命がけの脱出
レイラが持っていたカンテラは、矢が貫通して壊れていた。
誰が射たのかなど考える間でもない。リザードマンだ。
弓を構えているリザードマンは一匹や二匹では無かった。
リザードマンは一斉に矢を放った。
ヤバい、これはさすがに避けられない……!
「皆さん、下がって!」
リネットが全員を庇うように前に飛び出した。
「錬成!」
リネットは持っていた銅の棒を巨大な盾の形に展開した。
盾に阻まれて、俺達に矢は一本たりとも届かなかった。
「今のうちに通路に!」
リネットが矢を防いでくれている間に、俺達は通路に戻ることが出来た。
「リネット! 君も早く!」
さっきから見ていると、リザードマンの動きはかなり戦術的だった。
矢を放つタイミングをずらすことで、リネットが盾を仕舞うタイミングを奪う。そして、その隙に野に巻き込まれないように注意しながら剣を持ったリザードマンが近づいて来ている。
だが、俺達とて手をこまねいているわけでは無い。
「ノア!」
「わかってる! ミミカ! 火!」
「分かった! アル!」
これだけで大体通じるのが凄い。
ノアは爆弾を取り出し、アルの炎で導火線に火をつけた。
「爆弾いくよ! リネットさん! ちょっと我慢して!」
ノアはリザードマンの方に爆弾を放り投げた。
爆弾の存在を知らないのか、リザードマンは大して警戒もせずに接近して来る。
それが命とりだ。
爆弾が爆発するのを見計らい、俺達は耳を塞いだ。
ドゴン! とすさまじい音を上げて、爆弾は採掘場の中央で爆ぜた。
爆発に巻き込まれたリザードマンは当然無事では済まないし、その勢いで飛んだ砂利なんかも馬鹿にならない殺傷力だ。
砂利は俺達の方にも飛んできたが、全てリネットの盾に阻まれた。
爆発の後には粉塵が巻き起こり、採掘場内の視界は極端に悪くなる。
今がチャンスだ。
リネットは盾を棒に戻し、通路に後退して来た。
錬成による負担に加え、爆発の際に耳を防げなかった。リネットはかなりつらそうだった。
「助かった。後ろに下がってくれ」
多分聞こえていないだろうから、その背中を押して俺の意図を伝える。
リネットは俺の意図が分かったらしく、素直に隊列の後ろに着く。
このまま逃げ切れたら最高なんだがな。中央広場から聞こえる足音は、リザードマンたちが確実に距離を詰めて来ているのを意味していた。
「ミミカ、リネットを連れて後退しろ。済まないがカンテラは渡せない。アルの火で何とかしてくれ」
俺はミミカにそう指示した。
「分かった!」
ミミカはリネットの手を引いて、その場を離れた。
「レイラ、俺と一緒にこいつらを食い止めてくれ。ノアは俺達の援護だ」
「任せろ!」
「了解」
危険な役割だが、二人は受け入れてくれた。
陣形としては、俺とレイラが採掘場から少し入った通路に構える。そこから少し離れた位置にノアがいるという感じだ。
俺はカンテラをノアに預け、槍に持ち替えている。
「おいでなすったぜ」
リザードマン達は完全に爆発の衝撃から抜けたらしく、最早走り寄って来ていた。
まずは二体のリザードマンが先行して来た。助走の勢いをそのまま載せて、リザードマンは剣を振るう。
俺はそれを槍で受ける。
「……くっ!」
中々に重い一撃。リザードマンは俺より体格が良く、力も強いみたいだ。
だが、技術はこちらの方が上だ!
俺は槍を傾けて、剣を受け流すようにした。
リザードマンの剣は俺の槍の上を滑り、遂には宙を切った。
その隙を逃す俺じゃない。
「おらあ!」
俺はリザードマンの首筋を槍で貫いた。流石にこれは即死だ。
俺はリザードマンの体を蹴って、槍を引き抜く。
「ギャウ!」
しかし、その隙を狙って、その後ろから新たなリザードマンが飛び出して来た。
「任せて!」
しかし、そいつはノアの矢を頭部に受けて絶命した。
少し余裕が出来たので隣に目をやると、レイラは既に二匹ものリザードマンを斬り伏せていた。
「よし、後退するぞ!」
俺達は、警戒しながら通路の奥に後退していく。
まだまだこっちに向かって来るリザードマンは多い。だが、俺達が殺した4匹のリザードマンの死体。それが壁となって後続の侵入を防いでいた。
今、リザードマンは通路に向かって殺到している、かなりの密度だ。
「ノア、確か後一個あったよな?」
「わかった」
勿論爆弾の事である。
ノアはカンテラの火を利用して、爆弾に点火した。
「二人とも下がって!」
そう言ってノアは今度は爆弾を転がした。
俺達は爆弾から逃げる様に通路を後退した。
リザードマン達は死体に阻まれて、俺達が何を企んでいるか気付いていない。
そして、やっと死体をどけて通路に入って来た瞬間に、
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
と言う訳だ。
今度の一撃こそ効いたらしく、リザードマン達は俺達を追ってこなくなった。
それでも俺達は、後ろを警戒しながら通路を後退していった。
結局、リザードマン達の追撃は無かった。
俺達は命からがらではあるが、リザードマンの巣から脱出することが出来たのだ。
ここから少しばかり、戦いが続きそうです。




