4人目の仲間
ミミカのお蔭で発覚した衝撃の事実について考えるのは、残念だが後回しだ。
取り敢えずは街の混乱を収める必要があった。
俺達は中央部に戻って、魔物を駆除した旨を伝えることにした。
まずは俺の店に非難してきた人々に伝えたのだが、誰もが半信半疑と言う体でなかなか出て行ってくれなかった。
俺達が一緒に行くことを約束すると、ようやく数人が東部に向かうと言ってくれた。
俺達はそれらの人々に事実を見せて、拡散してもらう様に頼んだ。
少し時間は掛かるかもしれないが、これで騒ぎも収まっていくだろう。
そして、俺達がそこまでやった時、ようやくガリアスの衛兵たちが10人ほど到着した。
「君達! 大丈夫か?」
「魔物が出たって聞いて急いで駆けつけて来たんだが」
一体どこが『急いで』なのか。張り倒してやりたくなったが、それには俺よりも適任がいる。
「お前たち! 遅いぞ! 何をやっていた!」
「レ、レイラ様!?」
「な、何故ここに……」
レイラの顔は一般市民にまで知れ渡っているわけでは無いが、流石に衛兵は知っている。
その一喝の効果は絶大だ。
「そんなことはどうでも良い。
魔物は私達が全て片づけた。本来ならお前たちの仕事だ。これは職務怠慢と言われても仕方があるまい」
レイラに叱られた衛兵達は、皆一様に青ざめている。
「私とて、全ての責がお前たちにあるとは思っていない。出動には許可が必要だったりと、時間が掛かる理由もあろう。だが、それを差し引いても遅すぎる。現実に死人も出ているんだぞ!」
レイラの言う通り。それ程大人数ではないが、死人が出ている。怪我人を含めればもっと多い。
「少しでもその汚名を雪ぎたくば、街の復興に全力を尽くせ。第一に怪我人の手当て。その後は街の修繕、魔物の死体の除去、及び死傷者への補償だ。さあ、急ぎ取り掛かれ!」
『はい!』
衛兵達は、自分の仕事をこなすべく各地に散っていった。
「さあ、これでもう大丈夫だ。ガリアスの衛兵たちは、組織的な弱点として初動は遅いが、無能では無い。今言ったことぐらいなら、十分にやり遂げるだろう」
レイラは、俺達の方を振り向いて笑った。
「でも良いのか? 命令系統とか崩れるんじゃ……」
「大丈夫だろう。私は暫定的な指示をしたに過ぎない。町が落ち着けば、衛兵たちも改めて上官に指示を仰ぐさ。そう言うところは臨機応変にやらないとな」
そう言う物なのだろうか。
「えっと、話は終わった? ボク、帰っていいかな?」
ノアがうんざりしたような顔で言った。
「はあ……ボクは自分の工房だけ守るつもりだったのに……」
「ああ、悪かったな。だが、助かったよ」
「うん。感謝してよね」
ノアは偉そうに言って俺達に背を向けたのだが、
「でもまあ、ボクも助かったかな。ありがとね」
と背を向けたまま言った。
本当に素直じゃない奴……。
「あの人がノアさんですか?」
「なんかちょっと変な人だね」
初対面のリネットとミミカは、やはり俺と同じ感想を持ったようだ。
「しかし、ノアは大丈夫だろうか?」
「大丈夫ってどういうことだよ? 魔物は全部倒したんだぞ?」
「いや、ノアの工房の話だ。これだけ街が壊れているんだ。ノアの工房も、多少の被害を受けている可能性があるのではないか」
レイラの言う通りだ。元々あいつの工房はドアが吹き飛んでいたりする不用心な造り。猿に侵入されたとしてもおかしくは無い。
もしノアの工房が荒らされたとしたら、そこから連れ出してしまった俺達に全く非が無いとは言えない。
「一応様子を見に行こうか」
俺達は、別れたばかりだというのにノアの後を追った。
そしてノアの工房の前に辿り着いたのだが……。
「うわ、これは酷い……」
ノアの工房は、周囲の建物の中でも、一際酷く崩壊していた。壁や屋根なんか吹き飛んでいるし、窓もすべて割れて……ってちょっと待て。崩壊し過ぎだろ。猿にここまでの破壊活動が出来るか?
俺達は詳しい事情を聞こうと、工房に入った。
ノアは、入り口付近に呆然と立ち尽くしていた。
「ノア?」
「あ、ハルイチさん。どうしてここに?」
「やっぱり心配だから様子を見に来たんだが……」
「うん。予想以上に酷いね」
内部の様子を見て、リネットとミミカも悲痛な声をあげる。
「本当に酷いです……」
「うん。まるでガラクタの山だよ……」
残念ながらそれは元からだ。
しかし、それを抜きにしても内部は酷いことになっていた。
床や壁も所々焦げていたりするし、灰を被っていたりも……これ本当に猿の仕業か?
