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さらばガリアス

 デリックとの勝負を終えた俺達は、2週間ほど休みを取った。

 とは言え、流石に全員一緒に休みを取ることも出来ず、ローテーションを組んで3人ずつ休むという感じだ。

 どういう組み合わせで休むのか、などと言う悶着はあったが……まあ、他愛ない話だ。

 そして、全員が程よくリフレッシュできてから、俺は皆に考えていたことを話した。


「ビルヒジスタに拠点を移そうと思う」


 みんな驚くかと思ったが、


「そろそろだと思ってました」

「デリックとの勝負も着いたことだしな」

「うわー! ビルヒジスタかあ!」

「ま、いいんじゃないの?」


 4人共既に予想がついていたらしい。

 俺の総資産は、金貨20000枚近くになった。これに加え、リットン商会に金山の採掘権を貸与したおかげで、常に一定の収入が見込める。あの金山も無限に金が湧くわけでは無いが、今しばらくは大丈夫だろう。

 それに、金の装飾品を売る過程で、ビルヒジスタの資産家とのコネもいくつか作ることが出来た。

 ビルヒジスタに移るタイミングとしては、この上ない好機だと思う。


「でもさ。こっちの店はどーすんの? 流石に、店長不在ってのはまずいんじゃないの?」

「それについては、デリックに相談してみようと思う」

「デリックに!?」


 レイラだけでなく、他のメンバーも目を見開いた。


「ああ。この街で一番商人に顔がきくのはあいつだ。あいつなら、きっと有能な人間を紹介してくれるだろう」

「でも、信用できるのかな?」

「少なくとも、俺は信用している。あいつは何よりも損得勘定を優先する男だ。俺の店を自分の知り合いに経営させられる利点を、しっかり把握できる」


 俺はデリックの人間性などはさして信頼していないが、商人としてのデリックは俺が今まであった中で一番信用できる人間だ。


「デリックか……」


 レイラは今までのあいつの態度から渋い顔をしたが、


「いいんじゃないかな? ミミカはいいと思うよ」


 一番恨んでいてもよさそうなミミカが明るい顔をしているので、それ以上何も言うことは無かった。

 俺自身もミミカに申し訳なく思う気持ちはあるが、これが最善手である仕方がない。


 そうと決まってからは、俺達の行動は早かった。

 店はデリックに紹介してもらった男に任せることにして、俺達に収めてもらう上納金などを交渉した。そして、店舗経営の上での一部のノウハウも伝授した。

 俺達が自宅として使っていた建物、それにノアとリネットの研究棟も買い取り手を見つけた。

 車と4匹のダルウルフは手放すつもりが無かったので、引っ越しの日まで自宅に置いておく。

それ以外の魔物はチャールズさんに返すか、他に買い手を見つけて売った。全部調教済みの魔物なので、チャールズさんに返しても大丈夫だろう。

他にもリネットが錬金術教師を止めたり、ノアが前使っていた工房も売り払ったりと細かい手続きもいくつかあった。

それと並行して、俺達はビルヒジスタに土地を買い、店舗まで建設した。流石に今回は、街に行ってから土地を探すような真似をしたくなかったからな。


***

 

ビルヒジスタに移る前に、俺にはしなければいけない事が有った。それはジェフリー卿への挨拶である。気の進まない事ではあったが、俺はレイラと一緒に屋敷へと向かった。

レイラのお蔭でジェフリー卿にはすぐに合うことが出来た。その席で彼女が俺達と一緒にビルヒジスタに行きたいと言った時、当然と言えば当然だがジェフリー卿は反対した。


「お前たち二人は婚姻を結ぶのではないのか? 何故ビルヒジスタへ行くという話になっておる?」


 当然、ジェフリー卿は俺とレイラが結婚し、自分の後を継ぐものだと思っていた。

 ……非常に言いにくい。だが、ここまで引っ張った自分が悪いのだと自分に言い聞かせ、はっきりと告げた。


「たいへん申し上げにくいのですが、レイラさんとの婚姻は芝居でございます」

「芝居だと?」

「レイラさんはあの時ジェフリー卿の政策に疑問を感じ、それを正す方法を探していました。なので、あの時家に連れ戻されるわけには行かなかったのです。ですから、家に戻るのを先延ばしにするため、あのような勝負を持ち掛けたのです」


