう一回やれと言われたら厳しい。

 いや、それより……、


「危ないな! いきなり何するんだ?」

「いや、失礼。傷つけるつもりは無かったんだ。剣も抜いてないしな」


 そう言って女はこれ見よがしに剣を見せつけてくる。確かに、剣は鞘に収まったままだった。いや、それでも当たったらかなりの怪我を負うと思うんだが。


「本当に失礼した。噂が本当か確かめたかったのでな」

「噂?」

「君が盗賊5人を素手で退治したという噂だ。どうやら、本当らしいな」


 女は剣を腰に戻し、意外なほど上品に礼をした。


「私はレイラ。流しの傭兵だ。君に話があって声を掛けさせてもらった」

「話?」

「そうだ。率直に言うが、君、私と組まないか?」

「組むっていうと?」

「文字通りの意味だ。私は流しの傭兵。色々な町を巡り、様々な荒事を解決して生計を立てている。これでも結構評判が良いんだぞ?」


 レイラはさっきとは打って変わって人懐っこそうな笑みを浮かべた。

 確かに、さっきの一撃でレイラがかなりの技量を持っているのはわかった。評判がいいと言うのも嘘ではないだろう。


「どうだ? 君とならもっと困難な仕事もこなせると思うんだ。私に協力してくれないか?」

「断る」


 俺は迷う事も無く答えた。


「な、何故だ? いきなり切りかかったことは謝る! この通りだ!」

「いや、そこは問題じゃない」

「じゃ、じゃあ待遇か? 報酬はちゃんと折半するぞ!」

「そこでもない」

「私の剣の技量が不満か!? さ、さっきのは全力じゃないぞ! 本気を出せばもっと強いんだからな!」

「いや、そう言う問題じゃないんだってば」


 俺は、溜め息交じりに答える。


「俺はね。傭兵なんてブルーカラーに興味は無いのさ」

「ぶ、ぶるーからー?」

「そうとも。俺は起業して、会社をグローバルに通用する規模まで育てて、ワールドワイドに活躍するのが夢なんだから。傭兵なんてしてる暇はないんだよ」

「ぐ、ぐろ?」


 どうやら、俺の言いたいことは半分も通じていないらしい。


「簡単に言うと、俺は商人になりたいんだよ」

「そうか……残念だ……」


 レイラは本当に残念そうな表情になった。ちょっと悪い気もするが、仕方がない。


「だが、君は見たところ、まだ働く場所が決まっていないようだな。それなら、傭兵の斡旋所に行ってみると良い。あそこには物騒な仕事だけじゃなく、店員の募集などの情報もある」

「そうか! 情報、ありがとな」

「何、いきなり切りかかった詫びだ」


 俺はレイラと別れ、斡旋所に向かった。

レイラはまた後で出てきます。

名前ぐらい覚えていてやってください。

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