最後の仕事
「さあ、着いたぞ。ここが俺達の店だ」
「うわあ……とっても素敵!」
ビッグロックとの死闘を終えた俺達は、リノリアに戻って数日間療養してから帰って来た。結局ウィリーさんの方が先にシリスタに帰っていたのだが、すぐに店を開け渡す訳でもないので、俺達は店に戻って来たのだ。
まあ、ここは自宅も兼用しているからな。ここ以外に帰る場所が無いと言うのもある。
「だが、ここはもうすぐ引き払うからな」
「ええー! 勿体ない!」
ちょっと空気の読めないレイラの発言に抗議の声をあげるミミカ。
「何、心配するな。今度はこれよりもっと大きい店を構えるからな!」
「うわー! 楽しみー!」
目まぐるしく変わるミミカの表情は、見ていて飽きない。
「あ、でも……ミミカがどうするかはミミカが決めていいぞ」
ぽつりとレイラが言った。
「どういう意味?」
「お前は私の金で買ったので、暫定的には私の所有物になる。だが、私はお前を拘束するつもりも無い。もしこの店に残りたいのなら、別に構わないぞ」
「いや! ミミカ、ハルイチたちと一緒に居る! 次の街にも付いて行くんだから!」
「……ならいい」
レイラはふっ、と小さく笑った。恐らくレイラだってミミカの答えはわかっていたのだろうが、生真面目な性格ゆえ、一応ことわっておかねば気が済まなかったのだろう。
「さ、難しい話はそれぐらいにしましょう。今ご飯作りますからね」
久しぶりに自分のキッチンに戻ってきたせいか、リネットも妙に活き活きしている。
「あ! 何つくるの!?」
「さっきいろいろな材料を買って来たから、色々な物が作れるよ。ミミカちゃんは何が食べたい?」
「えっと……あったかいシチュー!」
「了解。ハルイチさんとレイラさんもいいですか?」
「ああ。頼むよ」
「私も構わない」
「それじゃ! 腕によりをかけちゃいます!」
この日、ミミカは初めてリネットの料理を口にしたのだが……これが大層に気にいったらしく、何度も『美味しい、美味しい』と言っていた。
これからは、今まで以上に賑やかな食卓になりそうだな……食費もかさみそうだけどな。
***
それからの数日、俺達の仕事は殆どが引継ぎだ。
俺は店を運営する上でのコツや、仕入れの量。減価償却にどれくらいの費用が掛かるかなどを教えた。
リネットはウィリーさんと、それにバイトの子に対してパンの焼き方、紅茶の入れ方などを教え込む。これがなかなか時間が掛かった上に、リネットが完全に納得する仕上がりにはならなかった。だが、これ以上は本人に自分で努力してもらうしかない。
レイラは特にやることが無いようなので、ミミカとアルの相手でもしていてもらった。
少し話はそれるが、その間に俺とリネットは一度ロルカ村に帰った。
俺が借りた金貨100枚を返す為である。
今俺の貯金は店の売り上げをこつこつ貯めた金貨250枚に、店を売った金貨250枚で合計金貨500枚。金貨100枚を返済しても、まだ400枚も残る。
マラカイさんは、俺があまりにも早く返済した物だから驚いていた。
俺達はその日、ロルカ村に泊まった。俺とリネットは、ロルカ村を出てから色々なことがあった事。嬉しいこと、辛いこと、新しい仲間の事、色々なことを、夜が更けるまで話した。
マラカイさんとアナベルさんは、娘の成長を素直に喜び、これからも頑張れと応援してくれた。
結局時期が会わなくてシリスタの町に二人を招待するのは叶わなかった。俺はそのことを詫びたが、二人は笑って許してくれた。
俺はこの二人の為にももっともっと大きな店を構え、いつかリネットと幸せな暮らしが出来る様に頑張ろう。そう心に誓った。
***
とまあ、俺らがシリスタの町で最後にやったこと言えばそんな感じである。
そして、遂に今日。俺達はシリスタの町を旅立つ。
「じゃあな、あんちゃん。お前さんから買ったこの店、しっかり守っていくぜ」
「よろしくお願いします。ウィリーさん」
「ああ、あんちゃんも頑張れよ。お前さんなら、きっともっとでっかい商人に成れるぜ、頑張れよ!」
「はい!」
俺達は固い握手を交わし、別れた。
これにて、シリスタ編終了です。次からはもっと大きい街に舞台が移ります。
最近は戦闘が多かったので、もう少し商売のパートも書けたらいいかなと思っています