 俺がそう、説明すると、ジェフリー卿は、顔を真っ赤にして震えだした。


「貴様は、私を騙したのか? それも、私の娘をだしにして?」


 ……完全に怒ってらっしゃる。


「その通りです」


 結構恐ろしいが、俺は極力平静を装っていった。


「無礼者が!」


 俺は思いっきり殴り倒された。


「ハルイチ!」


 レイラは俺を助け起こしながら、ジェフリー卿に非難の視線を向けた。


「父上!」

「いいんだ、レイラ。確かに俺が悪かった」


 俺はよろけながらも立ち上がって、真っ直ぐにジェフリー卿を見据えた。


「騙してしまったことは謝ります。ですが、あれはレイラさんの為にも必要なことだったと思っています」

「何だと?」

「もしも彼女があのままジェフリー卿の屋敷に戻っていたとしたらどうでしょう? 彼女は貴方に不満を抱えたまま、貴方の下で生活することになる。それが本当に、彼女の為になると言えるのですか?」


 ジェフリー卿は、感情を押し殺したような声を出す。


「確かに、そのことについてはお前の言う通りかもしれぬ。

 だが、レイラがビルヒジスタについていくことは話が別だ。貴様はレイラと婚姻を結ぶ気が無いのであろう? ならばレイラをこれ以上振り回すな。この娘には、私の下で次期領主となるべく学んでもらう」


 ジェフリー卿の言い分にも筋は通っていたが、レイラは毅然として反論した。


「お言葉ですが、父上。このアルバーンの屋敷にいるだけで、領主の何たるかが学べるとは思えません」

「何だと?」

「私はこのハルイチと共に商売し、時に戦い、多くのことを学びました。そして、その知識はきっといつか私が領主となった時、何よりも役に立つと確信しています。

 それにこれから行くのはラオネルの首都ビルヒジスタ。この街だけでは学べない、多くの事が有るでしょう」


 レイラは少し表情を崩して続けた。


「何も、いつまでもこの男についていくわけではありません。私は、自分に必要な物を学んだら必ず帰ってきます。ですから、今暫し私に自由を下さい」


 レイラは、真摯に頭を下げた。

 俺も加勢するように続ける。


「私からもお願いします。今の私には、レイラさんの力が必要なのです」


 二人に揃って頭を下げられ、ジェフリー卿はばつが悪そうに背をむけた。

 そして、少し寂しそうな口調で


「勝手にしろ」


 とだけ言った。

 ……ジェフリー卿も人の親だから、心配だったり、寂しかったりはするのだろう。だが、娘の成長を信じ、許可をくれた。俺の目にはそう映った。


「ありがとうございます」


 俺は心からそう言ったのだが、ジェフリー卿には、


「貴様に礼を言われる筋合いはない」


 と返されてしまった。


***


 こうして、俺達はガリアスでやるべきことをすべて終えた。

 ビルヒジスタの新店舗はまだ建築中の部分もあるが、住宅部分は既に完成している。

 すぐに営業を始めるわけでもないし、もう移っても問題ないだろう。




 俺達はシリスタの時よりも増えた荷物を狼に引かれた車に乗せ、ガリアスの街を出発した。


ガリアス編完結です。


済みません。以前ここには結構情けないことを書いていたのですが、最近では気分が持ち直しました。

あまりランキングを気にしすぎず、自分のペースで進めようと思います。

評価、感想、ブックマークをくださった方、本当にありがとうございました。

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