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賢者アルミリア

「え? 何? どゆこと?」


 思わずもう一回桶に張った水を見てしまう。しかし、そこに移るのはどう見ても俺とは違う男の顔である。

 何て言うか、ちょっとワイルドなイケメンさん? 

 やだ、ちょっとタイプかも……。

ってふざけてる場合じゃない! どういうことだこれは!


『おお、やっと繋がりおったわ』


 混乱する俺の脳に、直接響くような声が聞こえて来た。

 妙に落ち着いた口調で、その癖妙にロリっぽい妙な声だ。


「な、何だ一体?」


 これ以上のドッキリ展開は勘弁してもらいたいものだ。


『お主がわらわの言う事を聞かぬせいで、大変なことになったわ』

「何だってんだ……?」


 頭の中の声は、俺の動揺など無視して好きなことを言い続けている。


『全く……お主に連絡を取るだけで、どれほどの苦労があったと思っておる?』

「いや、あの、話がさっぱり見えないんだけど……」


 脳内の声に返事をするのは妙な気分だが、相手には一応聞こえているらしかった。


『何じゃ? おぬしまさか全く覚えておらぬのか?』

「昨日はアルコールが入ってたもので、ちょっと……」

『はあ……』


 脳内の声は、あからさまなため息を吐いた。


『呆れ果てた阿呆じゃな。仕方がない。説明してやるからよく聞くがよい

 まず、最初の話じゃが、お主は死んだ』

「えっ……」

 

 一言目から既に恐ろしい超展開である。


『確か、急に度の強い酒を飲んだせいで死んだのじゃ。間抜けな奴じゃなあ』

「急性アルコール中毒か何かか? それ以前に死んだのなら、何でここでこうして……」

『ちゃんと説明するから、黙って聞け』


 その声は一拍置いてから、続きを話し始めた。


『まず、急性アルなんちゃらについては、よく知らん。お主の死因などどうでもよい。大切なのはその後の話じゃ。

 お前は死に、その魂は死後の世界に向かうことになった。じゃが、わらわが魔法でその魂を招聘し、転生させたのじゃ』

「何でそんなことを?」

『わらわは異世界の話を聞いたりするのが好きじゃからの。だから、記憶や身体能力はお前の前世のものを引き継いでおる。見た目だけは差別されんように、この世界に合わせてあるがな。……あと、何故か二日酔いも引き継いでおる様じゃが、それは不思議じゃな』

「いや、心底どうでも良いよ」


 本当に、何故二日酔いを引き継いだかとか、興味もわかないよ。


「それより、君は何者だ?」

『忘れたのか? 昨日教えたであろうに……。まあよい、わらわは偉大な賢者、アルミリア様じゃ』

「賢者?」

『その疑わしげな声音は何じゃ? わらわは本物の賢者じゃぞ』

「いや、そんなこと言われたって、いきなり信じるのは難しいし……」

『なら、少し瞳を閉じてみい。お前に、情報を送ってやる』


 半信半疑だが、言われるままに瞳を閉じてみる。すると……、

 少しぼやけてはいたが、こことは違う場所の光景が俺の脳内に広がった。

 暗い、光量の少ない部屋。その真ん中に黒ローブと帽子に身を包んだ、えらく小柄な少女が立っている。小学校中学年程度の背丈かもしれない。


「これが……君?」

『そうじゃ! 凄いじゃろう!』


 アルミリアはえへんと胸を張って見せる。そのあまりの子供っぽさからは賢者の威厳など微塵も感じないが、俺に映像を見せているのは確かなことである。

 魔法で俺の魂を呼び寄せたというのも嘘ではないのかもしれない。


『さて、話を戻すぞ。わらわはお前の魂を呼び寄せた。この際、一応お前の了承を取ったのじゃが、どうせ覚えてはおらんじゃろう?』

「済まないが、全く」

『じゃろうな……。あまり呂律も回っておらんかったしのう』

「そんな状態の奴から了承を取って意味があるのか?」

『グチグチとやかましいわ。わらわが声を掛けねば、お前はそのまま死んでおったのじゃぞ? 感謝の一つもしたらどうじゃ』


 理屈では感謝すべきなのかもしれないが、今一つピンと来なかった。

 だが、一応口先だけでも感謝しておこう。


「それは有難うな。ところで、魂を呼び寄せたのに、何で俺は君の所に居ないんだ?」

『それはお主のせいじゃ。わらわの下に招聘するためには、お前の協力が必要でな。具体的に言えば、わらわの下に来るように祈り続ける必要があるのじゃ。しかし、酔っておったお主は途中で祈ることを止めおった。そのせいで、途中で行方を見失ってしまったのじゃ』

「それで……俺はこのロルカ村とかいうところに来たわけか?」

『ロルカ村? 効いたことが無いのう。お主、何処の田舎に落ちたんじゃ?』


 聞きたいのはこっちだよ。しかし、アルミリアも知らないんじゃあ仕方ない。


『まあ、研究の片手間にではあるが、お前の居場所は探してやる。それまで精々生き抜け』

「待てよ! 俺、こっちの世界の事なんて何も知らないのに……!」

『頑張れ。……念話は疲れるから嫌いじゃ。もう切るぞ。今後、2日か3日に一回ぐらいは連絡してやるから。頑張って一人で生きて行くんじゃぞー』


 脳内に移るアルミリアは邪悪な笑みを浮かべて俺に手を振った。

 そして次第にその映像は薄れていき、遂には見えなくなった。


「おい! アルミリア? おい!」

 

 どれだけ声を声をあげても、アルミリアは返事をしなかった。

 周りの人間から変な目で見られただけだ。

 ……信じられん。転生させるだけさせといて、後の事は知らんときた。

 これからどうするか……。

 まあ、まずはリネットの下に戻るところからだよな。

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