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リネットの成長

「どうだ? リネット」

「…………やっぱり、難しいです」

「そうか……」


 夜のリネットの部屋。俺と彼女は二人きり。

 だというのに、俺達の間には艶っぽい展開など全く無かった。

 何せ俺達は今、新商品の開発をしているのだから。

 俺が彼女に作って欲しかったのは、『魔法瓶』である。

 この世界にまだない、普及していないのは確認しているし、リネットの錬金術の技術があれば作れないことも無いと思ったのである。

 これが開発できれば、大きな売り上げになる。お客さんには悪いが、かなりの高値を付けさせてもらう予定だ。

 さらに、魔法瓶が普及すれば、うちの紅茶の売り上げも増加するはずだ。早い話。茶葉では無く『淹れた紅茶』をお持ち帰りできるようになるからである。その味がいつまでも持つわけでは無いが、リネットが淹れた紅茶を店以外で飲みたい人はいるだろう。

 最近はミミカも相当紅茶を淹れるのが上手いので、リネットがいない日でも恐らくは大丈夫。

 だが、結果的に開発には失敗している。

 俺の落ち込む表情を見てか、リネットは慌てて説明する。


「り、理論上は出来るんですよ! でも私の技術が未熟なのと、その……」


 リネットは、酷く言い辛そうに言葉を紡ぐ。


「ハルイチさんの設計図が、その、何を描いているのかわからなくて……」


 ……俺のせい?

 俺はリネットに、『こういうものを作って欲しい』と書いた設計図を渡した。

 美術で『2』以上取ったことが無い俺にしては頑張ったのだが、やはり駄目か。

 もっと、こういう技術的に卓越した奴がいればな……。


 それから、俺とリネットは魔法瓶の製作を続けたが、全く上手くいかなかった。


***

 

 キンッ、キンッ、と言う金属がぶつかり合うような音で目が覚めた。

 それに続いて、


「甘い!」とか、「そこ!」とかいう気合の入った声が聞こえる。

 音の出所を探ると、どうも店の裏手らしかった。

 裏手には、申し訳程度の庭がある。

 個人の私室と大して変わらない程度の広さで、大したことが出来るわけでもないと思うのだが……。

 着替えて裏庭に出ると、そこではリネットが、1メートルぐらいの細長い銅で出来た棒を手にして、レイラに攻撃を仕掛けていた。

 レイラは、練習用の刃をわざと鈍らせてある剣でその攻撃を受けて行く。

 

「甘い!」


 レイラが剣を振ると、リネットの腕から銅の棒が弾き飛ばされた。

 そして、一気に間合いを詰めて、剣をリネットの首筋に当てる。


「一本、だな」

「うう……また負けてしまいました……」

「そう落ち込むな。武器を振るってきた年季が違うんだ。簡単に追いつかれたら私の方がへこむ」

 

 大体わかっていたけど、戦闘訓練だよなあ、これは。


「二人とも?」


 俺が声を掛けると、そこで初めて二人は俺に気が付いたようだった。


「あ、ハルイチさん。御免なさい、起こしてしまいましたか?」

「いや、そんなことはいいんだけど。今のは戦闘訓練だよな」

「はい!」

「何で?」


 俺が相当と、レイラは呆れたように言った。


「強くなるために決まっているだろう」

「いや、そうなんだけどさ。何でリネットは急にそんなこと始めたんだ?」

「急に、では無い」


 レイラは、少し咎める様に言った。


「リネットはガリアスに来てからずっと、こうして私と訓練をしていたぞ」


 ……マジか。何で俺は気が付かなかったんだ。


「言ってくれればよかったのに。そしたら、俺だって何か手伝いを……」

「お前は店の主だろう。一番気苦労も多い立場だ。余計な面倒を掛けないようにと、リネットが気を遣ったんだ」


 ……リネットらしいな。


「だが、リネットが強くなる必要があるのか?」


 俺は素朴な疑問としてそう言ったのだが、リネットは熱意に満ちた表情で答えた。


「私、もう嫌なんです! 戦いの時、一人だけ逃げるのは!」

「気にするようなことじゃないだろう。そんなことを気にするやつは、俺の仲間にはいない」

「私が気にするんです!」


 何だかいつもよりすごい迫力だ。


「『戦えない立場』と言うものに、リネットもずっと苦しんでいたのだ。察してやれ」


 そうだったのか……。考えたことも無かった。


「気付いてあげられなくて済まなかった……」

「そんな、ハルイチさんが気にすることじゃないです! 私が勝手に気に病んで……」

「二人共そのくらいにしておけ。ミミカが起きるまで頭を下げ合うつもりか」


 確かにそれは不毛だな。


「それより、もう一戦と行こうじゃないか」

「は、はい! お願いします!」


 リネットは銅の棒を拾い、もう一度構えた。


「行きます!」


 リネットが棒を振るう。言っちゃ悪いが、かなりどんくさい動きだ。

 案の定、レイラには簡単に剣で止められる。


「錬成!」


 しかしリネットがそう言うなり、銅の棒はその形を変え、レイラの剣に巻き付いた。

 これは……錬金術か!


「えいえい!」


 そのままリネットはレイラから剣を奪おうとしたのだろうが……。

 レイラが剣を引くと、あっさり体ごと引っ張られて転んでしまった。

 

「きゃあ!」


 棒を手放せばよかったのに……。


「リネット……私と力比べをするのは、流石に無謀と言わざるを得ないぞ」

「うう……」


 落ち込むリネットだが、俺はかなり感心していた。


「凄いな、リネット」

「慰めはよしてください……」

「慰めじゃないさ。錬金術を戦闘に応用するのか。これなら戦い方の幅がぐっと広がるな」

「だが、リネットはまだその能力を十分に発揮できているとは言えない」


 そうなんだよなあ……凄いことは出来るんだけど、それを使いこなせていない。


「も、もう一戦お願いします!」

「受けて立とう!」


 まだやるのか、と思ったが、真剣な二人に水を差すわけには行かない。

……今日は、久しぶりに俺が朝食を作ってやるか。

次回、久しぶりに戦闘パートになります。

新しい力、新しい仲間が活躍します。

お楽しみに。

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