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勝負は激化して

「どうしてこうなった……」


 ミミカとノアが生誕祭で勝負をする。最初はこういう話だったはずだ。

 それがいつの間にか……。


「やっぱり装飾品を主体にした店にしましょうか……」

「どうするかな。絵だけでもいいのだが……楽器なども扱ってみるか」


 リネットとレイラも勝負に参加することになっていた。

 きっかけは昨夜のやり取りである。


***


「生誕祭の間、ハルイチさんはどうすんの?」


 夕食後のちょっとゆったりした時間。ノアが思い出したように聞いて来た。


「特別なことはしないよ。いつも通り、店の運営だ」

「何か勿体なくない? 折角の生誕祭なのに」

「いや、あくまで生誕祭の間はいつも通りってだけさ。それに合わせた特別メニューとか、商品とかは勿論作るつもりだよ」

「そう言う事じゃなくてさ……」


 ノアが呆れたように言う。


「ハルイチさん。ノアさんは、『生誕祭を見て回らないんですか?』って言いたいんだと思います」

「そういうこと。そりゃ、店の運営が大事っていうのもわかるよ。でもさ、生誕祭は一週間ぐらい続くんだよ? 一日ぐらい休んだってよくない?」


 考えてなかったが、それもそうだな。

 稼ぎ時だから一週間ぐらいぶっ続けで働いてもいいと言えばいいが、この世界の風俗を勉強するのも決して無駄では無い。


「確かに一日ぐらいなら休んでもいいかな」

「それなら、最終日が良いだろう。やはり一番盛り上がるのはその日だからな」

「一番盛り上がる日に休む経営者ってどうよ?」

「その日盛り上がる一番の理由は、フォリアナ生誕の劇が行われるからだ。それが行われる地域は盛り上がる有ろうが、それ以外の区域はむしろ、人が少なくなるぞ」

「成程。なら、いいのかな……?」


 店を開けるかどうかは別として、取りあえず最終日ぐらいは休むことにするか。


「ねえねえ、ハルイチ! それなら、最終日はミミカと一緒に生誕祭を回ろうよ!」

「だが、勝負はどうするんだ?」

「最終日はどうせ、みんな劇を見に行っちゃうんだしさ。その前日までを勝負ってことにすればいいじゃん」

「待ってよ。ミミカ、そう言う事を勝手に決めないでほしいな」


 当然、ノアは抗議した。


「ハルイチさんと回るのはボクだ」

「訂正するのはそっちなのかよ……」

「何が?」

「何がって……勝負の期間はミミカが言った通りでいいのか?」

「ああ、そんなのどうでもいいや。それより、最終日の事の方が大事だし」


 そう言ってもらえるのは嬉しいが、何故二人ともそんなに喧嘩腰なのか。


「ミミカだよ!」

「ボクだね!」

「落ち着けよ。みんな一緒に行けばいいだろう?」

「それはちょっと……」

「詰まらないかな……」


 何が不満なのか、二人とも俺の提案には難色を示した。


「折角の祭りなんだし、ねえ?」

「うん。ハルイチさん、選んでよ」


 そう言われてもな。どっちを選んでも角が立ちそうだしなあ……


「なら、こんなのはどうだ? 売上勝負で勝った方と一緒に回る」


 かなり卑怯な逃げ道だが、時には『自分で選ばない』のも大切なのである。


「わかったよ。つまり、売上勝負で勝ったら一日ハルイチさんが何でも言う事を聞いてれるんだね?」

「そういうことかあ。これは、負けられないね!」

「待て」


 何故か条件が遥かに飛躍していた。


「それは聞き捨てなりませんね」

「ハルイチに命令する権利を掛け闘い、か。悪くない」

「リネット? レイラ?」


 何故か二人まで話に入って来た。


「何? 二人共。今更勝負に参加しようっていうの?」

「今更ってことも無いだろう。まだ生誕祭は始まってもいない」

「そうですよ。別に参加資格があるわけでもありませんし、私が参加したっていいでしょう?」

「それとも何か? ノアは私やリネットに勝つ自信が無いのか?」

「……そんなわけないじゃん。誰が相手でも、ボクは勝つよ」

「勿論、ミミカもそのつもりだよ。リネットもレイラも、参加したければするといいよ。どうせハルイチはミミカの物だし」

「うふふ……楽しくなって来ましたね……」

「全くだ……」


 俺が入る隙など一切なかった。気付いた時には、もう既にリネットとレイラは参加する決意を固めてしまっていた。


「いいですね? ハルイチさん」

「構わないな?」

「え、あ、うん」


 俺は反射的に頷いてしまった。


「店長の許可もおりました」

「これで心置きなく戦いに参加できるな」

「負けないんだからね!」

「こっちの台詞だよ」


 こうして、俺の意志に反してどんどん勝負はヒートアップしていった。


***


 とまあ、こんなやり取りがあり、四人全員が生誕祭で店を出すことになってしまった。

 通常勤務時間が終わると、彼女達は一様に生誕祭に向けた準備をするようになった。

 何か用があればもちろん時間は作ってくれるのだろうが、俺は出来るだけ彼女たちの意思を尊重しようと決めていた。

 きっかけはどうあれ、俺は今回の勝負自体はかなり有意義な物になると思っている。

 全員、俺の店では自分の役割を持っているし、全員が十分に活躍している。

 だが、彼女達が経営全体を見渡すマクロな視線を持っているかと言うと疑問符が付く。

 だから、俺は今回彼女達にそれについてしっかりと学んでもらおうと思った。

 俺は彼女達一人一人に出資してやる事にした。代わりに、それ以外の金を使ってはいけないという条件も付けた。全員の条件を同じにして勝負させるため。そして、限られた資金をどう生かすかを学んでもらうためだ。

 彼女達なら、きっと店を休むだけの価値があることを学んでくれるはずだ。俺はそう信じることにした。


 さて、生誕祭に向けて準備が必要なのは、彼女達だけじゃない。

 俺の店だって、生誕祭に向けて特別メニューを作る必要がある。

 彼女達の邪魔は極力しないようにしたいので、これは俺と他の従業員たちで行う。

 元々、食べ物関連に関していえば、リネット以外はあまり戦力にならないので大して問題にはならないしな。

 だが、いくら何でも従業員たちに『新メニューを考えてくれ』と丸投げするわけにも行かない。

 コンセプトと言うか、何らかの指針は俺が決めなくてはいけないだろう。

 そこで気が付いたのだが、俺はフォリアナ教と言う宗教についてあまりにも知識が無さすぎる。まずはそこから勉強しなければ、コンセプトも何もあったものでは無い。

 俺は一日休みを取って、中央部にある教会に行くことにした。

ちょっと区切りが中途半端になってしまいました。

ですが、これは次回にフォリアナ教の話を一気に進める為です。

ご容赦ください。

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