「あ、原因が分かった」
ノアは、工房の中に入り、ガラクタの山から何かを引っ張り出した。
それは、先程の猿の死体だった。その死体は体が焦げていて、結構悲惨な有様だ。
「こいつ……ボクの爆弾を誤って爆発させたな」
「お前……まだ爆弾持ってたのかよ」
「うん。いつか誰かに売れるかと思ってそこら辺に転がしといたのに……」
転がしとくな、そんなもん。
「あーあ……猿のせいで工房が滅茶苦茶だ……」
半分は自業自得だと思うんだけど。
とは言え、この状況には同情しなくもない。こんな工房じゃ、雨も防げないし、はっきり言って家として機能しない。
俺はリネット達に小声で相談した。
「なあ、みんな。ノアを俺達の店に誘ってもいいかな?」
俺がそう言ったら、反応は三者三様だ。
「ハルイチ……本気で言っているのか?」
「えっと、私はどちらとも言えないです……」
「ミミカは賛成! 仲間が増えるのは嬉しいよ!」
レイラを説得すれば何とかなるか。
「あいつの技術者としての腕は確かだ。雇えば絶対戦力になるぞ」
「それはそうかもしれないけど……」
「家を爆発させるような人はちょっと……」
やっぱりそれが一番の問題か。
「じゃあ、家の中では火薬の取り扱いを禁止にするから」
「しっかり約束させることが出来るなら、いいぞ」
「私もです」
「わかった」
俺は、頭を抱えるノアに近づいた。
「ノア」
「何?」
すごく不機嫌そうな顔で乃はこちらを向いた。
「君を雇いたいんだけど、どうだろうか?」
「それ、今する様な話?」
「今だからするのさ。俺の店は、基本的に衣食住支給だ。君は住む家を無くしたわけだし、悪くない話だろう」
「へえ、確かに。悪くないね」
「ただし、二つ条件がある。一つ目、俺は住処を無償で提供するわけじゃない。ちゃんと働いてもらう」
「働くって……何をすればいいのさ? 確かあんたの家って飲食店でしょ? 給仕でもすればいいの?」
こんな不愛想な変人にそんな仕事させられるわけがない。
「君の仕事は商品の開発だ。一般市民が欲しがるような、便利な道具を作ってくれ」
「設備さえ揃えてもらえれば、やるよ」
「よし、後二つ目の条件。当面火薬の使用は禁止だ」
「えっ……」
何故かノアは深刻な顔になった。
「火薬を使えない代わりに屋根のある家……火薬を使えるかわりに屋根の無い家……」
ぶつぶつ呟きながら葛藤している。こいつの人生で火薬はそこまで重要なものなのか。
再び顔を上げた時、ノアはまさに断腸の思いと言う顔をしていた。
「わ、わかった。受け入れる……」
……本当に火薬を使わせないかどうか、当面は見張る必要がありそうだな……。
***
その日の番、俺達はささやかながらもノアの歓迎会を催した。
いつもよりちょっと豪華な材料を使い、リネットが腕を振るった。
「へえ、美味しいじゃん。リネットさんって料理上手いんだ」
「そう言ってもらえて良かったです」
当然お互いの自己紹介なんかは終わっているので、今は名前で呼び合っている。
「お前は普段の食生活が終わってそうだったからな。今までどんなもの食って来たんだ」
「うーん。大体が豆、乾パン、水。これで生きてきたかな」
「よくそれで生きてこられましたね……」
「ほんと。ミミカなら絶対死んじゃうよ……」
まあ、これからこの家に住むのなら、食生活は改善されるだろうが……。
やはり話題の中心はノア。彼女の変人すぎる私生活は、中々話としては面白かった。
そんな話をしながら食事も終えて、俺達はそろそろお開きにしようかと思った時、ノアがこんなことを言い出した。
「そう言えばさ。みんなの名前は聞いたけど、まだ役割とか聞いてないな。みんな、普段はどんな仕事してるの?」
一番近くにいたリネットが最初に答える。
「私は調理がメインでした。最近は錬金術も始めたので、商品開発もしています」
「ああ。今日はありがとね。リネットさんの錬金術のお蔭で助かったよ」
「いえいえ」
次はレイラだ。
「私は主にこの周辺の流通ルートを確保する仕事だな」
「まあ、侯爵令嬢だしね。土地勘はあるよね」
「そう言う事だ」
続いてミミカ。
「ミミカは接客が主な仕事かな。ミミカ、サーカスにいたからお客さんを呼ぶのは得意だよ!」
「それは凄いね。いつか見てみたいよ」
「ノアの頼みならいつでもいいよ!」
そして、満を持して俺だ。
「俺は店長だ。仕事は全体の統括かな」
「ふーん」
何か俺の時だけ反応が薄すぎるぞ……。
「おい。俺は店長だぞ。もっと関心したらどうだ」
「だってよく分かんないんだもん。その仕事が。
リネットさんは錬金術。レイラさんは優れた土地勘。ミミカは大道芸。みんな自分の長所を活かしてる。ハルイチさんの特技って何……?」
「俺の特技……?」
そう言われるとちょっと困る。SNSで『いいね!』を集めるのは得意だけど、この世界では何の意味も無い。
俺は悩んだ末、こう答えた。
「い、意識が高い?」
「何それ。意味わかんないよ」
案の定ノアは呆れた顔になった。
しかし、次の瞬間には笑顔に変わった。
「しょうがないなあ。頼りないハルイチの為、ボクも力を貸してあげるよ」
そう言って笑うノアの顔は、悔しいが魅力的だった。
ノアがデレるのはもうちょっと先の様です。
キャラも増えて来たし、そろそろ登場人物のまとめでも書いてみようかと思います。




