まずは調査から
俺はレイラに言った通り、朝一番で皆に金山を復活させる計画を話した。
莫大な金が掛かる事。下手をしたら命を落とす可能性すらあることなど、リスクの部分もしっかり伝えた。
だが、リネット達3人は、悩む素振りすら見せずに答えた。
「ハルイチさんがそう決めたなら、私は精一杯お手伝いするだけです」
「ミミカもいいと思うな! どんなことでも、挑戦は大事だよ!」
「ま、仕方ないかな。だって、それしか方法が無いんでしょ?」
俺は改めて、自分がとんでもなく仲間に恵まれていると感じた。
「みんな、ありがとう」
「私からも礼を言わせてもらおう」
揃って頭を下げる俺とレイラに、三人は笑って答えた。
「お礼を言われるような事じゃありません。私は自分でやりたいからやるんです」
「ミミカも!」
「ボクは、何かもらえるっていうなら貰うけどね」
相変わらずのノアに苦笑が漏れる。だが、こいつのふてぶてしい態度も、今の俺達には必要なのかもしれない。
「じゃあ、何から始めようか……」
「あ、それについてはボクから提案が」
意外なことに、ノアが真っ先に手を挙げた。
「何だ?」
「やっぱりまずは調査でしょ? 流れに水差すようで悪いけどさ。もし金山の魔物達が、ボク達の手に負えないぐらい強かったら、どうしようもないよ。他の全てが無駄になる。」
確かにそうだ。それしか方法が無いからと言って、絶対に行わなければいけないわけでは無い。むしろ後が無い状況だからこそ、冷静に事を運ばなければいけなかった。
「金山はガリアスの周辺にある。狼たちに車を引かせれば、今日の昼頃には着くぞ」
「本来ならもう少し準備したいところではあるが……」
「いや、いいよ! もうあんまり時間は無いんだし、多少の無理は承知だよ!」
やっぱりそうなるかな。
リネットとノアに視線を投げると、2人も首肯して返してくれる。
「なら、無理を言って済まないが、今日中に調査に向かうぞ!」
***
そうして俺達は狼に車を引かせて、ガレル金山を目指した。
話に聞いていた通り、整備されていない道と言うのは酷いもので、車に乗っているだけでも体が痛くなりそうだった。
これは確かに、普通の馬車で行き来するのは厳しいな。小回りが利く狼だから何とかなっているが……。
景色はどんどん緑の少ない、荒野へと姿を変えていった。
道の傾斜はどんどん急になっていき、俺達はついに車を降りて歩かなければならなくなった。
殺風景な道をひたすら上る事約30分。俺達の目の前に、大きな洞窟が姿を現した。
まだ金山として機能していたころの名残りか、壁にはカンテラが設置されていたり、そこらへんにツルハシなどが落ちていたりもする。
その中途半端に人の手の入った様子が、一層廃墟であることを強調する。
「なんか……不気味なところだね」
「どうした? ミミカ、怖いのかい?」
「こ、怖くなんてないよ!」
「ノア、あんまりミミカをからかうな。それよりほら、早くあれを出せ」
「はいはい……」
ノアは俺が背負っていた背嚢から、カンテラを取り出した。
植物性の油を使ったカンテラで、替えの油も準備しているので結構持つはずだ。
「じゃあアル、頼むよ」
「ギャウ!」
ノアがカンテラをかざすと、アルがカンテラに火を噴きつける。
灯心に火が灯り、周囲を温かく照らしだす。
「で、これ誰が持つの?」
「お前が最前線に立つのは危ないからな。私が持とう」
レイラがカンテラを受け取った。
「じゃあ殿は俺だな。そうすると……二番目はミミカだな。いざと言うときはレイラのフォローを頼む」
「分かったよ!」
「次はノア。お前の弓なら、前にも後ろに援護できるからな」
「はいよ」
「四番目がリネットだ。もしもの時は、俺のフォローを頼む」
「はい!」
これが、俺の考える一番の陣形である。
普段は陣形など考えないが、今回はまさにダンジョン探索のような物である。
歩く順番一つで生死が分かれかねない。
「では、行くぞ」
レイラを先頭に、俺達は金山の中に進行を開始した。
***
「当たり前だけど、暗いね」
本当に当たり前のことを言うノアだった。
いやまあ、そう言いたくなる気持ちもわかる。
なにせ、足元を照らすのはレイラが持っているカンテラのみ。
道が狭いおかげでその明りで足りているが、もうちょっと広くなるときついな。
「ねーハルイチ。やっぱり予備のカンテラ使ったらダメ?」
俺達は、もう一つカンテラを持ってきていた。だが、これは探索の途中でカンテラが壊れたりした時のためのものだ。
