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怪鳥ビッグロック

「ハルイチさん……」

「ハルイチ……」


 屋敷を出て少し歩いたところ。立ち止まった俺に、二人が縋るような目を向ける。俺は安心させるように、二人に笑いかける。


「心配すんなって。ミミカのことは絶対に見捨てない。

 さっきの話聞いただろ? そんな悪趣味な奴に、アルを売るわけにはいかない」

「ハルイチさん!」

「ありがとう! ハルイチ!」


 二人は感極まって抱き付いて来た。

 男冥利に尽きると言いたいところだが、内心はガクブルである。そんな°変態相手にどうすればいいのか。


「見つけたぞ!」


 しかもタイミング悪く、嬉しくない客が来た。簡易な鎧を身に着けた、4人の男に囲まれてしまった。十中八九、ミミカとアルを狙っている連中だろう。

 俺は咄嗟に折り畳み式の棒を取り出した。状況は悪い。

 俺一人なら問題ないが、今は庇うべき相手が2人……と思ったが、ミミカが俺の前に進み出た。その手には、サーカスなんかで使うような鞭が握られていた。


「ミミカも戦う。後ろの二人は任せて」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。これでもサーカスで鍛えられてる。それにアルもいるし」


 ギャオ! と鳴いてアルが応える。

 ……本当はこんな子供に戦わせたくないが、今は仕方ない。


「じゃあ、呼吸を合わせろ。一気に仕掛ける。リネット、その隙に逃げろ」

「は、はい!」

「それじゃ、行くぞ!」


 タイミングを合わせて、ミミカと一緒に攻撃を仕掛ける。

 まずは右側の男、足を狙うと見せかけて……胴体に一撃!


