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レイラの贖罪

俺とリネット、それにミミカとアルは、アルバーン侯爵家の屋敷にいた。

 半ば連行に近い形で連れてこられたのだ。午後は稼ぎ時だってのに……。

 改めて連れてこられた部屋を見回す。一言で言うなら豪華。

 敷き詰められた赤い絨毯。鎧や壺などの調度品。何の意味があるのかわからない、動物の剥製。一目で富豪の家だとわかる造りだ。

 主張が強すぎて、俺の趣味じゃないけどな。

 と、俺は現実逃避気味に部屋の中を見回していた。何故かと言うと、なんか怖いから。

 さっきから、リネットとミミカの機嫌が大変よろしくない。俺の一挙手一投足をにらむような視線で見つめてくるから、安易な言葉を発せられない。

 そんな謎の緊張した雰囲気の中、扉がノックも無しに開いた。

 何事かと思ったら、隠れるようにしてレイラが入って来た。


「みんな、巻き込んでしまって済まない」


 本当に心底申し訳なさそうに、レイラは頭を下げた。

 俺は何か慰めの言葉を掛けようとしたのだが、


「レイラさん。ハルイチさんの婚約者ってどういうことです?」


 リネット、一番気になるのはそこなのか?


「そうだよ! ハルイチは皆の物だよ! 独占は禁止!」


 それ以前に物じゃないんだけど。


「ああ、あれは嘘だ。あの場を乗り切る為、申し訳ないが嘘を吐かせてもらった。済まなかった、ハルイチ」

「まあ、俺はわかってたからいいけど……」


 問題は他の二人。


「良かったあ……」

「安心したよ!」


 何故か俺よりも安堵の表情を浮かべている。


「で? ここまで巻き込まれたんだ。話てくれるだろう? レイラの事情を」


 俺がそう言うと、レイラは諦めたように息をついた。


「そうだな、もう隠せないからな。いや、本当は隠すべきなどでは無かったのか……」


 自虐的な笑みを浮かべながらも、レイラは話し始めた。


「ジェフリー……あの男の言った通り、私はこの家で生まれた。アルバーン侯爵家の一人娘なんだ」


 ここまではわかっている事だ。


「何で家を飛び出したりしたんだ?」

「父親のやり方が気に入らなかったからだ」


 流石にそれでは説明不足だとわかっているのだろう。レイラはさらに言葉を紡いだ。


「具体的な想像は難しいかも知れないが、父親の仕事はアルバーンと言う地域、さらにはラオネルと言う国をさらに発展させるための行政を行う事だ。

 私も幼い頃は父上の様になるのだと必死に学び、体も鍛えていた。だが、いつの日か私は気付いたのだ。父上の政治は間違っているのではないかと」


 またずいぶんと話が飛躍したな。


「具体的にどういうことを見てそう思ったんだ?」


 レイラは苦渋に満ちた表情でこう答えた。


「言いにくい話になるが……ミミカのような子供が生まれるのは父のせいだ」

「え?」


 急に名前が出て来て、ミミカが素っ頓狂な声をあげる。


「ミミカ。君とアルは、竜使いを多く輩出する里から売られたんだったな?」

「確かそう聞いたけど……」

「父はそう言った類の人身売買を禁止する政策を行っていない。むしろ、推奨すらしている」

「……本当なのか?」

「ああ」


 ……それは、レイラが反発を覚えるのも無理が無いかも知れない。


「父はこう言っていた。

『竜使いの里は、我が国の大事な技術を生む地だ。その里を失うのは、この国にとって損失に他ならない。しかし、現在里の経済状況は思わしくない。だから、里は子供を余計に生み、商人に売る。商人はそれを買い取り、技術を必要とする者に売る。誰も損などしていない』」


 レイラの口調は淡々としていた。しかし、その声音は激情に満ちていた。


「何が『誰も損などしていない』だ! 実際にミミカのように傷つき、悲しむ子供がいるんだ! それをあの男は……! 国が栄えれば、商人が儲かれば何をしてもいいのか!」


 それはきっと、彼女が何度も父親にぶつけてきた言葉だったんだろう。


「だからレイラは、ミミカを買う金を出したのか?」

「そうだ。あの金は昔、父上に買ってもらった指輪を売って手に入れた。皮肉なものだ。そのような政策によって得た金で、売られた少女を買い戻したのだから」


 レイラは自嘲するように笑う。


「ミミカが傷ついているのは、結局のところ私の責任と言えなくもないからな」

「そんな……レイラは悪くないよ! 悪いのは……ミミカを売った両親なんだから……」


 ミミカは、レイラを慰めるように言う。


「ミミカ……ありがとう。だが、私はやはり自分が許せなかった。

 そして私は考えた。いつか父が死に、私がアルバーン侯爵となれば人身売買など止めさせることも出来る。しかし、それでは遅すぎる。その間にも、何人の子供が売られるか……。

 だから私は旅に出た。広い視野を、そして大きな力が欲しかった。父上の暴挙を止められるような強い力が」


 レイラは俺をまっすぐに見つめて行った。


「そうして私はハルイチに出会った。確か最初は一緒に傭兵をやるように誘ったんだったな」


 そう言えばそうだ。もうずいぶんと昔のことのように感じる。


「その時は断られて残念だと思ったが……再びあった時、お前はさらに強い活力に満ちていた。そして、お前に誘われた時、私は思ったんだ。この男と一緒なら、父を倒すことも出来るかもしれないと」


 それでレイラは、俺達と一緒に来たわけか。


「地道な方法ではあった。しかし、もしもハルイチが商人として成長すれば、アルバーン全域に影響を与えるような存在になるかもしれないと思った」


 まさか、そこまで期待を掛けられていたとは。


「これから私達4人で父と謁見することになるだろう。今すぐに何かを変えようとは思わない。ただ、今この屋敷に連れ戻されるわけにはいかない。だから、力を貸してくれ!」


 レイラは深く頭を下げた。


「当たり前だろ? 仲間じゃないか」

「そうですよ。私も微力を尽くします」

「ミミカも頑張る!」

「みんな……ありがとう」


 それからすぐに、レイラは自分の部屋へと戻った。必要以上に親密な関係に見られるのが好ましくないからだそうだ。



 

 そして、俺達はついにジェフリー卿との謁見を迎える。

リノリアの一件で不自然だったレイラの行動の謎が明らかになりました。

読み返していただけると納得できる……はず、多分。きっと。

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