「気持ちはわかるが我慢してくれ。もし二つ同時に壊れたりしたら、下手すると帰れなくなる」
「……わかった」
俺だって本音を言うと使いたいけどさ。
「シッ! ちょっと静かにしろ!」
先頭を行くレイラが、急に立ち止まって言った。
言われた通り誰も言葉を発さない。
洞窟の中に静寂が満ちる……かと思ったら、何処からかバサバサと言う羽ばたくような音が聞こえて来た。
「上か!」
レイラがカンテラをかざすと、洞窟の天井付近に蝙蝠の群れが見えた。20匹近くはいるかもしれない。
蝙蝠は、一気に高度を下げて俺達に群がって来た。
「うわ!」
「きゃ!」
ノアとリネットが驚きの声をあげるが、俺にレイラ、ミミカは冷静に対処していく。
俺の世界の蝙蝠より多少は攻撃的みたいだが……所詮は蝙蝠だ。
槍や剣、鞭などの攻撃を受けた蝙蝠は、力を失って地上に墜落していく。
蝙蝠は不利を悟ったのか、一気に高度を上げて俺達から逃げた。
「中々団体行動の取れる連中だな」
「感心してる場合か! 連中が逃げるぞ!」
あまり脅威を感じる相手でもないが、数を減らすに越したことがないのは同意。
「任せて! アル!」
「ギャウ!」
ミミカの指示に従い、アルが蝙蝠の群れに突っ込んでいく。
体格に大きな差は無いが、いくら何でもドラゴンが蝙蝠に負けたりしない。
炎を吐き、爪を振い、アルは蝙蝠を確実に落としていく。
それでもすべては倒しきれず、何匹かは逃れて行く。
「ほら! ノア! なにぼさっとしてるの! アルが逃がしたのを!」
「あ、ああ!」
ミミカの声で我に返ったノアは、クロスボウで逃げる蝙蝠を撃ち落していった。
……しかし、跳んでいる蝙蝠を撃ち落すって凄い腕だな。
結局、2,3匹には逃げられたが、殆どの蝙蝠を倒すことが出来た。
「あーあ。ノアが最初っからちゃんと働けば全滅させられたのに。怖かったの?」
「う、うるさいな!」
さっきの仕返しとばかりにからかうミミカに、ノアは顔を真っ赤にして言い返す。
自業自得なので今回は庇わない。
「でも、びっくりしました……鉱山の魔物って、もしかして……」
「いや、いくらなんでもそれはないよ、リネット。こいつら程度で金山が封鎖されるわけはない」
それに、こいつらに半数も殺される傭兵ってなんだよ。
「ハルイチの言う通りだ。もっと強大な魔物がいるに違いない。注意しながら進むぞ」
俺達は再び、レイラを先頭にして歩き始めた。
***
しかし、それから1時間近く歩いても、何も現れなかった。
「おい、まさか本当に蝙蝠のせいで……」
半分冗談だが、半分本気だ。
「いや、流石にそれは無いだろう」
と言いつつも、レイラの声もさっきより自身が無さげだ。
「あ、道が開けてるよ!」
ミミカが前方を指さしながら言った。
「やっと採掘現場に到着した様だな」
狭かった通路もこれで終わりだ。俺達は、巨大な空洞に到着した。
明かりが弱すぎて、どれほどの広さがあるのかが把握できない。だが、下手したら俺の店位は盾らるスペースがありそうだ。
「見通しが悪いですね……」
「どうする? ちょっとバラバラになって探索してみる?」
ミミカの提案に、レイラは首を振った。
「いや、それはさすがに危険…………伏せろ!」
レイラが急に叫んだが、流石にすぐに対処できるものはいなかった。
「くっ……」
レイラは咄嗟にカンテラを体の前に構えた。
次の瞬間、カンテラに何かがぶつかって、壊れてしまった。
「カンテラが!」
「落ち着けミミカ! アルに火を吐かせろ!」
「うん!」
アルが咄嗟に火を吐いてくれたおかげで、手元位は見えるようになった。
俺は予備のカンテラを急いで取り出し、アルの炎に晒して火をつけた。
「何だってんだ!?」
俺がカンテラをかざすと浮かび上がった光景は、俺達の想像を遥かに超えるものだった。
採掘のために作られたいくつもの足場。その上に立っているのは……トカゲの姿をした化け物達。
そう、立っているのだ、二本の足で。
さらに、その腕には剣や弓などを持っている。
『リザードマン』。小説やゲームなんかではそう呼ばれているような存在だ。
金山の奥で俺達を待っていたのは、今までの動物との境が曖昧な存在じゃない。
正真正銘の『魔物』の類だった。
人にとってリザードマンのイメージは色々あるでしょうが、この世界でのリザードマンは、人の言葉が分からない、正真正銘の魔物です。
そして、その魔物の登場によって物語、そして世界観はさらなる広がりを見せる……予定です。