「ぐっ……!」


 いい感じにボディに入った。


「この野郎!」


 左側の男が殴りかかって来るが、遅い。今度は素直に足を狙う。

 フェイントを警戒していた男は、あっさりと転んだ。

 動けないでいる二人の胴にもう一撃ずつ食らわし、昏倒させる。

 よし! こっちはいい。すぐにミミカの下に……そう思って振り向いたのだが……。


「痛ててて! 離せ、離せ!」

「あ、熱ちいよおお!」


 俺が目にしたのは、大の男二人が悶絶している光景だった。

 片方は服に火が回っており、必死に消そうとしている。

 そしてもう片方は、アルに腕に噛みつかており、引き離そうと頑張っている。


「隙だらけだよ!」


 そんな無防備な男たちの足元を、ミミカは容赦なく鞭で引っ叩く。


「うわあ!」

「うお!」


 二人の男は、情けなく地面に転がった。


「アル、もう一人も燃やしちゃえ!」

「ギャウ!」


 ミミカの指示にを受け、アルが口から炎を吐いた。一応加減しているのか、死にはしないような威力だが……、


「あ、熱ちいよおおお!」


 服は十分燃やせるぐらいの勢いだ。


「み、水を!」

「水をくれええええ!」


 二人の男は、耐えられなくなって逃げ出した。

 その姿を確認した後、ミミカは自慢げな顔で振り返った。


「どう、ハルイチ? ミミカ達、結構強いでしょ!」

「ああ……正直ここまでとは思わなかった」


 やっぱりアルとの絆あっての戦い方なんだろうな。


「きゃああ!」


 と、勝利の余韻は悲鳴でかき消された。

 見ると、リネットが別の男に羽交い絞めにされている。

 しまったな……、他に隠れていたのか。


「こいつの命が惜しけりゃ、武器を捨て……」


 しかし、男は最後まで言葉を言い切ることが出来なかった。

 突如後ろから現れた人物に頭を殴られ、気絶したからだ。


「まったく、また荒事か。少しはじっとしていられないのか、お前は」


 呆れた口調で言いながら歩み出て来たのは……、


「レイラ。助かったぜ」

「ありがとうございました。レイラさん」

「これぐらいはお安い御用だ。で、今度は何……そっちの子供は?」


 レイラは言葉を切って、ミミカに視線を向けた。


「ミミカだよ! こっちはアル、よろしくね!」


 話の流れでレイラが仲間だという事はわかったのだろう。ミミカは笑顔で応えた。


「ドラゴンか、珍しいな……っと失礼。私はレイラ。見ての通り女剣士だ」

「女剣士! かっこいー!」


 無邪気な視線を向けられ、レイラは照れたように頭を掻いた。


「それで、こいつらは何者だ?」


 レイラは倒れた男たちを見下ろしながら言った。


「ああ、こいつらはサーカスの……」

「違うよ。ハルイチ。こいつら、団員じゃない」

「じゃあ、まさか……」

「うん。シムの手下だと思う」

「シム……だと……!?」


 何故かレイラが反応した。


「知っているのか?」

「あ、ああ。名前だけな。非道な男らしいな」


 とても名前だけには思えなかったが、今そこは重要じゃない。


「それで、なぜお前はシムの手下に襲われていたんだ?」

「それはだな……」


 俺は今までのいきさつ、そしてミミカとアルがどのような経緯でサーカスに入ったのかを話した。


「人身売買、か」


 レイラは短く言い捨てたが、その言葉の中には抑えきれない怒りが込められていた。


「ミミカ。君はアルと一緒に売られたんだな?」

「うん。そうだって聞いたよ」

「……やっぱりあの村か……」


 レイラは何やら意味深な言葉を呟いた。

 

「レイラ? 何か知っているのか?」

「それについては聞かないでくれ。いつか話すから」


 レイラの辛そうな表情を見ると、これ以上聞くのは躊躇われた。


「因みに、いくらあればミミカをサーカスから買えるんだ?」

「シムの指定した額は金貨200枚。220枚もあればこっちに売るだろうよ」

「そうか……ハルイチ。少しここで待っていろ」


 レイラは短く言い捨てて、去って行った。

 残された俺達三人は顔を見合わせたが、レイラを置いてどこかに行くわけにも効かない。

 もう一度襲撃されることがないよう、物陰に身を隠しながらレイラを待った。

 

 そして、1時間ほど経ってから、ようやくレイラは戻って来た。


「遅かったな。何をして……」


 文句の一つも言ってやろうかと思ったが、その前にレイラは布の袋を突き出して来た。


「何だ? これ」

「金貨だ。250枚ある。これでミミカを買ってこい」

「ええ!? い、いいの? レイラ!?」


 何よりも、ミミカ本人が驚いていた。


「構わない」


 そうは言っても、なかなか素直に受け取るのは難しい。


「レイラ。お前この金どうやって……」

「済まない。それも今は秘密にさせて欲しい。だが、違法なことに手は染めていない。それは誓う」


 俺だってレイラを信じていないわけじゃない。レイラがそう言うのなら間違いはないだろう。


「でもレイラ。何でミミカの為にそこまでしてくれるの?」

「……贖罪だ」


 レイラは短くそう言った。はっきり言ってまるで意味が分からないが、もう何を聞いても答えてはくれないだろう。

 俺は黙って金貨を受け取った。


「私は宿屋で待っている。ミミカとアルを買ったら戻ってこい」


 レイラは背を向けてそのまま去って行った。

 何が何だかわからないが、今は少しでも早くミミカを自由にしてあげよう。


***


さっき団員と揉めたので、団長と会うのには少し時間が掛かったが、理由を話せば渋々ながらもテントに入れてくれた。

 団長は小太りの初老の男性だった。


「金貨250枚ある。これでミミカを売ってくれ」


 俺はサーカスの団長と顔を合わせるなり、余計な修飾語を省いて切り出した。

 

