取り敢えずの方針
俺はリネットに案内されてロルカ村を一通り巡って来たわけだが……。 狭い。一言で言うなら狭い。
一つの村だというのに、2時間も掛からないで見て回ることが出来た。
人口で言えば100人かそこそこぐらいしかいないらしく、大体は全員が顔見知りだ。
それだけに他所者の俺が珍しいらしく、村人にはじろじろと見られた。あんまり歓迎されて無いっぽいな。これだから田舎は……。
まあ、この村を経済学的に分析すると、自給自足に近い感じかな。
おもな産業は農業か。それに、近隣の森に狩猟に向かう猟師や、近くの川に魚を釣りに行く釣り人。鶏や牛を飼っている人も数人、と言った感じか。
リネットの家は、この村で取れた小麦や牛乳を買ってパンを作る、と言う感じか。
……田舎だなあ。
リネットのパン屋に戻ると、マラカイさんとアナベルさんに迎えられた。
「ああ、丁度良かったよ! 今からお昼の休憩を取ろうと思ってね! 二人も一緒に食べないかい?」
「俺は食事をいただけるならありがたいですけど……店の方は良いんですか? 誰もいなくなるんでしょう?」
「構わないさ! お客さんだってその辺りはわかってくれるから!」
……田舎だな。日本のファーストフード店とかならあり得ない判断だ。利益を出す気が無いのか?
とまあ、それはともかく。俺達は店と隣接した家に帰り、少し早目の昼食をとることにした。
メニューは、焼きたての……フランスパンみたいな硬いパン。それと、野菜とほんのちょっと肉が入ったクリームシチューみたいなスープもの。
3人の様子を見ると、パンをシチューに浸して食べるみたいだ。俺も真似してやって見るが、これがなかなか美味い。メニューとしては質素だが、悪くないな。
「ねえ、ハルイチさん。ロルカ村、どうでした?」
リネットがキラキラした瞳で聞いて来た。
「ぼ、牧歌的でいい所だと思うよ」
社交辞令社交辞令っと……。流石に『ド田舎ですね』とは言えない。
「気に入ってもらえて良かったです!」
嬉しそうな顔をするリネット。
ちょっと罪悪感が……。
「気に入らんでいい。どうせすぐに出て行くんだからな」
対照的に、マラカイさんは厳しい顔だ。
「ちょっとお父さん!」
「だが、事実だろう? いいか、リネット。素性の知らない男を家に置くなんて、お父さんは許さんぞ」
「で、でも、村から追い出すような事……」
「この村に、余所者を好き好んで置きたがる奴がいるか?」
「働き手としてなら……」
「必要ないだろう。この村は今の状態で安定してるんだ。進んで余所者を引き入れることも無い」
まあ、何とも田舎の思考……。だが、村を出て行くのは俺としても不本意では無い。
庇ってくれるリネットには悪いが、俺も出て行くつもりだ。
「リネット、いいよ。マラカイさんの言う通りだ。俺はこの村にいるべきじゃない」
「そんな……」
「気にするな。俺はもっとワールドワイドでフレキシブルでクリエイティブな仕事をイノベートしていく人間だ。この村に収まる器じゃないのさ」
「わーるど……?」
「ふれきし……?」
「お前は何を言っているんだ」
俺の革新的なワードチョイスは、田舎者の彼らには通じなかったらしい。まあ、重要なのはそこでは無い。
大切なのはもっとビッグな仕事のある場所を目指すという事。異世界に来てしまった以上そこで成り上がりを目指すのが当然。それならば、こんな田舎に留まることは無い。
「兎に角、俺はもっと仕事がありそうな、都会の方に行くつもりです。その場所や行き方さえ教えてもらえれば、今日にでも出て行きます」
「ふん。それが良いだろう」
「ちょっと、お父さん!」
「何だ? 本人が良いと言ってるんだ。仕方ないだろう」
「そうだよ。リネット。追い出すようで心苦しいけど、ハルイチさん本人がそう言っているんだから。あたし達が口出すことじゃないよ」
リネットは相変わらず不満そうな顔をしていたが、渋渋と言った体で「はい」と頷いだ。
こうして俺、矢澤春一はロルカ村を出ることになった。