「ほ?」


 俺がそう言うと、団長は一瞬何が何だかわからないという表情になった。


「ミミカから事情を聴いた。彼女とアルを引き離すなんて、俺には許せない。だから、俺が二人とも買い取る。いいな?」

「ですが、アルはシム様が目をつけておられて……」

「そんなの関係ない。俺はシムより高い金を払うんだ。売ってくれ」


 実際の所、富豪らしいシムならばもっと一杯出せるだろう。だから、何としても今この場で、値が吊り上がらないうちに買う必要があった。


「お、お断りします!」

「何故だ!」

「し、シム様は裏切れないのです! アルを他の方に売ったなんて言ったら、どんな目に遭うか!」


 何だか苛ついてきた。こんな小心者の男に、なぜあの少女の運命が左右されなきゃいけない。だが、小心者と言う性格は利用できそうだ。


「なら! 無理やり連れて行かれたことにしろ! 責任は全部! このハルイチにあると言えばいい!」

「ほ、ほう……」


 俺は殊更に声を荒げて言ってやる。

 この男は怖がりだ。その場その場で一番安心できる選択をするだろう。


「どうしても駄目と言うなら、俺にだって考えがあるぞ……」


 俺はこれ見よがしに棒を掲げて見せる。勿論本当に殴るつもりは無い。唯の威嚇だ。

 だが、小心者のこの男にはそれで十分。


「わ、わかった! 売ります! 売りますから!」

「どうも」


 俺は団長に金貨の袋を渡した。本当はこんな奴に金を払いたくはないが、流石にミミカを無断で連れて行くと俺が人攫いになってしまう。


「じゃあ、ミミカとアルはもらっていくぞ」


 俺は団長に背を向けた。


「ど、どうなっても知りませんよ!」


 団長は上ずった声で叫んだ。


「わ、私はあなたの名前を言いますからね! あなた、殺されますよ!?」


 忠告なのか、怖いから叫んでるだけなのかは知らない。

 だが、これ以上相手にする気にならない。俺は団長を無視して、テントを出た。


***


 そこから先の展開はかなり目まぐるしい。

 テントの外に待機させたリネット、ミミカと合流。それから宿屋に戻り、レイラと合流。荷物を纏めて宿屋を出て、ファニーさんの屋敷へ。ファニーさんとウィリーさんに事情を説明し、一足先にシリスタに戻ると報告。

 本当に目まぐるしいが、これは仕方がないのだ。これ以上この町に留まるのは危険だ。

 あの団長は間違いなく俺の名前を出すだろう。それに、一度シムの連中とやり合った以上、俺の顔も割れている。間違いなく襲撃はある。

 それから逃れるために、少しでも早くリノリアを出たかった。


「ハルイチ、リネット、レイラ……何かごめんね?」

「君が気にすることじゃない。俺達はやりたいようにやったんだ」

「そうだよ、ミミカちゃん。落ち込むこと無いんだよ?」

「二人の言う通りだ。ミミカは何も悪くない」


 落ち込むミミカを慰めながら、俺達はリノリアの街を出た。

 俺達4人と1匹は、出来るだけ急ぎ足でシリスタへの道を急いだ。

 整備された道を行っては目立つと思い、山道を選んだ。

 このまま山道に入ってしまえばきっとシリスタに無事辿り着ける。そう思った時だった。


「貴様がハルイチかあ!」


 何と、俺を呼ぶ声は上空から聞こえた。

 見上げると、そこには全長が3メートル近くはありそうな巨大な鳥が飛んでいた。

 鳥は、俺達の行く手を遮るように降り立った。

 改めて見ると、その姿は何とも獰猛そうだ。姿形は鷹の様だが、その毛はカラスの様に真っ黒。爪は鋭く伸び、赤い瞳が爛々と輝いている。


「あれは……ビッグロックか……」


 レイラが恐れを込めて呟く。

 ビッグロックか。レッドウルフなんかよりもよっぽど強そうじゃないか。

 そして、そのビッグロックから、一人の男が降り立った。

 病的なまでに痩せ細った、不健康そうな男だ。全身を金ぴかの装飾品で飾っており、悪趣味なんてもんじゃない。

「ハルイチ。あれがシムだ」


 レイラが耳打ちするように言って来る。

 知っているのは名前だけじゃなかったのか? と思ったが、さすがにそんなこと言ってる状況じゃない。


「貴様がハルイチだな!? サーカスの奴から聞いたぞ! ドラゴンを盗んだのはお前か!」

「盗んだなんて人聞きが悪い。俺は買ったのさ」

「どっちでもいい! さっさとドラゴンを渡せ!」


 ミミカが俺の服をぎゅっとつかむ。俺は安心させるように、彼女の頭を撫でた。


「嫌だね。あんたみたいな変態に、俺の大切な仲間は渡せない」

「今なら、命だけは助けてやるぞ?」

「やれるものならやって見たらどうだ?」


 はっきり言ってあんな鳥と戦うのは御免だが、ミミカとアルは絶対に渡せない。俺の答えはこれ以外許されなかった。


「ならば死ね!」


 シムの命令に従って、ビッグロックは空に舞った。

 一瞬地上に降りているシムを狙えば一瞬じゃないかと思ったが、俺達とシムの距離は20メートルほど。その接近をビッグロックが許すとも思えない。


「一旦退くぞ!」


 俺達は山道を駆け下り、平原に出た。


「レイラ。行けるな?」

「当然だ」


 俺とレイラは、武器を構えた。


「リネット、ミミカ、逃げろ」

「嫌だ! ミミカも一緒に戦う!」

「危険な状況なんだ!」

「だからこそだよ!」


 そうこう言っているうちに、ビッグロックは急降下して来た。


「っち!」


 俺はミミカを庇うようにして槍を振るった。

 何とかその爪を弾いたと思ったが、ミスって右腕を掠った。

 掠っただけだと思ったのに腕からは血が溢れ出す。


「ぐっ……!」

「ハルイチ!」


 ミミカは俺から離れようとしない。もうこうなったら仕方がない。


「分かった。なら一緒に戦ってくれ」

「うん!」


 ミミカが鞭を構え、アルが牙をむく。臨戦態勢だ。


「リネット! 君だけは逃げてくれ!」

「は、はい!」


 これを聞いてもらえなかったらどうしようかと思ったが、流石にリネットは逃げてくれた。

 ビッグロックの一番の狙いはやはりアルらしく、逃げるリネットを襲うような真似はしなかった。


「ハルイチ! 来るぞ!」


 ビッグロックは、また急降下をしてきた。今度は嘴の攻撃だ。

 俺は槍で嘴を弾こうとしたが、力負けしてぶっ飛ばされてしまったった。

 だが、そのおかげでビッグロックが地上近くで一瞬止まった。


「そこだ!」

「えい!」


 その隙を逃さずレイラとミミカが武器を振るうが、タッチの差で空に逃げられてしまう。


「捉えられないか……」

「どうしよう……」

「諦めるな。まだ機会はある。俺が隙を作るから、羽を狙え。地上に落としてしまえば、俺達の勝ちだ」


 再びビッグロックは急降下して来た。爪による攻撃だ。

 先程と同じように槍で攻撃を弾こうとしたのだが……、


「ぐっ……」


 しまった、今更になって右手に痛みが……。

 一瞬遅れた俺の動きを逃さず、ビッグロックは爪を振るって来る!


「ハルイチ!」


 レイラが俺を庇うように飛び出して来た。

 俺はレイラに突き飛ばされて爪を避けることが出来た。

 しかし……。


「ぐう……」


 レイラが膝をつく。

 見ると、その左肩から血がだくだくと流れている。


「レイラ!」

「大丈夫!?」

「大丈夫だ……私はいい、鳥から目を離すな!」


 ビッグロックは既に宙高く飛び上がっていた。

 ……状況が悪すぎる。俺は右手、レイラは左肩を負傷。

 相手に攻撃を加える手段は未だわからず。

 ……くそ、せめて俺達が飛べたら…………そうだ。

 俺はミミカに視線を向ける。その隣には、チビドラゴンのアルが飛んでいる。こいつ、空飛べるじゃないか

 流石にこいつがビッグロックとタイマンで勝つことは出来ないだろうが、俺らが手助けしてやれば……。


「二人共! 聞いてくれ!」


 俺は急いで、二人に作戦を話した。


「できるか? ミミカ」

「当然! ミミカとアルを舐めないでよね!」

「レイラ、お前は?」

「たったの1回で良いなら、全力で持たせよう」

「頼むぞ、次あいつが下りて来たときが勝負だ」


 俺達は作戦に沿ったフォーメーションを展開した。

 そうとも知らず、ビッグロックは俺に狙いをつけて急降下して来る。しかし、今度はレイラが俺の横に跳び出して、ビッグロックの爪を一緒に受ける。

 今までは俺が囮になってレイラが剣を振るっていたため、一瞬しか持たなかった。しかし、レイラと俺が二人で爪を受ければ、数秒は地上に繋ぎとめることが出来る……!


「今だ! ミミカ!」

「了解! いっけー! アル!」


 ミミカの指示に従い、アルがビッグロックの背中に張り付く。

 通常は絶対に追いつけないだろうが、地上で止まっているビッグロック相手なら可能だ。

 それを見届けた俺達は、武器を引いて爪を避けた。

 ビッグロックは今までと同じように空高く舞い上がったが、ここから先の展開はさっきと違うぞ。


「アル!」


 ミミカの声を聴いたアルは、へばりついたビッグロックの背中に炎を吹きかけた。


「ギャアギャア!」


 痛ましい悲鳴をあげて、ビッグロックは暴れ出す。しかしアルは小さくても竜だ。その程度で引きはがされはしない。

 むしろ、積極的に背中を這い、場所を変え、ビッグロックの全身に炎吹きかけて行く。

 そして、その炎が両の羽にまで到達したとき、ビッグロックは急速に高度を下げた。

 そこまでやって、アルは地上に戻って来た。


「アル! 良くやったよ!」

 

 ミミカに褒めれたアルは嬉しそうに鳴いた。

 ビッグロックの弱点は、巨大すぎたことだ。だからこそ小回りが利かず、体に張り付いたアルを引きはがすことが出来なかった。

 全身を燃やされたビッグロックは最早急降下する力などなく、高度を下げつつも何とか飛んでいるという状況だ。


「な、何をやっている! さっさとあいつらを殺さんか!?」


 状況の読めないシムが山から下りて来てビッグロックを罵る。

 しかし、羽を燃やされたビッグロックにはもう戦う力は残っていない。


「ええい! さっさとしろ!」


 シムは相変わらず喚き散らしている。

 だが、そろそろビッグロックは飛ぶのすら困難になっていたのだろう。

 朦朧とする意識の中、その鳥は帰巣本能なのか知らないが、飼い主の声のする方に飛んでいった。……確実に高度を下げながら。


「違う! こっちじゃない! あっちだ! あいつらを殺すんだ!」


 シムは未だに、自分の声がビッグロックを呼んでいるのに気が付いていない。


「おい待て! こっちに来るな馬鹿! おい!」


 シムもさすがにおかしいと思ったらしいが、もう遅い。ビッグロックはもう飛べない状況。その最後の力を使い果たして飼い主の下に墜落した。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!」


 嫌な断末魔を上げながら、シムはビッグロックに体を潰された。


「馬鹿な奴だ……。黙っていればビッグロックを呼ばずに済んだものを」


 あれではもう生きてはいまい。


「はあー……終わった」

「流石に、疲れたな」


 負傷した俺とレイラは、その場に座り込んだ。


「ハルイチさん!」

「レイラ!」


 リネットとミミカが駆け寄って来た。


「大丈夫ですか!?」

「死なないよね!?」


 大げさな二人に曖昧な笑いを返し、俺とレイラは答える。


「大丈夫だよ」

「アルとミミカがいなかったらどうなっていたかわからなかったがな」

「そうだな。本当にお手柄だ。ミミカ、アル」

「ううん。そんなこと無い。二人共、ミミカの為に怪我して……本当にごめんね……」

「いいんだよ」


 俺は力を振り絞ってミミカの頭を撫でた。


「俺達はもう、仲間なんだから」

「仲間……うん! そうだね!」


 そう言って笑うミミカの顔は、今までで一番輝いていた。

ミミカとアルの物語はここで一区切りです。

後一話でシリスタ編は終了。次の街に向かいます。

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